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第二巻:夏は、夜
蒸し×むし
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予想外にサバイバルな昼食も終わり、のんびりとした午後だった。
面談は終わっているので、夕食まで、自由行動だ。
とはいえ、真夏の暑い日中、エアコンの効いた別荘から、外へ出る者はいなかった。
まだ気温が低いはずの朝ジョギングでの大谷の汗ダクぶりで、引いたせいもあるだろう。
明日は、購入予定の焼きたてパンで朝食の後、ここを出るので、途中の昼食をどこで摂ろうとか、今夜の夕食は余り物でなので何を作ろうか、などが話されているのを缶ビール片手に眺めていた。
「あれ?ヨーグルト全部、食べちゃった?」
厨房から、あみが顔を出し、声をかけてきた。
オヤツには、まだまだ早いというのに、もう小腹が空いたのか?
「ボクがオムライスに使ったけど、残ってたよ」
ミホの答えに、「ということは」と皆の視線が、風呂場の方へ向いた。
志方が、薄モザイクをとるために、入浴しているのだ。
「昼食から、そんなに経ってないぞ。オヤツには、早いんじゃないか」
「だって、たくさん休めたから、お腹減っちゃって」
それは良いことだが、マネージャー共々、食べすぎ大丈夫か。
「では、蒸しケーキを、つくりますか?」
腹ペコお嬢様の声を聞いたメイドの提案に、
「うん!つくりたい!」
「食べてみたいです」
あみが、大きな声で返事し、おずおずと小さく志桜里も手を挙げた。
志桜里は、ホワイト・ソースをつくったことから、調理への熱意が上がっているのかもしれない。
あみは、食欲だけだろうが。
「ベーキングパウダーがないから、膨らみが小さいと思いますけど」
「材料が足りないなら、失敗してもしかたないな」
フォローのつもりで言ったら、睨まれた。
嫌味なら、もっとセクハラなことを言うぞ、膨らみ加減だけに。
考えただけで、表情には出さなかったはずなのに、あみとメイドに平坦な目で見られた。
視線が、下がらないように、必死に努力する。
さっそく、厨房でお菓子教室が始まった。
もうアレンジ勝負はないだろう、と安心していたら不穏な声。
「あれ?苺ソースないよ」
「志方さんが、オムライスで、たくさん使っているのは見ました」
『あー』
きっと、皆が見ているだろう方向へ、俺も視線が行く。
逆に、あの食べ方で、あの体型なのは、すごいことかもしれない。
「保冷剤、もう少しありませんでしたっけ?明日の余った食材持ち帰り用に、冷凍しておこうと思ったのですが」
茜に、あみが答えた。
「志方さんが、暑いからって、ベッドに持ち込んでた」
『あー』
水枕の代わりか。
でも、これは、同室のあみが冷房で冷えないような配慮だと評価できる。
「ミックスナッツに、レーズンとかドライフルーツ入ってるよ!」
ミホに、つまみを取り上げられた。
つい、缶ビールは奪われないように、急いで持ち上げた拍子に、結露がテーブルにバラ噛まれる。
「チョコチップクッキーから、チョコ取る?」
なんだか、節約お料理術みたいになってるな。
「二十分くらいで蒸しあがるって」
思ったより、早くリビングに戻ってきた。
「小分けでつくると思ってましたが、お皿で、しかも炊飯器でできるんですね」
志桜里の言葉で、指導者を見る。
てっきり、俺も拳大複数のできあがりだと思っていた。
「小分けの容器をアルミ箔でつくるのも大変ですから。大きくつくったので、切り分けて頂きましょう」
言いながら、俺が濡らしたテーブルを拭く。
できるメイドだな。
しかも、少し厚みのある専用カップでなくアルミ箔での容器だと、剥がすときに小さいのが残りそうだ。
それを噛むをこと想像して、背筋が凍る。
切り分けた俺の分に、罠をしかけるなよ?
「冷蔵庫に、冷えたペットボトルが少なかったので、足しておきました」
有能さをアピールする志方だったが見ると、その姿はフルモザイクに逆戻りしていた。
バスタオル一枚で腰に手を当て、ごっくごく水を飲んでいる。
「ぷはーっ」
フルーツ牛乳じゃないのが残念だが、ふぱーっと飛沫を撒き散らしているので、ただの水で良かった。
どこから取り出したか不明な、巨大なバスタオルで、あられもない姿を覆うレイチェル。
「さ、あちらで着替えましょう。メイクもしてさしあげます」
もごもご言う「てるてる坊主」みたいな志方を引きずっていく。
できるメイドだな。
「では、ケーキが蒸しあがるまで、イントネーション・ゲームもどきをしましょう」
こう言ってはなんだが、志桜里が中心になっているのは珍しい。
食堂のテーブルには、他に大谷、あみ、美穂が集まっていた。
仕方は、レイチェルに連行され、茜もついていった。
形山は、向かいのソファーで船を漕いでおり、津々木は、その隣で膝に乗せたPCへスマホに書き込んだメモを打ち直している。
研究などのアイディアを出先で思いついたとき、そうやって記録に残すそうだ。
そういえば、作曲家が、フレーズを鼻歌で録音するとか聞いたことがある。
俺は、キーボードは打刻音がするのが好きだが、ラップトップだからか、ソフトタッチだからか、ほとんど音がしない。
スマホを左手に右手でのみだが、画面を見ながら流暢なブラインドタッチだ。
俺も左手にはスマホだが、右手には缶ビールで、電子書籍を読んでいた。
優雅な午後だ。
「本当は、お題の言葉を、カードにいくつか書かれたシチュエーションから選んで、どれだったかを当てるゲームです」
例えば、お題の言葉が「はい」で、シチュエーションを「仕事中に」を選んだら出題者が、その雰囲気で言い。
回答者は、他の「電話中に」「ご飯を食べ終わった直後」「上司と不倫中を見つかって」などから、どれで言ったかを当てるゲームのようだ。
「でも、演技のお遊びなので、シチュエーションは、周りの人が言って、演技者は即興で応えます」
だから、もどきか。
どうやら、大谷の「演技を学びたい」から、話が始まっていたようだ。
確かに、周りを囲んでいるのは、今後に演技を考えているメンバーだ。
志桜里は白いワンピース姿のせいか、なんだか村の子供たちを集めた先生にも見えた。
ミホは、ちょっと出役とは方向性が変わりそうだが、「教える」には、演技力も必要なのかもしれない。
「ではまず、志桜里がやってみせますね。初めなので、言葉は『はい』で。シチュエーションをどうぞ」
「あー。学校の先生に名前を呼ばれて」
とミホ。
「はい!」
「苦手な先生に呼ばれて」
「・・・はい」
「えーと、病院で呼ばれて」
と、あみ。
「はい」
確かに、どれも微妙に違うな。
まだ出題してない、大谷に視線が集まる。
「あ、えと。ベンチプレスが持ち上げられたとき」
「べ?・・・はいっ」
知らなかったらしく、その手の動きは、ウエイトリフティングだ。
でも、重い感じが出てるのは、さすがだ。
「先輩に呼ばれて」
「はい!」
演技とは思えない自然な良い笑顔だった。
「先輩」は、俺の呼び名以外にも、先達としてたくさん存在しているのだが。
志桜里が、平坦な表情のあみに気がついて、
「・・・こほん。こんな感じです」
「難しい、これ」
「しおりん、身体を使って演技してもいいんだよね?」
「はい。ゲームの方では禁止ですが、今回は演技重視なので。表情も、演技してくださいね」
「はーい」
大谷は、神妙そうな顔で緊張しているみたいだ。
しきりに、生唾を飲んでいる。
「先輩、お題は?」
俺が聞いているのに、気がついていたか。
「じゃあ、『ありがとうござます』で。『ありがとう』でも良いぞ」
「では、大谷さんが演技者で」
「ありがとうございます」
いや、まだはじまってないぞ。
「サインを求められて」
と志桜里。
「あ、ありがどう、ございまず」
ファンに緊張している演技なのか、演技への緊張かわからないな。
「番組の出演が決まって」
と、あみ。
「ありがとうございます!」
「それが、減量期の大食い企画だった」
と俺。
「あ、ありがとう。ございますぅ」
お、今のは、実感が籠ってるぞ。
「用意されたお弁当が、中学生男子が食べるみたいなガッツリしたヤツばっかり」
「あ、ありがと」
ミホも、映画撮影のとき、それで困ったのか?
肉体労働の技術さんは、そういうの好むからな。
「お上手でしたよ、大谷さん」
「うん、心入ってた」
「うまいうまい」
三人とも絶賛する。
「ありがとうございます」
シチュエーションが、特殊すぎたが、って俺のせいか。
素人考えだが、極端な演技の方が、やりやすそうだから、そっちからの方が良いのかもな。
「では、次はミホさんで」
「緊張するね!」
それは意外だ。
一発勝負のコンテスト出場で、慣れている、と勝手に思っていた。
いやだから、緊張をほぐすストレッチが、可動域が大きくて気持ち悪い。
大谷の目も口も、あんぐりあいてるぞ。
「先輩、お題は?」
自分でも、考えような。
「うーん。じゃあ、『はじめまして』」
「おー」
だから、首が取れちゃわないか、その動き。
「初めての現場入りで」
と志桜里。
「はじめまして!」
元気いいのは良いが、驚いた技術さんがビクッと止まりそうだな。
「楽屋に、知らない人が入ってきたら」
と、あみ。
「誰、じゃなくて、はじめまして」
「それが、新人マネージャーをだと紹介されたとき」
志方の支度が終わったのか、飽きたのか、戻ってきた茜からの出題。
「はじめまして!」
俺のマネージャーが、横眼で見てきてますが、茜との初対面のときは、ちゃんと「はじめまして」してないのか?
前職セクシー女優情報での驚きで正直、覚えてないが、この視線なのは、そういうことなのだろう。
俺は、改めて敏腕マネージャーに深々と頭を下げ、満足気に頷く茜。
「パーソナル・トレーナーに合ったとき」
「はじめまして!」
元気さで乗り切ろうとしてないか。
「ちょ、ちょっとまって。違いが出せないよ、ほとんど!」
「確かにそうですね」
「お題が悪いんじゃない?」
非難の目が、俺に集まる。
「そう言うなら、あみへのお題は、ミホだ」
「えー。あー。『大好き』」
「では、『大好き』のシチュエーションは、チョコレートをもらって」
「大好き!」
ウチの事務所は、盗聴器騒ぎから、ファンからの食べ物は受け取らない方針を発表しているが、あみのところは、どうだったっけ。
アイドルなんだから、もらった食べ物には、気をつけような。
「ダンスとストレッチが?」
とミホ。
「だ。だいすき」
振り付けとストレッチで、ミホにシゴかれてたな。
「勉強が?」
と俺。
「だ。だいすき」
アイドルか本音本人、どちらの演技にするか、先に決めておけば良かったか。
「あみりん、アイドル忘れてる」
「えー、だって」
ミホも、同じことを考えたようだ。
「スポットライトが」
「大好き」
大谷の出題に応えてから、顔をしかめる。
「なんか、ダメなアイドルになってない?」
みんながそう思ったが、「そんなことないですよ」の顔の演技は、ゲームの成果か上手だった。
面談は終わっているので、夕食まで、自由行動だ。
とはいえ、真夏の暑い日中、エアコンの効いた別荘から、外へ出る者はいなかった。
まだ気温が低いはずの朝ジョギングでの大谷の汗ダクぶりで、引いたせいもあるだろう。
明日は、購入予定の焼きたてパンで朝食の後、ここを出るので、途中の昼食をどこで摂ろうとか、今夜の夕食は余り物でなので何を作ろうか、などが話されているのを缶ビール片手に眺めていた。
「あれ?ヨーグルト全部、食べちゃった?」
厨房から、あみが顔を出し、声をかけてきた。
オヤツには、まだまだ早いというのに、もう小腹が空いたのか?
「ボクがオムライスに使ったけど、残ってたよ」
ミホの答えに、「ということは」と皆の視線が、風呂場の方へ向いた。
志方が、薄モザイクをとるために、入浴しているのだ。
「昼食から、そんなに経ってないぞ。オヤツには、早いんじゃないか」
「だって、たくさん休めたから、お腹減っちゃって」
それは良いことだが、マネージャー共々、食べすぎ大丈夫か。
「では、蒸しケーキを、つくりますか?」
腹ペコお嬢様の声を聞いたメイドの提案に、
「うん!つくりたい!」
「食べてみたいです」
あみが、大きな声で返事し、おずおずと小さく志桜里も手を挙げた。
志桜里は、ホワイト・ソースをつくったことから、調理への熱意が上がっているのかもしれない。
あみは、食欲だけだろうが。
「ベーキングパウダーがないから、膨らみが小さいと思いますけど」
「材料が足りないなら、失敗してもしかたないな」
フォローのつもりで言ったら、睨まれた。
嫌味なら、もっとセクハラなことを言うぞ、膨らみ加減だけに。
考えただけで、表情には出さなかったはずなのに、あみとメイドに平坦な目で見られた。
視線が、下がらないように、必死に努力する。
さっそく、厨房でお菓子教室が始まった。
もうアレンジ勝負はないだろう、と安心していたら不穏な声。
「あれ?苺ソースないよ」
「志方さんが、オムライスで、たくさん使っているのは見ました」
『あー』
きっと、皆が見ているだろう方向へ、俺も視線が行く。
逆に、あの食べ方で、あの体型なのは、すごいことかもしれない。
「保冷剤、もう少しありませんでしたっけ?明日の余った食材持ち帰り用に、冷凍しておこうと思ったのですが」
茜に、あみが答えた。
「志方さんが、暑いからって、ベッドに持ち込んでた」
『あー』
水枕の代わりか。
でも、これは、同室のあみが冷房で冷えないような配慮だと評価できる。
「ミックスナッツに、レーズンとかドライフルーツ入ってるよ!」
ミホに、つまみを取り上げられた。
つい、缶ビールは奪われないように、急いで持ち上げた拍子に、結露がテーブルにバラ噛まれる。
「チョコチップクッキーから、チョコ取る?」
なんだか、節約お料理術みたいになってるな。
「二十分くらいで蒸しあがるって」
思ったより、早くリビングに戻ってきた。
「小分けでつくると思ってましたが、お皿で、しかも炊飯器でできるんですね」
志桜里の言葉で、指導者を見る。
てっきり、俺も拳大複数のできあがりだと思っていた。
「小分けの容器をアルミ箔でつくるのも大変ですから。大きくつくったので、切り分けて頂きましょう」
言いながら、俺が濡らしたテーブルを拭く。
できるメイドだな。
しかも、少し厚みのある専用カップでなくアルミ箔での容器だと、剥がすときに小さいのが残りそうだ。
それを噛むをこと想像して、背筋が凍る。
切り分けた俺の分に、罠をしかけるなよ?
「冷蔵庫に、冷えたペットボトルが少なかったので、足しておきました」
有能さをアピールする志方だったが見ると、その姿はフルモザイクに逆戻りしていた。
バスタオル一枚で腰に手を当て、ごっくごく水を飲んでいる。
「ぷはーっ」
フルーツ牛乳じゃないのが残念だが、ふぱーっと飛沫を撒き散らしているので、ただの水で良かった。
どこから取り出したか不明な、巨大なバスタオルで、あられもない姿を覆うレイチェル。
「さ、あちらで着替えましょう。メイクもしてさしあげます」
もごもご言う「てるてる坊主」みたいな志方を引きずっていく。
できるメイドだな。
「では、ケーキが蒸しあがるまで、イントネーション・ゲームもどきをしましょう」
こう言ってはなんだが、志桜里が中心になっているのは珍しい。
食堂のテーブルには、他に大谷、あみ、美穂が集まっていた。
仕方は、レイチェルに連行され、茜もついていった。
形山は、向かいのソファーで船を漕いでおり、津々木は、その隣で膝に乗せたPCへスマホに書き込んだメモを打ち直している。
研究などのアイディアを出先で思いついたとき、そうやって記録に残すそうだ。
そういえば、作曲家が、フレーズを鼻歌で録音するとか聞いたことがある。
俺は、キーボードは打刻音がするのが好きだが、ラップトップだからか、ソフトタッチだからか、ほとんど音がしない。
スマホを左手に右手でのみだが、画面を見ながら流暢なブラインドタッチだ。
俺も左手にはスマホだが、右手には缶ビールで、電子書籍を読んでいた。
優雅な午後だ。
「本当は、お題の言葉を、カードにいくつか書かれたシチュエーションから選んで、どれだったかを当てるゲームです」
例えば、お題の言葉が「はい」で、シチュエーションを「仕事中に」を選んだら出題者が、その雰囲気で言い。
回答者は、他の「電話中に」「ご飯を食べ終わった直後」「上司と不倫中を見つかって」などから、どれで言ったかを当てるゲームのようだ。
「でも、演技のお遊びなので、シチュエーションは、周りの人が言って、演技者は即興で応えます」
だから、もどきか。
どうやら、大谷の「演技を学びたい」から、話が始まっていたようだ。
確かに、周りを囲んでいるのは、今後に演技を考えているメンバーだ。
志桜里は白いワンピース姿のせいか、なんだか村の子供たちを集めた先生にも見えた。
ミホは、ちょっと出役とは方向性が変わりそうだが、「教える」には、演技力も必要なのかもしれない。
「ではまず、志桜里がやってみせますね。初めなので、言葉は『はい』で。シチュエーションをどうぞ」
「あー。学校の先生に名前を呼ばれて」
とミホ。
「はい!」
「苦手な先生に呼ばれて」
「・・・はい」
「えーと、病院で呼ばれて」
と、あみ。
「はい」
確かに、どれも微妙に違うな。
まだ出題してない、大谷に視線が集まる。
「あ、えと。ベンチプレスが持ち上げられたとき」
「べ?・・・はいっ」
知らなかったらしく、その手の動きは、ウエイトリフティングだ。
でも、重い感じが出てるのは、さすがだ。
「先輩に呼ばれて」
「はい!」
演技とは思えない自然な良い笑顔だった。
「先輩」は、俺の呼び名以外にも、先達としてたくさん存在しているのだが。
志桜里が、平坦な表情のあみに気がついて、
「・・・こほん。こんな感じです」
「難しい、これ」
「しおりん、身体を使って演技してもいいんだよね?」
「はい。ゲームの方では禁止ですが、今回は演技重視なので。表情も、演技してくださいね」
「はーい」
大谷は、神妙そうな顔で緊張しているみたいだ。
しきりに、生唾を飲んでいる。
「先輩、お題は?」
俺が聞いているのに、気がついていたか。
「じゃあ、『ありがとうござます』で。『ありがとう』でも良いぞ」
「では、大谷さんが演技者で」
「ありがとうございます」
いや、まだはじまってないぞ。
「サインを求められて」
と志桜里。
「あ、ありがどう、ございまず」
ファンに緊張している演技なのか、演技への緊張かわからないな。
「番組の出演が決まって」
と、あみ。
「ありがとうございます!」
「それが、減量期の大食い企画だった」
と俺。
「あ、ありがとう。ございますぅ」
お、今のは、実感が籠ってるぞ。
「用意されたお弁当が、中学生男子が食べるみたいなガッツリしたヤツばっかり」
「あ、ありがと」
ミホも、映画撮影のとき、それで困ったのか?
肉体労働の技術さんは、そういうの好むからな。
「お上手でしたよ、大谷さん」
「うん、心入ってた」
「うまいうまい」
三人とも絶賛する。
「ありがとうございます」
シチュエーションが、特殊すぎたが、って俺のせいか。
素人考えだが、極端な演技の方が、やりやすそうだから、そっちからの方が良いのかもな。
「では、次はミホさんで」
「緊張するね!」
それは意外だ。
一発勝負のコンテスト出場で、慣れている、と勝手に思っていた。
いやだから、緊張をほぐすストレッチが、可動域が大きくて気持ち悪い。
大谷の目も口も、あんぐりあいてるぞ。
「先輩、お題は?」
自分でも、考えような。
「うーん。じゃあ、『はじめまして』」
「おー」
だから、首が取れちゃわないか、その動き。
「初めての現場入りで」
と志桜里。
「はじめまして!」
元気いいのは良いが、驚いた技術さんがビクッと止まりそうだな。
「楽屋に、知らない人が入ってきたら」
と、あみ。
「誰、じゃなくて、はじめまして」
「それが、新人マネージャーをだと紹介されたとき」
志方の支度が終わったのか、飽きたのか、戻ってきた茜からの出題。
「はじめまして!」
俺のマネージャーが、横眼で見てきてますが、茜との初対面のときは、ちゃんと「はじめまして」してないのか?
前職セクシー女優情報での驚きで正直、覚えてないが、この視線なのは、そういうことなのだろう。
俺は、改めて敏腕マネージャーに深々と頭を下げ、満足気に頷く茜。
「パーソナル・トレーナーに合ったとき」
「はじめまして!」
元気さで乗り切ろうとしてないか。
「ちょ、ちょっとまって。違いが出せないよ、ほとんど!」
「確かにそうですね」
「お題が悪いんじゃない?」
非難の目が、俺に集まる。
「そう言うなら、あみへのお題は、ミホだ」
「えー。あー。『大好き』」
「では、『大好き』のシチュエーションは、チョコレートをもらって」
「大好き!」
ウチの事務所は、盗聴器騒ぎから、ファンからの食べ物は受け取らない方針を発表しているが、あみのところは、どうだったっけ。
アイドルなんだから、もらった食べ物には、気をつけような。
「ダンスとストレッチが?」
とミホ。
「だ。だいすき」
振り付けとストレッチで、ミホにシゴかれてたな。
「勉強が?」
と俺。
「だ。だいすき」
アイドルか本音本人、どちらの演技にするか、先に決めておけば良かったか。
「あみりん、アイドル忘れてる」
「えー、だって」
ミホも、同じことを考えたようだ。
「スポットライトが」
「大好き」
大谷の出題に応えてから、顔をしかめる。
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