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第二巻:夏は、夜
現÷うつろ
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という夢をみたんだ、でラストが飾られそうな明晰夢を、現在進行形でみていた。
夢をみている、という自覚があるので、自分が主人公の動画を観ているようだ。
意識は、身体の中にあるのだが、それとは別に、俯瞰で客観視している自分も同時に存在する。
演者と違うのはシナリオ、先の展開がわかっていないこと。
だから、視聴者目線とも言える。
どうせ夢だったら、憧れてはいる安楽椅子とパイプがほしいところだが、素直にソファーとビールにしておこう。
始まっている夕食の準備は、明日には帰ること、朝食はパンを買って調理しない予定なので、残った食材をいかに消費するかがテーマだ。
なんだか、ずっと食べている気がするが。
寸胴が見つかったので、いろいろ入れて煮れば、と提案したが、最後の夜にふさわしくない、と却下された。
ちなみに、メイクの仕上げは自分で、と託された志方は、カワイく言えばパンダもしくは既に懐かしい黒ギャルを爆誕させ、再びタオルで顔を隠されて洗面所へ連行された。
ビールを求めて厨房へ行く、と茜が冷凍庫から、アイスクリームや冷凍フルーツなどを取り出していた。
デザートの準備にしては、早すぎると疑問に思っていると、
「あ、沢田先生、冷蔵庫使いますか?」
「急がないが、アイスには、・・・早いんじゃないか?」
途中、つい「あみ」でも、と言いそうになり、口を噤めた。
なのに、なぜこっち見てくるメイド子弟コンビ?
レイチェルが、ここにいるってことは、また志方が一人で顔面格闘中なのか。
「余ったお肉とか、分配して持ち帰るには保冷剤が足りなさそうなので、いっそ冷凍してしまおうかと思いまして」
「それなら、業務用の冷凍庫でしたら良いんじゃないか?」
「それを社長に言ったら大型な分、最初に冷えるまで時間がかかって、これからだと朝まででは、お肉が凍らなさそうなんです」
予冷が必要なのか。
昨晩に、そんな話題になったとき、とりあえず電源を入れてしまえばよかったな。
強力な分、立ち上がりも早いのかと思っていた。
「なので、クーラーボックスで持ち帰れない冷凍品、アイスとか今晩中に食べてしまわないといけない量を確認して、お肉がどのくらい冷凍できるか計算しようとしてました」
できるマネージャーだな。
しかし、そもそも食べきれる量か、これ?
出されているアイスクリームなど、全部ではないだろうに、かなりある。
「ふっ」
あみが、鼻で嗤ったのが聞こえた。
見る、とその背後には、まだスッピンの仕方も腕を組んで立ち不適な笑みで、こちらへ視線を向けていた。
食べる気まんまんだな。
無視して、スマホを検索。
「・・・考えることは一緒だな。近くに氷屋がある。ここでドライアイスや氷を買えば、アイスも持ち帰れるし、無理に肉を冷凍する必要もないぞ」
「「え?」」
「ネットで、翌朝以降分なら、これからでも予約できるみたいだな」
腹ぺこコンビから抗議の声が上がるが、気にせず冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
そして、志方が、まだメイクをしていないことに気がついたメイド長に連行されて行った。
何度も塗り直して肌、荒れないか?
缶ビール片手にソファーに座ると同時に、照明が消えた。
まだ夕方だが、建物に直射日光が当たって暑くならないように、広葉樹で覆っているので、かなり暗い。
夢の中だというのに、昼間にみた、暗闇で時間がおかしくなる夢がフラッシュバックする。
だが今回、薄闇の中にいるのは俺だけではないようで、悲鳴が上がる。
「停電?」
誰かの声で、ようやくその可能性を思いつく。
夢の中だからといって、怪奇現象とは限らない。
暖炉の前を誰かが通った。
この明度でも、灰が舞わない用のアクリル板は、反射で目立つので、横切ればわかる。
そのシルエットは、知っている人物だ。
いや瞬時に、そんな記憶を掘り起こして照合できたのは、夢のご都合主義か。
嫌な予感に、後を追おうとして、なぜか覚えのある女性の声が聞こえた気がした。
『ふって』
それに導かれるように、暖炉の脇に置かれた斧を手に取った。
また女性の悲鳴が、そして今度は、恐怖が濃い。
聞こえた厨房へ走る。
先の人物が、闇中でも光る物を手にしていた。
包丁だ。
それを悲鳴の主へ向かって、振り上げる。
「やめろ!」
俺は、咄嗟に横殴りに斧を「振った」。
背後から脇腹に刺さり、血が飛び散る。
その人物は、首をこちらへ捻じ曲げ、なぜか嗤う、と床へ倒れる大きな衝撃と音が響いた。
大きな衝撃と音が響いた。
俺は、自分で勢いよく閉めた冷蔵庫がたてた音に驚いて、缶ビール片手に止まっていた。
「沢田先生?アイスクリームしまうので、どいてもらって良いですか?」
「あ、ああ」
あれ?
何か、重要なことを忘れていないか?
アイスクリームへ未練たらたらな腹ぺこコンビから逃げるように、厨房を出た。
缶ビール片手にソファーに座ると同時に、照明が消えた。
繰り返すパターンの夢か。
悲鳴と「停電?」の声。
暖炉前を横切るシルエットに、タックルをかける。
相手は驚いたようだが、倒れずに堪え、伸ばした手で斧を取った。
それで、お互いに武器を奪おうと揉み合いになり、俺は自分が放り捨てたかした缶ビールを踏んで、転倒した。
床に倒れた以外に、脇腹へも衝撃が走る。
踏んだ缶が損傷したのか、どこからか噴き出す音が聞こえてくるが、もしかしたら、俺の脇腹からなのかもしれない。
俺に馬乗りになった人物は、血まみれの顔で嗤い、脇腹から抜いた斧を振り下ろし、大きな衝撃が響いた。
缶ビール片手にソファーに座ると同時に、照明が消えた。
夢の中で、あの人物をどうにかしろということなのだろうか。
悲鳴と「停電?」の声。
厨房へ向かうシルエットを追いながら、タキシードの上着を脱ぐ。
また女性の悲鳴、先の人物が、闇中でも光る物を手にしていた。
それを悲鳴の主へ向かって、振り上げる。
「やめろ!」
俺は、タキシードの上着を投げた。
視界を遮るように頭部に絡みつき、慌てた人物は、包丁を振り回した。
「あうっ」
闇雲な攻撃が偶然、女性に中ってしまったようだ。
押さえた脇腹、首から血を噴き出し、床へ倒れる大きな衝撃と音が響いた。
缶ビール片手にソファーに座ると同時に、照明が消えた。
この夢の運パラメーターは、シルエットの人物に、かなり有利なようだ。
悲鳴と「停電?」の声。
厨房へ向かうシルエットを追いながら、斧を手に取る。
また女性の悲鳴、先の人物が、闇中でも光る物を手にしていた。
それを悲鳴の主へ向かって、振り上げる。
「やめろ!」
俺は、声をかけ、斧を見せた。
人物は、女性から、こちらへ向いた。
その顔へ、小麦粉を袋ごと投げつける。
薄闇の中でも白い粉が飛び散るのが見え、慌てた人物は、包丁を振り回した。
慎重に距離を取って、リーチの長い斧の刃側を持ち、柄で殴りつけた。
ゆっくり、と床へ倒れる大きな衝撃と音が響いた。
気絶したのか、動かなくなったので、一歩踏み出す、とスリッパが脱げていた足に液体の感触。
倒れた拍子に、自分が持っていた包丁が刺さったのか。
何度も繰り返した夢の記憶が、フラッシュバックする。
缶ビールを投げつけたり、空きビール瓶で殴ったりもしたが、誰かが致命的に傷ついた。
倒れた拍子に、コンロの火が、油に燃え移って、火事になったりもした。
もしかして、停電の時点で、人物側の準備完了、もう詰みなんじゃないか?
ビールを厨房へ取りに行く前?
いったい、どこからなら、惨劇を止めるのに間に合うんだ?
「起きて。お昼寝するなら、私みたいにベッドでにしなさい。添い寝してあげても良いわよ?」
揺さぶられた衝撃と声が響き、目が覚めた。
形山の顔が、キスできそうなほど近い。
あれ?
何か、重要なことを忘れていないか?
「彩芽様、ビールをお持ちしました」
音もなく忍び寄ったメイドが、こちらもキスできそうな距離で言ったため、社長は驚いて、身を引いた。
「あ、ありがとう」
形山がメイドから、缶ビールを受け取る。
社長がグラスを誰が洗うかで気をつかっているのを察しているので、缶のみだ。
「・・・はい、ご主人様」
俺の分は、なぜか不服そうに渡す。
とはいえ頼んでいないのに、できるメイドだな。
「それで、あれは、何をしているの?」
リビング脇のちょっとしたスペースに食堂の椅子を置き、大谷が座っている。
志桜里が、今後に演技を考えているメンバーを集めて、「イントネーション・ゲームもどき」をしたこと。
そもそも、「もどき」は形山が考えた、などを話しているうちに、大谷チャンネル用の収録が始まった。
尺稼ぎに、さっきの出題を志桜里が繰り返した後、
「演技を褒められて」
と形山が乱入。
「あ、ありがとう、ございまず」
こちらへ背を向けていたので、社長の存在に気がついていなかったのだろう。
急に、声に緊張が混じる。
「では、お題を変えます。次のお題は、」
なぜか覚えのある女性の声が聞こえた気がした。
『ふって』
それに導かれるように、割り込む。
「『ふって』で」
周りに疑問符が舞っているので、俺も口をついて出た言葉を自分で咀嚼して、補足する。
「すこしシチュエーションを複雑にして、『ふって』の前後に言葉を足しても良い」
急なルール変更に、戸惑う雰囲気。
でも、俺は止まらなかった。
「例えば、シチュエーションは、女性へ向けて『ふって』くれと頼む」
大谷が、ついてこれず、キョトンとしている。
「大谷さん、女性へ自分を『ふって』と頼む演技をしてください」
志桜里が、お題として、整理して出題しなおしてくれた。
「あー、僕を振ってください!」
経験がないのか、そんな場面の想像がつかないのか、心が籠っていない。
「マラソンの沿道で応援の旗を配って」
と形山。
出題しておいてなんだが、咄嗟に、よく思いつくな。
「みなさん、選手が来ました。旗を振ってー!ガンバレー!」
そういう仕事をしたことがあるのか、これは自然だ。
「草野球のバッターへ」
とミホ。
「ピッチャー、ビビってる!振れー!打てー!」
元気で乗り切ってる気もするが、これも良い。
「あー、野球で優勝したビールかけ会場で、アナウンサーが選手へ」
と、あみ。
「優勝おめでとうございます!うひゃー!ビール振り過ぎですよ!」
俺は、メイドから受け取ったまま開けていなかった缶ビールを放った。
思わずキャッチした大谷へ、メイド服たちが囃し立てる。
「振ってー!」
言われて、さすがに振りはしなかったが、ノリで缶を開けた。
大谷のシナリオでは、ビールを一口飲んだ後、何か筋肉ギャグを言って、動画を締める気だったのだろう。
ところが、キャッチした衝撃か、俺の手で温まってしまったせいか、盛大にビールが噴出した。
バシューっと激しい炭酸の音をたてて、大谷を濡らす。
「うひゃー!」
「きゃー」
「タオルタオル」
「先輩、何してるのよ!」
大騒ぎの中、俺の頭の中では、カチっと嵌る音がした。
撮影が終わったかも確かめず、スマホを取り出し、検索するとそのウェブサイトから電話をかけた。
何してるの?の視線の中、
「もしもし、はい、そうです。まだ在庫ありますか?・・・それだけあれば十分です。これから取りに行きます。
・・・あ、それは助かります。沢田です。よろしくお願いいたします」
通話を切り、サイトの画面で店名と住所を茜に見せた。
「すまない茜。これから、ここへ車で買いに行ってくれないか。手ぶらで持ち帰れるそうだ」
言ってから気がついた。
「あ、現金あるか?お金、貸してくれ」
優秀なマネージャーは、わけがわからないながらも、仕方ないなあ、と笑って頷いてくれた。
夢をみている、という自覚があるので、自分が主人公の動画を観ているようだ。
意識は、身体の中にあるのだが、それとは別に、俯瞰で客観視している自分も同時に存在する。
演者と違うのはシナリオ、先の展開がわかっていないこと。
だから、視聴者目線とも言える。
どうせ夢だったら、憧れてはいる安楽椅子とパイプがほしいところだが、素直にソファーとビールにしておこう。
始まっている夕食の準備は、明日には帰ること、朝食はパンを買って調理しない予定なので、残った食材をいかに消費するかがテーマだ。
なんだか、ずっと食べている気がするが。
寸胴が見つかったので、いろいろ入れて煮れば、と提案したが、最後の夜にふさわしくない、と却下された。
ちなみに、メイクの仕上げは自分で、と託された志方は、カワイく言えばパンダもしくは既に懐かしい黒ギャルを爆誕させ、再びタオルで顔を隠されて洗面所へ連行された。
ビールを求めて厨房へ行く、と茜が冷凍庫から、アイスクリームや冷凍フルーツなどを取り出していた。
デザートの準備にしては、早すぎると疑問に思っていると、
「あ、沢田先生、冷蔵庫使いますか?」
「急がないが、アイスには、・・・早いんじゃないか?」
途中、つい「あみ」でも、と言いそうになり、口を噤めた。
なのに、なぜこっち見てくるメイド子弟コンビ?
レイチェルが、ここにいるってことは、また志方が一人で顔面格闘中なのか。
「余ったお肉とか、分配して持ち帰るには保冷剤が足りなさそうなので、いっそ冷凍してしまおうかと思いまして」
「それなら、業務用の冷凍庫でしたら良いんじゃないか?」
「それを社長に言ったら大型な分、最初に冷えるまで時間がかかって、これからだと朝まででは、お肉が凍らなさそうなんです」
予冷が必要なのか。
昨晩に、そんな話題になったとき、とりあえず電源を入れてしまえばよかったな。
強力な分、立ち上がりも早いのかと思っていた。
「なので、クーラーボックスで持ち帰れない冷凍品、アイスとか今晩中に食べてしまわないといけない量を確認して、お肉がどのくらい冷凍できるか計算しようとしてました」
できるマネージャーだな。
しかし、そもそも食べきれる量か、これ?
出されているアイスクリームなど、全部ではないだろうに、かなりある。
「ふっ」
あみが、鼻で嗤ったのが聞こえた。
見る、とその背後には、まだスッピンの仕方も腕を組んで立ち不適な笑みで、こちらへ視線を向けていた。
食べる気まんまんだな。
無視して、スマホを検索。
「・・・考えることは一緒だな。近くに氷屋がある。ここでドライアイスや氷を買えば、アイスも持ち帰れるし、無理に肉を冷凍する必要もないぞ」
「「え?」」
「ネットで、翌朝以降分なら、これからでも予約できるみたいだな」
腹ぺこコンビから抗議の声が上がるが、気にせず冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
そして、志方が、まだメイクをしていないことに気がついたメイド長に連行されて行った。
何度も塗り直して肌、荒れないか?
缶ビール片手にソファーに座ると同時に、照明が消えた。
まだ夕方だが、建物に直射日光が当たって暑くならないように、広葉樹で覆っているので、かなり暗い。
夢の中だというのに、昼間にみた、暗闇で時間がおかしくなる夢がフラッシュバックする。
だが今回、薄闇の中にいるのは俺だけではないようで、悲鳴が上がる。
「停電?」
誰かの声で、ようやくその可能性を思いつく。
夢の中だからといって、怪奇現象とは限らない。
暖炉の前を誰かが通った。
この明度でも、灰が舞わない用のアクリル板は、反射で目立つので、横切ればわかる。
そのシルエットは、知っている人物だ。
いや瞬時に、そんな記憶を掘り起こして照合できたのは、夢のご都合主義か。
嫌な予感に、後を追おうとして、なぜか覚えのある女性の声が聞こえた気がした。
『ふって』
それに導かれるように、暖炉の脇に置かれた斧を手に取った。
また女性の悲鳴が、そして今度は、恐怖が濃い。
聞こえた厨房へ走る。
先の人物が、闇中でも光る物を手にしていた。
包丁だ。
それを悲鳴の主へ向かって、振り上げる。
「やめろ!」
俺は、咄嗟に横殴りに斧を「振った」。
背後から脇腹に刺さり、血が飛び散る。
その人物は、首をこちらへ捻じ曲げ、なぜか嗤う、と床へ倒れる大きな衝撃と音が響いた。
大きな衝撃と音が響いた。
俺は、自分で勢いよく閉めた冷蔵庫がたてた音に驚いて、缶ビール片手に止まっていた。
「沢田先生?アイスクリームしまうので、どいてもらって良いですか?」
「あ、ああ」
あれ?
何か、重要なことを忘れていないか?
アイスクリームへ未練たらたらな腹ぺこコンビから逃げるように、厨房を出た。
缶ビール片手にソファーに座ると同時に、照明が消えた。
繰り返すパターンの夢か。
悲鳴と「停電?」の声。
暖炉前を横切るシルエットに、タックルをかける。
相手は驚いたようだが、倒れずに堪え、伸ばした手で斧を取った。
それで、お互いに武器を奪おうと揉み合いになり、俺は自分が放り捨てたかした缶ビールを踏んで、転倒した。
床に倒れた以外に、脇腹へも衝撃が走る。
踏んだ缶が損傷したのか、どこからか噴き出す音が聞こえてくるが、もしかしたら、俺の脇腹からなのかもしれない。
俺に馬乗りになった人物は、血まみれの顔で嗤い、脇腹から抜いた斧を振り下ろし、大きな衝撃が響いた。
缶ビール片手にソファーに座ると同時に、照明が消えた。
夢の中で、あの人物をどうにかしろということなのだろうか。
悲鳴と「停電?」の声。
厨房へ向かうシルエットを追いながら、タキシードの上着を脱ぐ。
また女性の悲鳴、先の人物が、闇中でも光る物を手にしていた。
それを悲鳴の主へ向かって、振り上げる。
「やめろ!」
俺は、タキシードの上着を投げた。
視界を遮るように頭部に絡みつき、慌てた人物は、包丁を振り回した。
「あうっ」
闇雲な攻撃が偶然、女性に中ってしまったようだ。
押さえた脇腹、首から血を噴き出し、床へ倒れる大きな衝撃と音が響いた。
缶ビール片手にソファーに座ると同時に、照明が消えた。
この夢の運パラメーターは、シルエットの人物に、かなり有利なようだ。
悲鳴と「停電?」の声。
厨房へ向かうシルエットを追いながら、斧を手に取る。
また女性の悲鳴、先の人物が、闇中でも光る物を手にしていた。
それを悲鳴の主へ向かって、振り上げる。
「やめろ!」
俺は、声をかけ、斧を見せた。
人物は、女性から、こちらへ向いた。
その顔へ、小麦粉を袋ごと投げつける。
薄闇の中でも白い粉が飛び散るのが見え、慌てた人物は、包丁を振り回した。
慎重に距離を取って、リーチの長い斧の刃側を持ち、柄で殴りつけた。
ゆっくり、と床へ倒れる大きな衝撃と音が響いた。
気絶したのか、動かなくなったので、一歩踏み出す、とスリッパが脱げていた足に液体の感触。
倒れた拍子に、自分が持っていた包丁が刺さったのか。
何度も繰り返した夢の記憶が、フラッシュバックする。
缶ビールを投げつけたり、空きビール瓶で殴ったりもしたが、誰かが致命的に傷ついた。
倒れた拍子に、コンロの火が、油に燃え移って、火事になったりもした。
もしかして、停電の時点で、人物側の準備完了、もう詰みなんじゃないか?
ビールを厨房へ取りに行く前?
いったい、どこからなら、惨劇を止めるのに間に合うんだ?
「起きて。お昼寝するなら、私みたいにベッドでにしなさい。添い寝してあげても良いわよ?」
揺さぶられた衝撃と声が響き、目が覚めた。
形山の顔が、キスできそうなほど近い。
あれ?
何か、重要なことを忘れていないか?
「彩芽様、ビールをお持ちしました」
音もなく忍び寄ったメイドが、こちらもキスできそうな距離で言ったため、社長は驚いて、身を引いた。
「あ、ありがとう」
形山がメイドから、缶ビールを受け取る。
社長がグラスを誰が洗うかで気をつかっているのを察しているので、缶のみだ。
「・・・はい、ご主人様」
俺の分は、なぜか不服そうに渡す。
とはいえ頼んでいないのに、できるメイドだな。
「それで、あれは、何をしているの?」
リビング脇のちょっとしたスペースに食堂の椅子を置き、大谷が座っている。
志桜里が、今後に演技を考えているメンバーを集めて、「イントネーション・ゲームもどき」をしたこと。
そもそも、「もどき」は形山が考えた、などを話しているうちに、大谷チャンネル用の収録が始まった。
尺稼ぎに、さっきの出題を志桜里が繰り返した後、
「演技を褒められて」
と形山が乱入。
「あ、ありがとう、ございまず」
こちらへ背を向けていたので、社長の存在に気がついていなかったのだろう。
急に、声に緊張が混じる。
「では、お題を変えます。次のお題は、」
なぜか覚えのある女性の声が聞こえた気がした。
『ふって』
それに導かれるように、割り込む。
「『ふって』で」
周りに疑問符が舞っているので、俺も口をついて出た言葉を自分で咀嚼して、補足する。
「すこしシチュエーションを複雑にして、『ふって』の前後に言葉を足しても良い」
急なルール変更に、戸惑う雰囲気。
でも、俺は止まらなかった。
「例えば、シチュエーションは、女性へ向けて『ふって』くれと頼む」
大谷が、ついてこれず、キョトンとしている。
「大谷さん、女性へ自分を『ふって』と頼む演技をしてください」
志桜里が、お題として、整理して出題しなおしてくれた。
「あー、僕を振ってください!」
経験がないのか、そんな場面の想像がつかないのか、心が籠っていない。
「マラソンの沿道で応援の旗を配って」
と形山。
出題しておいてなんだが、咄嗟に、よく思いつくな。
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そういう仕事をしたことがあるのか、これは自然だ。
「草野球のバッターへ」
とミホ。
「ピッチャー、ビビってる!振れー!打てー!」
元気で乗り切ってる気もするが、これも良い。
「あー、野球で優勝したビールかけ会場で、アナウンサーが選手へ」
と、あみ。
「優勝おめでとうございます!うひゃー!ビール振り過ぎですよ!」
俺は、メイドから受け取ったまま開けていなかった缶ビールを放った。
思わずキャッチした大谷へ、メイド服たちが囃し立てる。
「振ってー!」
言われて、さすがに振りはしなかったが、ノリで缶を開けた。
大谷のシナリオでは、ビールを一口飲んだ後、何か筋肉ギャグを言って、動画を締める気だったのだろう。
ところが、キャッチした衝撃か、俺の手で温まってしまったせいか、盛大にビールが噴出した。
バシューっと激しい炭酸の音をたてて、大谷を濡らす。
「うひゃー!」
「きゃー」
「タオルタオル」
「先輩、何してるのよ!」
大騒ぎの中、俺の頭の中では、カチっと嵌る音がした。
撮影が終わったかも確かめず、スマホを取り出し、検索するとそのウェブサイトから電話をかけた。
何してるの?の視線の中、
「もしもし、はい、そうです。まだ在庫ありますか?・・・それだけあれば十分です。これから取りに行きます。
・・・あ、それは助かります。沢田です。よろしくお願いいたします」
通話を切り、サイトの画面で店名と住所を茜に見せた。
「すまない茜。これから、ここへ車で買いに行ってくれないか。手ぶらで持ち帰れるそうだ」
言ってから気がついた。
「あ、現金あるか?お金、貸してくれ」
優秀なマネージャーは、わけがわからないながらも、仕方ないなあ、と笑って頷いてくれた。
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