(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第二巻:夏は、夜

夏+夜=夢

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 懐中電灯を片手に、地下室への細い階段を降りていた。
 階段は、厨房の奥のパントリーの更に先にあった。
 もう片手には、発砲スチロールの容器と水の入ったバケツ。
 バケツの持ち手が錆びている上、細くて指に食い込むのもあり、軍手をしている。
 地下室は、物置になっているので、俺は初めてだったし、形山清掃班も来ていないようだ。
 階段の途中に座って、懐中電灯を消し、暗闇に目が慣れるのをしばらく待つ。
 業務用の大型冷凍専用庫が、設置されているのが、見えてきた。
 蓋が上部についていて、上へ持ち上げるタイプだ。
 聞いていたように、その蓋との間には、毛布が噛ませてあった。
 長期に電源を入れない場合、そうやって隙間を開けて換気しておかないと、中が黴たりするそうだ。
 スマートウォッチが振動で、決めていた時刻になった、と知らせてくる。
 同時に、地上階で、マイクのハウリングが、大音量で響く。
 俺は、冷凍庫を開ける、と発砲スチロール容器とバケツの中身をぶち撒け、毛布を抜き取ると蓋を閉めた。
 さらに、行儀は悪いが、その上に座る。
 中から、開けようと突き上げてくるが、中途半端な高さの中で、不自然な体勢では、大人一人の体重は無理だ。
 咳き込みが聞こえてきたので、俺は飛び降りると蓋を開けた。
「津々木さん、大谷さん、用心して!息は止めておいてください!」
 二人は、もうもうたる白い煙の中、一人を引っ張り出した。
 俺も息を止めて、冷凍庫の中を探る。
 軍手に触れた物を取り出す、と黒いリュックサックだった。
 中身をひっくり返す、と空のペットボトルなどが転がり、電源コードなどをまとめる結束バンドが見つかった。
 俺たちの拘束用だったのだろうが、利用させてもらおう。
 人物は、屈強な男二人に押さえられ、咳き込むばかりで、暴れる気力はないようだが、後ろ手にして、手首と親指の二か所で手錠した。
 スマホをかける。
「・・・はい、救急車の方です。軽い二酸化炭素中毒と凍傷の恐れがあります。不法侵入者なのですが、警察への連絡は、別にしないといけませんか?」

「乾杯」
 とりあえず、食堂の席で缶ビールを掲げて言うが、唱和はない。
 辛うじて、形山が、肩を竦めながらも、仕草はしてくれた。
 あれから、救急車と警察がきて、犯人は病院へ連行。
 別荘で、簡単な事情聴取も行われた。
 その後なので、最後の夕食が盛り上がるはずもない。
 犯人がショックすぎて、志桜里は部屋に籠っており、茜がついている。
 形山だと関係が近すぎるのと、逆に彼女は少人数になりたくないようで、茜に頼んだ。
 ちなみに食事のメニューは、俺製の鍋だ。
 厨房にあった寸胴に、持ち帰りにくい材料ぶち込んで煮た。
 真夏で、熱々を求めてはいないので、鍋敷きに置いて、冷めるに任せている。
 意外と温かい汁が、染みた。
 無言の食事が、一段落した頃合いを見計らって、
「気になることもあるだろうから、説明しておく」
 好奇心と気遣いと、複雑な目線が集まる。
「あれが誰だか知らなかった人もいるだろうが、犯人は、ウチの社員の坂井だ」
 先日、急に産休に入った四十代半ばの女性社員だ。
 形山が、独立する前から彼女担当のマネージャーで、事務所設立にも貢献していた。
 産休前は、志桜里を担当するマネージャーだった。
「動機も目的も、本人が自供するまで、真相はわからない。だから、これは俺の勝手な想像だ」

 形山と坂井が二人で設立した個人事務所だったが、少しづつ大きくなり、坂井目線で俺のような形山へ色目をつかう者まで出てきた。
 しかも、専務就任とか、現場に拘って役職を拒んだ坂井にしてみれば、気持ちの悪い存在だっただろう。
 もしかしたら、性的な意味ではないにしても、形山に恋慕していたのかもしれない。
 爆発したきっかけは、俺の風俗通い疑惑でのクビからの復帰、それに伴う社長号泣事件だったのではないだろうか。
 想像以上に、形山の俺への執着に気がつき嫉妬した。
 しかも、形山の娘のような存在、志桜里まで、俺を慕っている。
 そのことは、形山宅に仕掛けた盗聴器からも知っていただろう。
(「え?あれ、坂井さんなの?マンション買ったときからずっと?」)
 それで、自分の存在の方が俺より会社に重要だと思い知らせ、二人を困らせるために、会社を休むことにした。
 理由は、より形山を嫉妬させるために、産休としたのが、失敗の第一歩だった。
 本当は、引き留めて欲しかったのだろうが、逆に理由が理由なので、あっさりと受け入れられてしまったのだ。
 これで、引き返せなくなったのかもしれない。
(「そんな、デリケートな話を根掘り葉掘り聞けないわ」)
 あ、やはり、と言っては失礼だが、妊娠は嘘だった。
 産休入り直後とはいえ、動きが妊婦でなかったのもあって予想していたが、救急隊員に妊娠の有無を聞かれて、白状した。
(「ああ、嘘なんだ。喜んだのに」)
 盗聴するようなストーカー気質だから、俺とあみの写真を、彼女の実家の居酒屋側で撮って雑誌に売ったり、あみをメイド喫茶で働かせろメールも、心配して様子を見に来た俺との写真を撮って、スキャンダルを再燃させる気だったのかもしれないな。
 まあ、俺と裁判中の雑誌が取り上げるかは知らないが。
 そうそう、産休したから出社で情報が集められなくなった上、事務所の盗聴器騒ぎのせいで、形山宅のも撤去されてしまったから、志桜里がASMRに使っていたノートPCにクラッキング仕掛けたりしたのだろう。
 確か、各PCのIPアドレスとかセキュリティ情報管理、彼女もデータを持っていたと思う。
 素人だから、上手くいかなくて諦めたのか、よくわからないが。
(「え?あれ、坂井さんなの?」)
 ネットといえば、レイチェルを襲った少年が、応援されたとかいう話もあったな。
 もしかして、セクシー男優のサトルに、茜の再就職先を教えたのも彼女かもしれない。
 骨折もあって一番、俺に効いたのは、あれかもしれないな。
 この別荘へ、俺たちが来ることは、予めわかっていたようだ。
 犯人がわかってから確認したら、社長も志桜里も、スケジュールの共有を彼女としたままで、筒抜けだった。
 俺が、違和感を感じたのは、今日の昼食の後だ。
 飲む人が少ない冷蔵庫の冷えた水と保冷剤の減少。
 暑いからか?と思ったのがきっかけだ。
 水のペットボトルは、大小合わせて常温在庫と冷蔵庫の中、リサイクル用ゴミで、数が合わない。
 保冷剤も、今晩のために冷やそう、と志方に言って、ベッドから全部持ってきてもらったが、持ってきたクーラーボックスに行渡る数には足りない。
 誰かが忍び込んで盗んだとしても、これだけの人数がいれば、誰かに見つかる可能性は高い。
 だから、盗聴を疑った。
 例えば、厨房に盗聴器を仕込んでおいて、音が聞こえなければ無人と判断できる。
 隠れていた、業務用冷凍庫がある地下室への階段は、厨房に近かったしな。
 そもそもが、地下へ誰か来ないか、冷凍庫を使わないかの警戒だったのが、暑すぎ用意していた水を飲み干して、我慢できなかったんだろうな。
 瓶ビールを買った管理事務所で、施設の事前確認とか聞かれたのは、坂井が盗聴器を仕掛けに来たときに、鍵を借りた言い訳だろう。
 そのときに、合鍵をつくって、俺たちが来る前から、地下室に忍び込んでいたんだろうな。
 それで、壊れたカラオケ・セットのマイクのハウリング音で、盗聴器を通じて驚かした瞬間に、ドライアイスと水で発生させた二酸化炭素で、一時的に呼吸困難にさせて、抵抗力を奪って、拘束した訳だ。

「・・・何が、したかったんだろうね?」
 形山が、ぽつりと呟いた。
 それは、具体的に想像するには不快だったし、坂井本人にも、どこまでしたいか、わかっていなかった可能性が高い。
 最悪、大虐殺の上、別荘炎上だった、かもしれない。
 俺は、肩を竦め、
「不法侵入も、社長が取り下げれば、罪にならないんじゃないか?」
 法律として正しいか知らないし、罪にならないのが本人に良いことかはわからないが、俺たちの罪悪感は軽減してくれるだろう。
 罪悪感?
 坂井を追い込んでしまったことへの勝手な驕りかもしれない。
「昨日の夜、俺の部屋のドアや窓がガチャガチャいっていた気がしたけど、あれも坂井で夢ではなかったのかもな」
 なんで、みんな目を逸らす?
「まあ、この別荘が大炎上、なんてことにならなくて、良かったな」
 縁起でもない、という視線が集まるが、本当に良かった。

 という夢をみたんだ、でラストが飾られそうな明晰夢を、現在進行形でみていた。
 川のせせらぎが聞こえる真っ白い部屋で、夏月と座っている。
「・・・なんだか、久しぶりだな」
「絶対、忘れていたくせに」
 というよりも、誰なんだ?
「おにいちゃんの未来の可能性のひとつ、かな」
「子孫?」
 ドラえもんか?
「そんな近視眼的ではなくて、もっとマクロ。それに子孫なら、セワシ」
「・・・風が吹けば桶屋、みたいな?」
 タイムパラドックスまで混ぜたくないので、一部スルー。
「せめて、バタフライエフェクトくらい言ってよ。雑誌にも載っていたよ?」
 別荘で、誰かが死ぬことで、世界の未来が大きく変わったのだろうか。
「このせせらぎが、バタフライエフェクトのイメージ音か?」
「水音というより、たった一滴の源流が、大河となるように、本来なら逆流などありえない理の象徴。血の流れも同じ」
 不自然に感じた水音は、逆再生だったのかもしれない。
「覆水盆に、的な?」
「バタフライエフェクト」
 夏月が、頬を膨らませた。
「それはそうと、どうして、そんな設定なんだ?」
「設定?これ?」
 俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、くるりと回って見せた。
「好きでしょ?」
「・・・今から、未来を捻じ曲げても良いんだが?」
 俺のロリ疑惑へは、断固として抗議する。
 そのためなら、未来なんて知るか。
「これは、夢だから、おにいちゃんが、自分を納得させるために、合理的だと思い込める説明をボクに語らせているだけかもしれない」
「でも、夏月は確かに居た」
 ちょっと寂しそうに、
「ボクは、優しい未来を望む思いが生んだ、小さな揺らぎなだけ。存在なんて、してないよ」
「いや、夏月は確かに居た」
 ちょっと嬉しそうに、
「うん、おにいちゃんとの暮らしは、楽しかったよ。でも科学雑誌は、自分で読んでね」

「おにいちゃん、そろそろお仕事のお時間ですよ」
 イヤホンからではない声に目を開けると、茜が、いたずらっぽい目で、覗き込んできていた。
 どうやら、ライブ配信の題名を見て、ASMRのシチュエーションを知ったらしい。
 俺は身を起こし、
「もう、マヤ文明生放送のリハーサルか、夏月?」
「なつきって、誰です?」
 茜が、目を吊り上げる。
「・・・俺の、妹?」
 スマホの画面には、だぶだぶのスエット姿で白耳3Dioを両手で胸の前にもっているバストショットのVtubuer「夏月」が写っていた。
「そんな!茜を差し置いて、妹の座をくすねるだなんて!」
 それ、くすねるで正しいのか?
『沢田先生、本日の衣装になります!』
 俺たちはふざけるのを止め、仕事モードに切り替えた。
 窓の外から、夕立が聞こえ始めた。
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