継母の心得

第二部 第5章

閑話 ディバイン公爵邸からメリークリスマス

冬のディバイン公爵領は厳しい寒さと積雪で、お世辞にも過ごしやすいとはいえないのだけれど、そんな冬にも稀に晴天に恵まれることがある。

『きょーは、はれー!!』
『イイテンキ、ナノ～』

連日灰色の雲に覆われた空が、今日は雲一つない青空だ。我が家の騒がしい妖精たちも、久々の天気に恵まれて嬉しいのか、外を飛び回っている。

フフッ、元気でなによりですわ。

「アオ、チロ、晴れているとはいえ、寒いことに変わりはないのだから、身体を冷やさないようにね」

妖精たちを眺めながら、頬にあたる冷たい風を感じ、放射冷却で夜は冷え込みそうですわ、などと思いながら澄んだ青空を見上げた。

「おかぁさま、まちのいりゅみ、ねーしょん、ぺーちゃんに、みしぇてあげたいの」
「イルミネーションを? お庭のライティングではダメですの?」
「まちのね、いりゅみ、ねーしょん、きれーなのよ」

ぺーちゃんとお散歩していたノアが突然、街にイルミネーションを見に行きたいと言うではないか。ぺーちゃんも期待に目を輝かせてこちらを見ている。

どうしましょう。イルミネーションということは夜に出歩くことになりますわ。しかも今日は特に冷え込むと思うのよね⋯⋯。ぺーちゃんはまだ赤ちゃんだし、ノアも風邪を引いてしまうかも⋯⋯。

「ノア、夜は寒いから⋯⋯」

このまま却下してもいいのかしら⋯⋯。せっかくノアがやりたいことをわたくしに教えてくれているのに。

ノアとぺーちゃんのキラキラとした目を見ていると、ただダメだと言うだけではいけない気がしてきた。

何か代案はないものかしら⋯⋯?

その時ふと、庭に生えているわたくしの背丈ほどの木が目に入ったのだ。

そうですわ!

「おかぁさま?」
「かぁちゃ?」

わたくしが庭を凝視し出したものだから、ノアとぺーちゃんが首を傾げる。

「ノア、ぺーちゃん、今はテオ様⋯⋯お父様が留守になさっているから、夜の街に行くのは難しいの」
「いるみ、ねーしょん、だめ?」
「じゃめぇ?」

わたくしの言葉に落ち込む二人に、首を横に振る。

「ですから、このお庭でイルミネーションに負けないものを作りましょう!」

そう伝えた途端、ノアが驚いたように目をまん丸にして、わたくしとぺーちゃんを交互に見る。

「おにわで、いりゅみ⋯⋯、いるみ、ねーしょん、まけないもの!!」
「ぃ～み、にゃーちょ、みゃっ、ない!!」

ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ二人が微笑ましくて、カミラやマディソンと一緒に笑ってしまいましたのよ。


◇　◇　◇


さて、子供たちにイルミネーションにも負けない、アレを見せてあげる為にはまず、電飾の代わりに光の魔法を込めた魔石をたくさん集める⋯⋯わけにもいきませんのよね。なにせ、魔石は希少でとても高価なもの。

だったらどうするのか、というと―――

「作っていて良かった、クリスマスのオーナメント～!」

『おもちゃの宝箱』のイベント用に製作していたオーナメントを、ノアにも見せてあげたいと思い、用意していましたのよ。

「うわぁ! キラキラ、いーっぱい!」
「ぃーっぱ!!」

高級感あふれる箱に入っている、輝くオーナメントを、ノアとぺーちゃんは宝物を見るかのように、嬉しそうに眺めていた。

尊いですわ。

ちなみにこのオーナメントは、地下迷宮にあった光苔を塗料と混ぜて使用している為、暗い場所で光る仕様だ。

「さぁ、このキラキラたちを、これから皆で、お庭の木に飾りつけていきますわよ」
「き?」
「ちぃ?」

街のイルミネーションとはちょっと違うと感じたのか、ノアが不思議そうにわたくしを見る。ぺーちゃんはそんなノアを真似していて、とっても可愛らしい。

「ふふっ、クリスマスツリーを作るのですわ」

ツリーにぴったりの木があって良かったわ、と思いながら、美咲だった頃のクリスマスを思い出す。

クリスマスの音楽や、イルミネーション、ショーウィンドウの飾りつけ、そして大きなクリスマスツリー。もちろん美味しい料理とケーキも忘れてはいけませんわ。

思い出すとお腹が空いてくる。

わたくし、あの雰囲気が好きでしたのよね。子供たちにも、楽しいクリスマスを体験してもらいたいですわ。


こうしてわたくしとノア、ぺーちゃんで、庭の木にオーナメントを飾りつけていったのですわ。途中で妖精たちも乱入し、とっても賑やかな飾りつけとなった。

「すごーい! おにわのき、ぱーてぃー、いくみたいね!!」

ノアはオーナメントをつけた木が、パーティーで着飾った人に見えたみたいですわ。

『アオ、このあおいキラキラ、つけた!!』
『チロ、クマサンツケタノ～』
「ぺぇちゃ、にゃんにゃ!」

それぞれ飾りつけたオーナメントを発表しておりますわ。ぺーちゃんはネコのぬいぐるみをつけましたのね。

「残るはてっぺんのお星さまだけですわね」

クリスマスツリーのメインイベントといえば、てっぺんの星ですわ!

「おほしさま、ちゅけたい!」
「ぺぇちゃ、みょ!」
『アオも～!!』
『チロモナノ～』

わたくしの言葉に、一斉に自分がつけたいと言い出す子供たち。そうなるだろうとは思っていましたの。

「あらあら、それでは皆で一緒につけましょう」

ノアはわたくしが、ぺーちゃんはマディソンが抱き上げて、星のオーナメントを持たせると、妖精たちも星に抱きつくようにくっついた。

『『「「せーの」」』』

てっぺんに星がついた庭の木は、立派なクリスマスツリーとなって、子供たちを笑顔にしてくれましたのよ。

「そうだ。おかぁさま、くしゅり、ます、なぁに?」
「ぅちゅ、みゃしゅ?」

素敵なツリーを見ながら、思い出したようにノアから質問される。それをペーちゃんが真似して、同じような表情で見上げてくるではないか。

子供たちがわからないのも当然ですわ。この世界にクリスマスという言葉も行事もないのだから。

「クリスマスはね、みんなが楽しく過ごす日ですのよ」

そう答えると、

「じゃあ、まいにち、くりしゅ、ましゅね!」

ノアはそう言って満面の笑みを見せたのだ。

「フフッ、確かにそうですわね」


その夜、光苔のおかげで光るオーナメントは、前世のクリスマスツリーと変わらない美しさで庭の木を彩り、ディバイン公爵邸の皆を喜ばせた。

そうそう、実はね、わたくしとノアの目には、オーナメントだけでなく、星々のように光る妖精の卵たちが、クリスマスツリーに集い、楽しそうに舞い踊る、幻想的で特別なツリーが見えていましたのよ。

ディバイン公爵邸からメリークリスマス、ですわ!



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いつも『継母の心得』をお読みいただきありがとうございます。

読者の皆様、お久しぶりです。
なかなか更新できず、申し訳ありません。
にもかかわらず、読み返して楽しんでくださったり、コメントをくださったりと、皆様の優しさが身に染み、感謝しかありません!

そして、Renta! マンガ大賞とコミックシーモア 電子コミック大賞にご投票いただき、ありがとうございます!
Renta! マンガ大賞では皆様のおかげで「総合大賞」を受賞いたしました。心より感謝申し上げます!

感謝の気持ちを込めて、クリスマスにお話を一つ、更新いたしました。
楽しんでいただけると嬉しいです。

※ある読者様から、くまさんのついたお花をいただきました!（←ちゃんと届きましたよ～）
添えられたメッセージカードのコメントもめちゃくちゃ感激しました。
本当にありがとうございます!