継母の心得

トール

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第二部 第2章

340.心臓バクバクよ

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オリヴァー視点


「ドニーズがどこにもいないだって……?」

ドニーズを乗せて出かけた御者が、一人、慌てて戻って来たので何事かと問えば、ドニーズの行方が、教会でわからなくなったのだと、真っ青な顔で答えるのだ。

「はい。待てども、待てども、馬車に戻って来ないので、シスターをつかまえて聞いたんですが、先ほど帰られましたの一点張りで……」
「帰ったって……っ、まだ戻って来てないし、ドニーズが黙って帰るなんて、そんな事はしないだろう」
「そうなんです。しかもこの大雨の中を、馬車も無しに一人で帰るなんてありえません! もちろん教会内部も探してみたのですが、教会関係者以外は、ドニーズさんどころか人っ子一人いやしませんでした……」

どうしてそんな事に……

「ドニーズは間違いなく、教会へ入っていったんだよね?」
「はい。教会へ入ったのを確認して、私は馬車を聖水の泉のそばに寄せて、聖水を汲んでおりました。聖水の泉は教会の裏側にあるので、人の出入りは私には確認出来ませんでしたが、30分程待っても来られないので、何かあったのかと思い、シスターに……」

だけど、帰ったと言われたのか……。

「それは、ちょっと変だよね……」
「はい……」
「そのシスターの顔は覚えている?」
「はい。帝都の教会に昔からいる、年配のシスターです。確か他のシスターを統括するような立場の方ではないかと」
「なるほど」

もしかしたら、厄介事に巻き込まれたのかもしれない。

「ディバイン公爵閣下……、お義兄様に連絡してみるよ。あの人なら、助けてくれるかもしれない。それと、僕も教会に行って聞いてみるから、もう一度馬車を出してくれるかな」
「は、はいっ」

急ぎ義兄に手紙を書く。

今は繁忙期だから皇城に居るはずだ。もしいなければ、義兄に手紙が届くのも時間がかかるかもしれない……。

「フローレンスの事は頼んだよ」

使用人にそう告げて、土砂降りの中、馬車に乗り込む。お姉様からプレゼントしていただいた、新型馬車だ。
多分シモンズ伯爵家を前面に押し出して教会へ乗り込む方が良い気がする。

「お義兄様……どうか皇城にいてください───」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




イザベル視点


「おかぁさま、ねんね?」
「はい。ですからノア様は、あちらで遊びませんか?」

ん……、あら……?ノアがもう起きたのかしら。わたくしも起きないと……瞼が重くて、なかなか開きませんわ……。

「ぺーちゃんも、ねんねちてる……」

ノアのすこし不満そうな声に、昼寝をしたからさらに元気が出て、遊びたくなっちゃったのね、と夢うつつに思う。

「ぺーちゃん様はまだ赤ちゃんですから、たくさんねんねする必要があるんですよ」
「アスでんかと、あしょぶ!」

トトッと可愛らしい足音が聞こえる。イーニアス殿下の所へ行こうとしていますのね。

「あぁ……っ、ノア様。イーニアス殿下はお勉強の時間ですので、カミラと遊びましょう!」
「オーガごっこしゅる?」
「え……は、走るのは苦手ですぅ……」

あらあら、ノアが珍しくカミラを困らせていますわ。

「う~ん……あっ、かくれんぼ、しゅるのよ!」

ノアがカミラの為に良い遊びを思いついたその時、ゴロゴロ……、ドンッとどこかに雷が落ちた。とても大きな音に、夢うつつだったわたくしも、飛び起きましたわ。

「び、びっくり……っ、ノア、大丈夫……?」

ノアを見ると、お目々をまん丸くしたまま固まっているではないか。

結構近くに落ちたようなビリッとした衝撃だったから、怖かったに違いないわ。

「ノア?」
「ふ……っ、ぅえ~っ」

わたくしが起きた事に気付いたノアは、泣きじゃくって抱きついてきた。

「大きな音に驚いてしまいましたわね」
「ぉか……っ、ぅぐ、おがぁざまぁ……っ」
「ええ、ええ。怖かったのね。もう大丈夫ですわ」

ノアを抱き上げ頭を撫でている間も、雷が鳴っていて、ノアはなかなか泣き止まない。さらに、

「びぇぇ!!」
「ぺ、ぺーちゃん様も雷で起きてしまわれました……っ」

ヒェッとカミラは慌てて寝室へ飛び込むと、大号泣するぺーちゃんを抱っこしてやって来たのだ。

「カミラ、ありがとう。ぺーちゃんも雷の音にびっくりしちゃったのね。ノアもぺーちゃんも、お母様とカミラとマディソンがそばにいますからね。大丈夫ですわ」
「かぁちゃ~!」

カミラの腕の中から、わたくしの方へ来ようと必死に手を伸ばすぺーちゃんに、カミラが困っている。

「ぺーちゃん様、お母様はお二人を抱っこするのは難しいですから、ぺーちゃん様はこのばぁばで我慢してくださいませ」

マディソンがやって来て、安定感のある抱っこをされ、ぺーちゃんがやっと落ち着いてきた。

さすがマディソンですわ。ベテランの風格ね。

「ノア、可愛いお顔をお母様に見せてちょうだい」
「……はぃ……ぐすっ、わたち、びっくりちたのよ」
「ええ。お母様もびっくりしてしまいましたわ」
「こわい、なったの」
「そうね。心臓がバクバクしてしまいましたわね」
「しょう! ばくばくちたの!」
「ぺぇちゃ、みょ!」

あらあら、泣き止みましたけど、どれだけ怖かったのか熱弁を振るっていますわ。

『ベル! 大変、大変、大変だよー!!』

可愛い子供たちの熱弁に微笑ましさを感じていたのだけど、そこへ正妖精が現れたのだ。

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