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第二部 第2章
379.不死の神殿 〜 イザベル視点/ テオバルド視点〜
しおりを挟むこのまま鍵を隠し、無駄に時間が経過して、フロちゃんに負担がかかるのはよくないと、テオ様は鍵を渡す事を選択した。
「鍵はここにある」
まるで身代金を渡すように鍵を渡すテオ様と、それを息を潜めて眺めている皇后様は、娘を誘拐された大企業の若社長と刑事に見えてくる。
枢機卿は鍵を疑わしげに受け取ると、宝物庫の中をしきりに見回す。そして、無造作に床に転がっていた、ピカソの『夢』に似た女性の絵の前まで行くと、その絵画をそばの壁に飾り始める。結構な大きさで、日本の一般的な玄関扉くらいありそうだ。そんな大きなものを軽々持つ枢機卿は、意外と筋力があるのかもしれない。それにしても、
何をしているのかしら……
じっと眺めていると、枢機卿はその絵に鍵をかざす。鍵はふわりと浮かび、鍵穴に差し込まれるように絵に吸い込まれ赤く光だすと、ガチャッと音がして、その後扉のように開いたではないか。
魔法で隠された、秘密の部屋……
「まほうだ……」
「しゅごいのよ」
「みゃぉおー!?」
「フェリクスや、その発音では、公爵閣下と魔法の区別がつき難いですぞ」
「にゃ……」
子供たちが興味津々で身を乗り出し、魔法だ、魔法だと騒いでいる。そのまま走り出さないよう、ノアの手を握っているが、今にも駆け出してしまいそうだ。
「ベル、君はここでノアたちと待っていてくれ」
「え!?」
テオ様は、絵の扉の中に入っていく枢機卿とフロちゃんを追って、あっという間にそこへ飛び込んでしまった。
「テオ様っ」
止める間もなく、行ってしまった旦那様にを呆然と見つめるしか出来なかったのだ。
「おかぁさま、まほーのおへや、いっちょ、いく?」
きゅっと手を握り返して、わたくしを可愛く誘う息子につい、頷きそうになるが、何が起こるかわからない所に子供を連れて行くわけにはいかない。
「イザベル様、行きましょう。イーニアスがいるなら罠は発動しないし、危険はないと思うわ!」
皇后様は、罠が発動しないという安心感からか、好奇心が勝ってしまったようで、目が子供たちと同じように輝いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
テオバルド視点
絵画の扉を潜ると、狭い部屋がそこにあるだけで家具など一切ない。
枢機卿はフローレンスを小脇に抱え、赤い……魔石に似た石を手に「これで……っ」と呟いた。
『な、なんじゃコリャ!』
「あかいとりさん、えがとびらになって、まほうのへやが、あらわれたのだぞ」
『騒がしいと思って来てみれば、イーニアスよ、おぬしがここを開けたのか!?』
「すうききょうがあけて、わたしたちはいまから、はいろうとしているところだ」
入口から聞こえてきた声に、子供たちが部屋に入ろうとしているのがわかり、溜め息を吐きそうになる。
私の妻と子は、好奇心を抑えられなかったか……
「まぁっ、大きなオウムですわ!」
「おかぁさま、ちんじゅーの、あかいとりさんよ」
「このオウムが、珍獣ですのね! あら? 身体が燃えていますわよ!? 消火しないと!」
『わしを焼き鳥と一緒にするでない! しかし、オームとはなんだ? なかなか格好良い響きよな』
緊張感の欠片もないが、一体何の話をしているのか……。
それより、枢機卿の持っているものはどのような効果のあるアイテムか確かめなければな。
「ウィーヌス枢機卿、貴殿の目的は、死者の蘇生か、子供の行方を探す事か」
「……ディバイン公爵、あなたなら、もうお分かりでしょう」
聖女であるフローレンスを解放しなかったという事は……
「死者の蘇生か」
「……娘を見つけ出す事と迷いました。ですが私は、もう一度、ポレットの声が聞きたい……っ、あの笑顔が見たいのです……」
「死者は、生き返る事はない」
「いいえ。……公爵は、この神殿が何と呼ばれているかご存知ですか?」
枢機卿はそう問いかけると、口の端を僅かに上げて、こう言った。
「『不死の神殿』です」
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