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第二部 第2章
380.世界を魅了する可愛さ
しおりを挟む子供たちと絵画の扉の中に入ろうとした時、思ったよりも大きな、赤いオウムが羽を広げ飛んできて、ちょっと怖かったのは皆には内緒ですわ。
どうやらこの鳥が、子供たちの言う『あかいとりさん』で……、でもこの鳥さん、燃えていますのよ!? 早く消火しなければ死んでしまうわ! と慌てていたのだけど、サリーから、炎に見えるのは魔力が可視化されたものだと聞いて、やっと落ち着けましたの。それにしても、最近のオウムって喋りが達者ですのね。
『この部屋は、あのアイテムが隠されておる所だぞ!』
「あんた、今のいままで忘れてたわよね!?」
「あいてむ……? あかいとりさん、それは、なんですか?」
『あのアイテムとは……』
オウムがすっごく深刻な声で、隠されたアイテムとやらの説明を子供たちにしておりますのよ。でも、皇后様は鍵の事も部屋の存在も忘れていたのに! と怒っておりますわよ。
「───正確には、『不死鳥の神殿』です」
絵画の扉の部屋に入ると、枢機卿の話し声が聞こえてくる。
「不死と蘇生は異なるが、不死鳥ならば、貴殿が固執する理由はわからなくもない。死んでもその灰から蘇る鳥……しかし、その石はどう見ても不死鳥には見えないが?」
「この石は、『使用者の能力を最上位にしてくれるアイテム』です」
燃えるオウムが、イーニアス殿下たちに説明していた通りの事をテオ様と話していますわ。
「貴殿の行動から予想はできていたが……本当にそのようなアイテムがこの神殿に眠っていたとは」
テオ様は予想していたらしいのだけど、そのアイテム、何かと等価交換しなければならないような呪いのアイテムではありませんわよね?
「聖女の能力である治癒の上位魔法は、何だと思いますか?」
「アスでんか、ちゆ、きじゅ、なおしゅ?」
「うむ、そうだぞ。ノア。しかし、きずをてあてするより、もっとすごいまほう……わかった! おはだを、きれいにするまほうだ!」
「おはだ、ちゅるちゅる!」
イーニアス殿下、それは素晴らしい美容魔法ですわね。
「……『死者の蘇生』ですよ」
枢機卿はわたくしたちをチラッと見ると、なかったかのように話を続けた。
「フローレンスは祝福の儀もまだの幼子だ」
「あなたの息子は、魔法を使えるのでしょう」
枢機卿は、赤く輝く石を握り締め、何かに耐えるように目を閉じる。
「ノア、おはだがきれいになる、まほうではなかった……」
「はじゅれ、ざんねんよ」
「うむ。ざんねんだ」
クレオ大司教は笑うのを我慢しているのか、何だか変な顔になっている。ぺーちゃんは、「にゃあ、にぇん」とおそらく「ざんねん」と言っているのだろうけど、にゃんこの鳴き声にしか聞こえない。
「ここから感じる魔力の量からいって、使えるのは一度きりでしようね……」
「貴殿の特異魔法は、やはり魔力感知か」
「……その通りですよ」
やっぱりそうでしたのね。
「魔力感知の能力値をあげれば、貴殿の子供を探し出せる可能性は高い。それでも、死者の蘇生という不可能といえるものを選択するのか」
「もちろん娘は探し続けます。ですが、聖女とアイテムという蘇生の条件が揃っていて、試さず後悔はしたくない!」
枢機卿の頑なな思いを、その場にいた皆が静かに聞いていた。子供たちすらも。それほど切実なものだったからだ。
「珍獣、数点確認したい」
静まり返った場に、テオ様の声が響く。『珍獣だと!? わしは偉大なる……』と羽を広げ、ギャッギャと鳴いている途中に、テオ様は食い気味で続ける。
「この石は本当に『使用者の能力を最上位にしてくれるアイテム』なのか」
『わしが話しているというのに……っ。ゴホンッ、それは間違いない』
「では、アイテムの使用者に何らかの負担があるのだろうか」
『そんな呪いのアイテムではないわ! それには神獣の力が込めてあるのよ。使用者の能力を普通に底上げしてくれる、この、わしの力がなぁ!』
珍獣の力が込められていますの!?
ハッハッハと空に向かって笑い声を上げるオウムは、胸を張って自慢気だ。
「祝福の儀を受ける前の子供でも、安全に使えるのだろうか」
『もちろんだ! そなたの息子ならば一国を滅ぼす力を手に入れるであろう!』
そんな力、可愛いノアには不要ですわ! だって今も、国どころか世界を魅了する可愛さを持っていますのよ!
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