継母の心得

トール

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第二部 第3章

390.歌う靴

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「あら、シモンズ伯爵ならアタシが迎えに行ってあげるから大丈夫よ! 一泊なら伯爵も時間が取れるでしょ?」

などと、会議が終わった後に皇后様が提案してくださったが、それはそれで、お父様がびっくりしてひっくり返りそうですわよ。

「それよりイザベル様、赤ちゃん用品の新商品は一体何を作る気でいるの?」
「今考えておりますのが、オムツと、馬車用チャイルドシート、後はベビーバスやスキンケア商品でしょうか」

リッシュグルス王国で紙が開発されたから、紙オムツが作れるのか研究したいですし、馬車はノアを見ていたら、チャイルドシートがないと危険な気がしますのよ。
誘拐された時も、チロに座席から転がり落ちそうだったと聞いた時は血の気が引きましたもの。

「オムツやベビーバスはもうあるじゃない。それなのに新商品にするの? ちゃいるど、なんとかっていうのはよくわからないのだけど、なぁに?」

皇后様は興味津々で、開発着手すらされていない商品に関してもグイグイ質問してくるのだ。

好奇心旺盛だからこそ、皇后の仕事も楽しくやれているのかもしれませんわね。

「皇后様、まだ着手しておりませんので何とも言えませんが、新型馬車と同程度には、衝撃的なものを開発してみせますので、少しお待ちくださいませ」
「新型馬車と同程度!? イザベル様、それ、企画書が出来た時点でアタシに見せてちょ、」
「皇后陛下、ベル商会の新商品情報を手に入れようとしないでいただきたい」

目を輝かせて、ノアのお願いポーズと同じポーズをする皇后様に、たじたじになっている所に、テオ様が救いの手を差し伸べてくれた。

「テオ様、誤解しないでちょうだい! アタシは商会の情報を仕入れようとしているんじゃないの。イザベル様がヤバいものを作り出すんじゃないかって、警戒してるのよ!」
「ちょっと皇后様!? わたくし危険人物ではありませんのよ!?」

失礼な事を言っている皇后様に抗議していれば、テオ様まで「すまないベル。それは否定できない……」なんて言うものだから、地団駄踏みそうになりましたわよ。

「二人とも、わたくし企画書を作りますので、それを見てから仰ってくださいまし!」

ノアがここにいたら、「おかぁさま、ぷんぷんちてる?」と言われそうなほど、ほっぺを膨らませ、すれ違う使用人に生温い目で見られながら仕事部屋へ閉じこもると、リッシュグルス王国で製造された紙を大量に取り出す。
そして、怒涛の勢いで企画書をしたためていると、

「おかぁさま、おさんぽのじかんよ」
「かぁちゃ、ぅちゃ、じーにょ!」

ノアとぺーちゃんがお散歩にお誘いに来てくれた事で、時間が経過していた事に気が付いたのだ。

「あらあら、もうお散歩の時間でしたのね。二人とも、迎えに来てくれてありがとう存じますわ」
「はい!」
「にゃ!」

ノアとぺーちゃんはおててをつなぎ、片手を上げて元気にお返事すると、可愛い笑顔を見せてくれた。

「そうですわ! ぺーちゃんに試してもらいたい、靴がありますのよ」
「ぺぇちゃ、ぅちゅ?」

赤ちゃん用の、音が鳴る靴の試作品が出来上がったので、ちょっと試してもらいたいと思い、ぺーちゃんに履いてもらう。

「マジックテープで留められるようになっておりますの」
「わたちと、おんなじおくちゅ!」
「そうですわね。ノアもマジックテープの靴を持っていますわね」

嬉しそうに、ぺーちゃんとお揃いだ、とはしゃいでいる息子に笑みが漏れる。

「はい。ぺーちゃん、これで歩いてみてくださいまし」
「にゃ!」

ぺーちゃんはいつものように、子猫のような返事をして、一歩踏み出した。

ぷ~……きゅぅ~

気の抜けたような音が耳に届き、吹き出しそうになる。

「にゃ!?」
「ぺーちゃん、おくちゅ、おうたうたってるのよ!」
「ぅちゅ、ぉーちゃ!」

ぷっきゅ、ぷっきゅっ

今度は弾んだ音を出す靴に、ぺーちゃんもノアも夢中だ。

「わぁっ、奥様、ぺーちゃん様の靴、音が出るんですね!」

カミラが可愛い! と絶賛してくれるので、音が鳴る靴が必要な理由を伝えたのだ。

「なるほど、音が鳴る事で、思いがけない行動をしてしまう幼い子の位置を、親御さんが把握しやすいという事なんですね!」

うるさいというクレームもくるかもしれないけれど、子供の命には変えられない。それに、わたくしはこのぷっきゅ、ぷっきゅという音は、とても可愛いと思いますのよ。
だって、小さなあんよで一生懸命歩いている音だと思うと、頬がゆるんでしまいますわ。

「ノアが歌う靴だと言っておりましたけれど、本当に、歌っているようですわね」

元気いっぱいの、可愛いお歌ですわ。

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