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第二部 第3章
391.落し物
しおりを挟む「子供の安全や、子育てのし易い環境を考えると、新商品の数もどんどん増えてしまいますわね」
数日かかってまとめた企画書は、週間少年漫画の雑誌ぐらい分厚いものとなってしまった。
いくらノッてきたとはいえ、やり過ぎたかもしれないとは少しだけ思ったが、書いてしまったものは仕方ない。せっかくなので開発を進めたいと思う。
もちろん企画書を見たテオ様に反対されると、開発も難しくなるかもしれませんけれど……。
「いつも企画書を提出する時は、ドキドキしますわ」
こういう時は、自分の旦那様とはいえ、上司の気分ですのよね。
今回、一番優先したいのは、馬車のチャイルドシートだ。考えているのは、ベビーカーの座席部分を取り外ししてチャイルドシートにもできるものと、6歳くらいまでは使えるものの二点で、テオ様にこの企画書をみせたらすぐ、試作品に取りかかりたいと考えている。
「チャイルドシートが出来るまでは、ノアを安心して馬車に乗せられませんわ……」
自分がどんどん過保護になっていっている気もするが、我が子の安全を一番に考えない親はいないだろう。
『ベル、チャイルドシート、ヒツヨーナノ』
「そうですわよね。チロ」
チロは、チャイルドシートの大切さをわかってくれたようですわ。さすがチロ。
「さぁチロ、テオ様にこの企画書を提出しに行きますわよ」
『イクノ~』
いざ、旦那様の元に!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ グランニッシュ帝国 皇城 ~
『アス、おべんきょー! アカ、つまんなーい!』
イーニアスが勉強に集中して、構ってもらえない中妖精のアカは、イーニアスのおもちゃ箱から、大きなピンクダイヤのついたネックレスを取り出し、自身の首にかけると、『パーティーごっこ!』と言いながら皇城の廊下をダンスをするように、くるくると回り飛んでいた。
このネックレスは、焔の神殿の宝物庫に落ちていたものらしい。
『アカ、ひとりつまんなーい!』
しかし、一人でパーティーごっこはつまらなくなってしまったのか、ピタリと止まると、首にぶら下げたネックレスをじっと見たのだ。
『コレ、おもーい! いらなーい!』
アカには大きく重かったネックレスを外すと、あろう事か皇城の廊下にポイッと投げ捨て、どこかに消えてしまったのだ。床に残されたネックレスは、窓から入る太陽の光に照らされて、それは美しく光っていた。
「はぁ……やっと仕事が一段落つきそうだ」
そこに運悪く通りかかったのは、グランニッシュ帝国の宰相だ。
ちょうど皇帝陛下に書類を持っていく所で、ピンクダイヤのネックレスが落ちている廊下を一人、歩いていたのだ。
「おや? 何か光って……」
少し距離があったものの、キラキラ輝いているネックレスの存在に気付いた宰相は、首を傾げながら近づいていき、それがネックレスだと認識できる、1メートルの距離で、
「ヒィッ!」
悲鳴を上げて歩みを止めたのである。
「な、何でこんな……っ、国宝級の装飾品が廊下に落ちているんだ!?」
おもちゃかとも思ったが、どう見ても本物のソレに、宰相の血の気は引いていく。
これを拾った瞬間、盗んだと疑われて首が飛ぶのでは……しかし、このままにしておくわけにもいかない。だけど、触るのは怖い。大体、こんなものを落として気付かない人がいるのか!?
宰相の思考はもうパニックだ。
「あら、こんな所で立ち止まって何しているの?」
「ヒィィッ! 私じゃありませんっ、無実です!」
「はぁ?」
国宝級のネックレスが皇城に落ちているという事は、この国の最高位の男の妻であり、実質この城の最高権力者である皇后陛下が持ち主で間違いないのだろう。
そんな人が、声をかけてきたものだから、宰相は飛び上がり、挙動不審に言い訳を口にする。
「何言って……げっ」
皇后陛下が宰相の足元にあるネックレスに気付くと、おかしな声を出すではないか。
「げ?」
「あ、あらぁ~。アタシったら落し物しちゃってたみたーい! 探してたのよね!」
その時混乱していた宰相は思い至らなかった。そのネックレスが、世界中で取り合いになり、戦争が起きるような代物だという事に。そして、それをグランニッシュ帝国の皇后陛下がいつの間にか所有していたという事に。
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