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第二部 第3章
397.叱られてしまいましたわ
しおりを挟むすでにある商売に参戦し、他社を淘汰するような事だけは止めて欲しいと、皇后様に念押しされたというのもあるのだけれどね。
「お姉様も色々考えていたのですね」
オリヴァーは意外だという顔をした後、感心したように頷く。
この子、姉を何だと思っているのかしら……、と問い質したいところをぐっと我慢し、サリーの淹れてくれたお茶を飲み干した。
「ミランダのお茶ももちろん美味しいけれど、久々のサリーのお茶も美味しいですわ」
「皇后陛下のくださった、超高級茶葉ですので」
少し嬉しそうなサリーは、わたくしが美味しいと言った事を喜んでいるのではなく、その超高級茶葉をシモンズ伯爵家へのお土産としてもいただいた事に喜んでいるのだ。
「ディバイン公爵家でも滅多に手に入らない、御料牧場で採れたものですのね」
「はい。超高級です」
先程から超高級を強調するサリーは、相当嬉しかったのかもしれない。まぁ、サリーは紅茶が好きですものね。
「淹れ方で味が変わる奥深さが、とても興味深いのです」
ああ、サリーは自分で飲むより、自分が完璧に淹れたお茶を人に飲ませるのが好きでしたわね。
「茶葉のポテンシャルを引き出す事に命をかけております」
「命まではかけないでちょうだい!?」
賑やかなやり取りをしている部屋の外では、皇帝陛下と皇后様が仲良さそうに庭を散策しているのが見える。皇后様は少女のように屈んで花を愛で、皇帝陛下はそんな皇后様を愛でていて、とても幸せそうに微笑んでいる。
「イザベル、紅茶は飲んではダメなんじゃないかい!?」
テオ様と会議室から出てきたらしいお父様が、わたくしが飲んでいる紅茶を見て叫ぶ。テオ様も目を見開き、紅茶を凝視している。
目力が半端ないですわ……
「お父様、テオ様、偶になら大丈夫だと、先生も仰っていましたわ。我慢をしてストレスを溜めるのが一番ダメだと言われましたのよ」
「そうなのかい? でも、飲み過ぎはダメだからね」
「わかっておりますわ。これ一杯だけですわ」
お父様は隣に腰を下ろし、心配そうに顔を見てくる。そうしてわたくしの両手をそっととると、
「イザベル、君は母親なのだから、自覚を持たないといけないよ」
叱られてしまいましたわ。
「はい……。申し訳ありません、お父様」
「閣下にも心配をかけないようにね」
テオ様はお父様の後ろで立ったまま、オロオロしていた。
他の人から見たら無表情なのでしょうけれど、アイスブルーの瞳が揺れていますのよね。
「テオ様も、申し訳ありませんわ」
「いや、医師から問題ないと言われているのならば、私は何も言う事はない……。君がストレスを溜めないようにする方が重要だ」
チラッとお父様が握るわたくしの手を見て、羨ましそうにするテオ様は、ノアとそっくりな目をしていてとても可愛らしい。親子ですわね、などと微笑ましくなってくる。
「イザベル、いくら閣下が優しくても、それに甘えてお腹の子の健康を害するのは、君の命も危険にさらすことなんだからね。ただでさえ身体が弱いのだから、無茶な事はしないように。いいね?」
「はい。気をつけますわ」
「私はどうにも心配だよ……」
お父様に心配をかけてしまいましたわ。
オリヴァーにはよくお説教されるけど、お父様は普段怒ったりはしませんから、ちょっと驚きましたわ。今も怒っているというより、諭されている感じではあるのだけれど。
「そういえば、ノアの姿が見えないようだけど、どうしたんだい?」
「ノアなら今の時間はお勉強中ですわ。今日は算数のお勉強をするのだと。嬉しそうにお話ししてくれましたのよ」
お父様は孫を溺愛していますから、会うのが楽しみだったに違いありませんわ。ただ、こちらに到着してからすぐ会議だったので、まだ会っていませんのよね。
ノアも楽しみしておりますし、それに、何やらおじい様にプレゼントをするのだと、昨日ぺーちゃんと一緒に何か作っておりましたっけ。
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