継母の心得

トール

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第二部 第3章

396.完璧な物はあえて作らない

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ティーカップから湯気がたち、紅茶の良い香りが鼻をくすぐる。
一時中断した会合は、現在お父様とテオ様のみが会議室で話し合っている状態で、皇后様と皇帝陛下は休憩に入られている。わたくしも弟のオリヴァーと休憩中で、皇后様が持ってきてくださった、高級茶葉を味わっている所なのだ。

「ハァ……、緊張しました」
「そうね。皇帝陛下と皇后陛下の前ですものね」
「それもありますが、お義兄様に対峙するのは未だに緊張します」

などとオリヴァーはソファにもたれ、ぐったりといった様子で天井を見上げた。

「ふふっ、テオ様は無表情ですものね。でも、オリヴァーには最初から優しかった気がしますわ」

わたくしなんて、目も合わせてくれないどころか、最初は口もきいてくれませんでしたもの。

「そういえば、お義兄様はもっと寡黙な方かと思っていましたが、気を遣ってくれているのか、よく話しかけてくださいますよね」
「テオ様は無表情ですし、氷の大公と呼ばれるほどには怖がられておりますけれど、寡黙ではありませんわね」

意外と話し上手な所もありますのよね。わたくし、テオ様とデートしていても、退屈したことありませんもの。そんな所も、皇后様に言わせれば、素敵だと黄色い悲鳴をあげておりましたっけ。

「……というか、お姉様」
「なぁに? オリヴァー」
「さっきの会合で、皇后陛下がお疲れだったのは、絶対お姉様のせいですよね」
「え!? そ、そんな事ありませんわよ」

テオ様の話から急に、矛先が変わり、わたくしは弟から目を逸らす。こういう時の弟は、ちょっと怖いのだ。

「お姉様、以前から言っていますよね。暴走はほどほどに。他人に迷惑をかけるな、と」
「暴走だなんて……っ、人を暴れ馬のように言わないでちょうだい」
「実際暴れ馬より制御不能になるんですから、もっと酷いですよ」

まぁ! オリヴァーったら、姉に対してなんて言い草なのかしら。

「化粧水の事も、まだ何も決まっていないうちから、教会と共同で、だなんて……。こっちは開いた口が塞がりませんでしたよ」
「ぅう……」

何も言い返せませんわ。

「それは皇后陛下も驚きますよ。挙げ句、化粧水の分量を変える事が出来るだなんて……、いつそんな事がわかったんですか?」
「ずっと研究を続けておりましたのよ。ただ、聖水の量を減らすと、保存期間が短くなってしまうのがネックで……」
「ああ、聖水には毒消しの効果があるのですよね。確かにその量を減らすと、期間が短くなってしまうのも無理はありません。ですが、他商会が使っている保存料を使えばいいのではありませんか?」

そう思いますわよね。けれど……

「保存料と聖水の相性が最悪ですのよ……」

保存料といっても、植物由来のものなのだけれど、保存料に使われる植物と聖水は混ざると異臭を発するのですわ! もう、臭いのなんのって! 放置された生ゴミのような匂いですの……。

「そうだったんですか……。それで、問題は解決したんですか?」
「それがね、全く解決策が思いつかなくって……」
「お姉様でも無理なのですか?」

お姉様でもって、オリヴァーはわたくしが天才学者とでも思っておりますの? いえ、いつも小馬鹿にしてくるから、そんなわけありませんわよね。

「そんなにすぐ問題が解決するわけがないでしょう」
「お姉様なら他の保存料を見つけ出して、また皇后陛下をひっくり返すと思っていました」

わたくしが、皇后陛下を転がしたわけではありませんけど!?

「ゴホンッ、それで、ずっと悩んでおりましたらね、そこにノアがやって来て……『おかぁさま、みーんな、なかよち、しゅるのよ』って」

その言葉でハッとしましたのよ。

「もし、保存できる完璧な化粧水を作ってしまったら、他の商会から出ている化粧水が売れなくなってしまいますの」
「はぁ……」

オリヴァーはよくわからないのですが、と首を傾げて話を促した。

「例えば商品を選ぶ時って、価格や見た目などが自分に合ったものを選びますでしょう」
「当然です」
「だから同じ物を売っているお店があっても、価格が安い事を重視する人はこの店、質を重視する人はこの店ってお客様が分散するから商売が成り立つわけでしょう」
「そうか……、お姉様が完璧な化粧水を作ってしまったら、それしか売れなくなって、結局他商会の商売が成り立たなくなってしまう……っ」

そうなのだ。まさか国政の一角を担うディバイン公爵家の夫人が、自国から商会を淘汰するわけにはいかない。

「ですから、あえて短い保存期間で、さらに数量限定にして、他の商会が参戦し易いようにした方が良いのではないかしら。と考えたのですわ」

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