179 / 369
第二部 第3章
395.万能化粧水
しおりを挟む化粧水を作ったと思ったら、異世界もののマンガに登場するポーションのように、傷が治る液体が出来てしまった。
とはいえ、怪我をしてすぐというよりは、手当てした後の傷跡に効果があるようで、一週間からひと月使い続けると、徐々に綺麗になっていくというものだった。
「傷跡や、傷のひきつれにも効果があるようですわ……」
即効性はないようだけど……、困ってしまいますわ。これは封印した方が良いのかしら……。
「奥様、恐れながら、あまり表には出さない方がよろしいかと愚考いたします」
「そうよね……。ミランダは使ってみてどうだったかしら?」
「……はい、お陰様で、傷跡も綺麗になりました。くすみも消えて、肌もツルツルになったような気がします」
とても素晴らしい効果ですけれど、聖水を美容品として使っている事が、教会に知られてしまうと怒られるかもしれませんわ……。
「みんな特に赤く腫れたり、ブツブツが出たりはないようですわね」
「はい。やはり聖水が主成分だからでしょうか。逆にブツブツが出やすい体質の者は、こちらの化粧水を使い始めた事で出なくなったようです」
思った通り、アレルギーを抑える効果があるようね。
「それは良かったですわ。洗濯場の子たちの、赤切れなどにはあまり効果がないようだけど……」
先日洗濯場の様子を見に行ったのだけど、まだ手には赤切れがありましたもの。
「そのような事はございません。確かに即効性はございませんが、傷の治りは早くなり、荒れていた手も綺麗になったと報告がございました」
「そうでしたの?」
「恐らく、ひと月ほど水仕事をしなければ、傷のない美しい手になるでしょう。とはいえ、そういうわけにもいきませんので、そこは多少改善したということで、本人たちはとても喜んでおりました」
なるほど……。ゴム手袋があれば、水仕事で手も荒れにくいわよね。洗濯機は無理でも、ゴム手袋の開発なら出来るかしら? オリヴァーが今頑張ってくれてるようだけれど。
「洗濯場の使用人には、引き続き化粧水とハンドクリームを塗るように徹底してちょうだい。冬場は特に辛いだろうから、携帯用湯たんぽも持ち歩くように。くれぐれも火傷には気をつけてね」
新素材でカイロのような大きさのケースを作り、そこにお湯を入れて袋に入れ、持ち運べるようにしたのだ。冬場はそれを皆に持たせている。
「かしこまりました。携帯用湯たんぽの支給はご指示通り使用人全員にしております。奥様が作ってくださった新たな制服はポケットが多いですので、そちらに入れております」
厚手の袋に包まれておりますので火傷は大丈夫だとは思いますが、気を付けるように伝えておきます。とミランダは言って、いつもはあまり表情を変えないのだが、少しだけ微笑んでいた。
ちなみに、携帯用湯たんぽと、布団に入れるタイプの湯たんぽは、ウォルトが目をつけ売り出した所、大ヒットしている季節商品なのだ。
ウォルトったら、本当商才がありますわよね。
「それとミランダが言う通り、化粧水は表に出さず、ディバイン公爵家でのみ使用しましょう」
「それがよろしいかと」
「皆にも口止めしておいてもらえるかしら」
「かしこまりました」
化粧水は表に出さなければ問題にはなりませんわよね!
そう思っていたのだけれど……、
「奥様……っ、お願いします! どうか……っ、どうか、娘にこの化粧水を使用する許可をいただけないでしょうか……っ」
わたくしの前で土下座するメイドに驚いたけれど、娘さんに、何かあったようだった。
「落ち着いて……。娘さんに何かありましたのね? 詳しく教えてもらえるかしら?」
「っ……うぅ……奥様……っ」
メイドは涙を流しながら話してくれたのだ。
10歳になる娘さんが、顔に火傷を負ってしまった事を。
「それは大変ではありませんの! 化粧水の前に聖水でよく洗わなくては!」
感染症になってはいけませんもの!
「は、はい……っ、お医者様にもそのように言われ、こまめに聖水で顔を洗うようにしております」
「では、痛みが引くまでは聖水だけで洗い、痛みが引いてから化粧水を付けるようにいたしましょう」
「っ……奥様、ありがとうございます……っ、この御恩は決して忘れません!」
額を地に付け、肩を震わせるメイドの背を撫でる。
「今まで不安だったでしょう。娘さんが落ち着くまで、有給休暇を取りなさい」
「奥様、ですが……っ」
私の言葉に不安そうに見つめてくるので、改善したばかりの雇用形態の話をする。
「本来有給休暇はこういった時に長期間休みを取るためにあるのですわ。あなたが皆にお手本をみせてちょうだい。ミランダ、大丈夫ですわよね」
「はい」
わたくしは、消炎効果のある植物を探してみましょう。今のままの化粧水では、治るまでに時間がかかりそうですもの。
こうして誕生した化粧水は、結局化粧水ではなく、薬として使われるようになるのだけれど、わたくしは人類の宝であるノアのマシュマロ肌も、メイドの娘さんの肌も守れたので、満足ですわ!
「おかぁさま、ノア、おみじゅぬりゅ、おじかんよ」
「フフッ、そうね。化粧水、お母様が塗ってあげますわね」
「あーい!」
◆◆◆
という事がありましたのよね。あの時のノアも可愛かったですわ。
その後、皇后様が使用人やわたくしの肌が綺麗になっている事に気付いて問い詰められ、いつの間にか皇后様も使用する事になって……。
あれから一年経ったのですから、そろそろ世に出そうかしら。なんて思っていたら、ちょうどこの会合が開かれましたのよね。
「───イザベル様、それで良いかしら?」
皇后様に話を振られて、ハッと我に返り反射的に返事をする。
「え、あ、はい。教会に関しては理解いたしました。スキンケアは、今は薬として使用している面が強いのですけれど、そこはもっと効果を薄めて売り出す方が良いのでしょうか?」
「え、あれって薄める事が出来るの!?」
「分量を変えれば可能ですわ」
またもやひっくり返った皇后様に、会議は一時中断したのである。
8,271
あなたにおすすめの小説
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート
☆書籍化 2026/2/27コミックス3巻、ノベル8巻同時刊行予定☆
ノベル8巻刊行前に8巻に掲載される番外編を削除予定です。何卒よろしくお願いいたします】
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。