継母の心得

トール

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第二部 第3章

405.お風呂に入りたがらない子供の為のおもちゃ

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「こういう時の為に、アレがありましたわ!」

以前、テオ様とノアが一緒にお風呂に入った事があったのだけど、その時にノアが早々に出てきて驚いた事がありましたのよ。それで、もっと楽しいお風呂タイムにしてもらいたくて、色々考えましたのよね。

定番の、水に浮かべるアヒルさんをオマージュして、アヒルさんをアカとアオの姿にしたものを、まず作ったのだけど、お風呂で浮かべると、何だか死体みたいになりましたのよね……。アカとアオは大喜びでしたけれど。

これはダメだと片付けましたけれど、何故か偶に浴槽に浮いているのは、妖精たちのせいだろう。

次に挑戦したのは、シャンプーやボディーソープでソフトクリームを作るというおもちゃなのだけど……

「まさか、壁にくっつける方法で頓挫するとは思いませんでしたわ……」

磁石になっているユニットバスの壁じゃないのですから、くっつくわけがありませんのよ。しかも磁石すら見つかっていないなんて……っ

いつか磁石を発見してやりますわ! と気合いを入れた後、さらに頭を悩ませて、やっと思いついたのが、壁に投げるとピタッとくっつく吸盤人形でしたの。
これは手の運動能力も向上する知育おもちゃですのよ。しかもお風呂が楽しくなるので、一石二鳥ですの。

ただ……、公爵家のおもちゃとしては、投げるという行為が些か乱暴だったので、テオ様が良い顔をしないだろうと、今まで封印しておりましたのよね。

「今日はテオ様もおりませんし、あのおもちゃを解禁してみようかしら」
「奥様? 旦那様がいないから解禁するおもちゃ、とは一体……」

ミランダが珍しく不安そうな表情で見てくるのだけど、わたくし何も言わず、自信満々に微笑んでおきましたのよ。そうしたら、余計不安が増したみたいでしたけれど、どうしてかしら?


「……ノア、そろそろお風呂に入った方が良いのではなくて?」

お風呂場に、カラフルな吸盤人形が沢山入ったバケツを用意した後、三人で楽しそうにトランプしている所へ声を掛ける。するとノアは、

「おかぁさま、もぅしゅこしだけ、おねがいちます」

上目遣いでお願いしてくる息子は大変愛らしいが、そうはいきませんのよ。

「あらあら、いいのかしら? お風呂場には新しいおもちゃがありますのに……」

わざと大げさに残念がりながら、チラッと息子を見ると、え!? という顔をしてこちらを見ているではないか。ぺーちゃんやイーニアス殿下まで、手を止め顔を上げた。

「とっても楽しいおもちゃなのですけれど……」
「わたち、おふりょ、はいるの!」
「わたしも、はいるのだ!」
「ぺぇちゃ、みょ!」

目を輝かせた三人は、立ち上がると急いでトランプを片付け、はやく、はやく、とお風呂場へ行ってしまった。カミラが後ろから追いかけて行ったが、大丈夫だろうか……。

お風呂場にはマディソンが待ち伏せしておりますから、安心ですけれど。

この日、子供たちが入ったお風呂場では、楽しそうな声が響き、いつもよりも長風呂だったようだが、マディソンは疲れ果てた様子で、子供たちをタオルで拭いていたと、後にカミラが語っていたので、悪い事をしてしまったわ。と反省したのである。

また、吸盤人形は妖精たちも気に入り、使用人が掃除した後に出してきて投げつけたらしく、壁にはカラフルな人形が沢山くっついたままになっていたそうで、テオ様が夜中に入って驚いたそうだが、その頃にはわたくしも子供たちも夢の中だった。

「おかぁさま、わたち、たくさんペッタンちたのよ!」
「ぺぇちゃ、みょ!」
「うむ。わたしもたくさん、ペッタンしたぞ!」

布団に潜った子供たちは、それぞれ楽しそうに報告してくれて、作って良かったですわ。と改めて思ったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~

【ノアがお風呂にはいらなくなった理由】


「ノア様、今日は奥様がお風呂場に新しいおもちゃを用意してくれたようですよ!」
「あたりゃちぃの!」

カミラの言葉に嬉しそうに浴室へ駆け込むノアに、周りにいたメイドたちもニコニコしている。

「お風呂でおもちゃなんて、すごいですよね~」

水に浮かべて遊ぶおもちゃらしいので、浴槽の縁にちょこんと置かれている。珍しい赤色と青色のキノコの人形が目に入り、カミラはわぁっと目を輝かせた。ノアも同じだったようで……

「あっ、アカ、アオ、いりゅ! いっちょ、はいりゅのね!」
「え? ノア様、あれは……」

アカとアオといえば、妖精様の名前では? とカミラは首を傾げ、ノアの後を追う。

「アカ、アオ、おふりょ、」

ノアがそれに手を伸ばすと、ポチャン……

「あ、おふりょ、おちた」
「ノア様、これは……」

ぷか~っと浮いた赤色と青色のキノコ人形は、ピクリともうごかず、顔をお湯につけたまま死体のよう浴槽内を漂っているではないか。

「……ちんじゃった……っ、アカ、アオ、ちんじゃった……っ」
「いえ、ノア様、あれはおもちゃ……」
「ぅああああんっ、ちんじゃったぁ!」



「───という事がありましたのよ」
「お姉様……ノアがお風呂嫌いになったのは、そのせいです」
「ちょっとオリヴァー!? わたくしは妖精たちに似せた人形を作っただけですのよ!?」
「ノアが号泣した時点でお姉様は有罪ですよ!」
「う……っ」

ノアがお風呂に入らなくなったのは、妖精水死体事件に遭遇したからだと発覚したのだった。

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