継母の心得

トール

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第二部 第3章

413.お馬さんとスライム

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ノアがぺーちゃんを抱っこ紐で抱っこして、リュックまで背負い、「よいちょ、よいちょ」とヨタヨタしながら歩いていた所を、何事かと声をかけたのだけど、まさかのスライムを見に行くのだと言われて驚きましたわ。わたくしも丁度、スライムについて考えていた所ですし。
だけどまさか、カミラや護衛がいるとはいえ、ノアとぺーちゃんだけで馬車に乗って行こうとするなんて……

すごい行動力ですわね! さすがわたくしの息子ですわ。

「お母様も丁度、スライムを見に行こうと思っておりましたのよ」
「しゅっごーい! りょーおもいね!」

ノア、そこは両思いではなく、偶然、と言うのですわ。なんて可愛すぎる言い間違えなのかしら。いえ、間違いではありませんわね。だってわたくしとノアは両思いですもの!

「そうですわね。両思いですわ」
「うふふっ、おかぁさまと、りょーおもい」
「ぺぇちゃ、みょ!」

フフッ、ぺーちゃんは最近、「ぺぇちゃ、みょ!」のフレーズがお気に入りなのかしら。

「そうですわね。ぺーちゃんとも両思いですわ」
「にゃ!」

さて、スライムは実は屋敷内にもいる。主にキッチンやトイレに。けれど、キッチンはこれから晩餐の準備で大忙しだろう。そんな修羅場にお邪魔するわけにもいかない。トイレのスライムは……ちょっと遠慮したい。

となると、厩舎などはどうかしら。あそこにも確か、スライムが数匹いたはずですわ。

「ノア、お馬さんの所にスライムがいますわ」
「おうまさん!」
「ぉーみゃっ、ちゃ!」

ノアもぺーちゃんも、動物が好きですものね。

「さぁ、行きましょう。二人共」
「「はーい(ぁーい)!」」
「お、奥様!? 厩舎は危険ではありませんか!?」

カミラが不安そうにノアとぺーちゃんを見る。
確かに幼い子供たちに馬は危険かもしれないけれど、馬丁が居るなら、離れて見れば安全だろう。

「カミラ、大丈夫ですわ。馬からは少し離れて見ますもの」
「奥様、馬ではなく、スライムを見にいくのではございませんか?」

ミランダに指摘され、「そうでしたわ!」と、自分のウッカリを笑って誤魔化してしましたのよ。

「おかぁさま、しゅらいむ、どんなのかちら?」
「そうねぇ、お母様はぷよぷよしていると思いますわ」
「かぁちゃ、ぷぅ、ぷぅ?」
「ええ。プリンみたいにプルン、と揺れているかもしれませんわねぇ」
「プリン! わたち、プリンしゅきっ」
「ぺぇちゃ、みょ!」
『アオもプリンだいすきー!!』
『チロモスキナノ~』

あらあら、皆、可愛らしい反応ね。

「ほら、厩舎が見えて来ましたわ」
「おうまさん、いっぱいいりゅかちら」
「ぉーみゃっ、ちゃ!」

フフッ、二人もスライムに会いたいのか、お馬さんに会いたいのか、わかりませんわね。

「お、奥様!? ノア様にぺーちゃん様まで!?」

厩舎の中を覗くと、馬丁がわたくしたちに気付き、顎が外れそうになるほど大きく口を開けて、瞠目している。

「驚かせてしまい、申し訳ありませんわ」
「もぉちわけ、ありまちぇん」
「も、ちゃっけ、にゃーん!」

ぺーちゃん、それは猫の鳴き声ですわよ?

奥様とノア様とぺーちゃん様に謝罪された!? と余計気を遣わせてしまったらしく、最後には馬丁が土下座するという事態に陥ったが、ミランダがとりなしてくれたので、恐縮されながらも、何とか話せる空気になったのだ。

「それで、わたくしたち、スライムを見に来ましたの」
「スライム!? そんなお目汚しをするような事、私にはできません!」
「しゅらいむ、あえない?」

ノアがわたくしを見上げ、眉を下げる。

「スライムは食べるものがゴミなので汚いと思われがちですけれど、体内で毒を分解して、綺麗なお水にしているのですわ。だから、触っても問題ありませんし、スライム自体はとても清潔な生物ですのよ」
「し、しかし……っ」
「子供たちに、勉強してもらう良い機会ですの。お願いしますわ」

子供たちも「おねがいちましゅ」と可愛くお強請りしている。こんな可愛いお願いを断る事が出来る者はいないだろう。

もちろん、馬丁も例に漏れず根負けし、スライムを一匹、目の前に連れてきてくれたのだ。
しかし、連れてきてくれるまでの間、子供二人は馬に夢中で、嬉しそうに遠くから馬に話しかけていた。

「おうまさん、わたち、ノア・きんばりぃ・でぃばいんでしゅ!」
「ぺぇちゃ!」

天使すぎますわよ。二人とも!

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