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第二部 第3章
414.食物連鎖
しおりを挟む「まんまりゅ」
「ぷぅ、ぷぅ」
馬丁が両手に掬うようにして持ってきてくれたスライムは、小玉から中玉ぐらいのメロンのような大きさで、ゼリーのように透き通っており、ぷるぷると揺れていた。
前世の記憶にあるようなスライムよりは小ぶりだが、想像通りのフォルムであった。ちょっと弾力はありそうだけれど。
『これ、しってるー!!』
『ミゾノナカ、イッパイ、イルノ~』
妖精たちはスライムを見た事があるようで、ノアたちに教えてあげている。
だけど、アオもチロも、ぺーちゃんには妖精は見聞き出来ない事を忘れているのではないかしら。
「おかぁさま、ぷりゅぷりゅ、ちてる!」
「本当、プリンやゼリーのようにぷるぷるですわね」
「ぷーぅ、ぷーぅ」
「フフッ、ぺーちゃんはプリンが食べたくなったのかしら?」
「ぁーい!」
なんて愛らしいお返事かしら。ノアもぺーちゃんも、愛らしさにブレーキはありませんのね。
『アオもプリンべたーい!!』と声が聞こえてくるのは想定内だ。
それにしても……、スライムとは不思議な生き物ですわ。透明なゼリーのボールが、ぷるぷると動いておりますのよ。
「おかぁさま、さわっても、いいかちら?」
「ぺぇちゃ、みょ!」
子供たちが言っている事に、馬丁もカミラもミランダまで、驚いて止めようとしてくるが、わたくしも触ってみたいですわ。
「そうねぇ、指でツンツンしてみましょうか」
「ちゅんちゅん、しゅる!」
「ちゅー、ちゅー」
ぺーちゃん、それはネズミさんね。
「奥様、スライムは汚れやゴミ、排泄物を食料とします。さすがに触れるのは……」
「ミランダ、言ったでしょう。スライム自体は清潔な生き物だと。触っても害はないから大丈夫ですわ」
「ですが奥様……」
スライムの研究報告書では、スライムの浄化能力は凄まじく、触ると手の汚れだけを綺麗に食べてくれると書いてあった。害になるどころか逆に綺麗になるのだから、皆の反応が大げさすぎるのだ。
「そうねぇ……。ノア、ぺーちゃん、スライムは弱い生き物だから、優しく触らないとダメですわよ」
「奥様……」
あら、ミランダに呆れられてしまったかしら?
「やさちく……ちゅん、ちゅん」
「ちゅー、ちゅー」
「わたくしも、ツンツン、ですわ!」
まぁっ、ひんやりしていて、わらび餅みたいな触り心地! 弾力がありそうな見た目なのに、柔らかくて気持ち良いですわぁ。
「ちゅめたぃ……ぷりゅっぷりゅ!」
「ふぁ~!」
ノアもぺーちゃんも気に入ったらしくて、幸せそうな顔で笑っている。その時、指ではなく、手をぱぁにしてムニッと掴んだのはぺーちゃんだった。
「きゃーっ」
ぺーちゃんが、最高に気持ちいいーっという顔をして、嬉しそうに声を上げた刹那、パシャッと、馬丁の手の中でスライムが水になってしまったのだ。
「にゃ!?」
「しゅらいむ、きえたの……」
「まぁ、赤ちゃんの掴む力でも水に代わってしまいますのね」
赤ちゃんに倒されるほど弱い生き物……、これは図書室にあった研究報告書にもあったように、本当に魔物とは別物かもしれませんわ。
「ふぇ~……っ」
「あ、ぺーちゃん、なかないのよ」
「ぅ、にょあ……っ、ぺぇちゃ、ちゅりゃっ、みゅ……ぐすっ、ちぃにゃ、っちゃ!」
「ぺーちゃん、しゅらいむ、ちんじゃったないのよ。おみじゅになったの」
スライムを殺してしまったと泣きじゃくるぺーちゃんを、ノアがお兄さんらしく慰めている姿に、わたくし感動しましたわ!
「ノア、ぺーちゃん、さっきのスライムはお水になって土に還りましたの」
「かぁちゃ……ぐすっ」
「あらあら、ぺーちゃんのおめめからもお水がたくさん溢れていますわね」
ハンカチで涙を拭いてあげながら、ノアとぺーちゃんに食物連鎖のお話をしてあげましたのよ。
「スライムのお水はね、お花が綺麗に咲けるわって、喜びますのよ。そうしたら、今度は蜂さんが、お花の蜜が美味しいねって喜んで集めますの。今度はその蜂蜜がわたくしたちの口に入って、食べたらお手洗いにいって、それをスライムが食べますのよ。そうやって、皆が繋がって、この世界で生きておりますの」
ノアも、いつの間にか泣き止んだぺーちゃんも、わたくしをじっと見上げて、呟いた。
「みーんな、ちゅながってる」
「ぺぇちゃ、みょ?」
「そう。ノアも、ぺーちゃんも、皆助け合って生きていますのよ」
まさかスライムに会いに来て、食物連鎖のお話をするとは思いませんでしたが、子供たちも何かを感じてくれたようですし、良かったですわ。
さて、実際スライムに触れてみて、あの触り心地にますます可能性を感じましたわ。もう一度、図書室でスライムに関して調べなくてはいけませんわね!
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