継母の心得

トール

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第二部 第3章

428.風と水の神殿 〜 テオバルド視点 〜

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テオバルド視点


歩き初めて暫く後、霧が立ち込め木々すらも見えなくなった。わかるのは仄かに光っていたあの花と、頭上を飛ぶ黒い烏だけだ。

「ノア、この霧でははぐれる危険性が高い。抱き上げるぞ」
「……はい」

自分の足で歩きたかったのか、少し不満そうに返事をすると、私に手を伸ばしてくるので、抱き上げる。

少し重くなったか……?

『アオも!!』

キノコ妖精まで腕をよじ登ってくるが、重さは感じないので気にするほどでもない。飛べばいい、とは思うが。

『はぐれるなよ。加護持ち殿』
「わかっている。ところで、神殿まではまだかかりそうか?」

頭上から降ってくる声に質問を返せば、『もうすぐそこまで来ている』と言って、烏は高度を下げる。

『霧の道を抜けると目の前だ』
「霧の道……」

鬱蒼とした森と、雨の降りそうな空、そして霧に烏……。あの水の神の神殿だというだけで不安であったが……まさか、あの調子の神殿ではあるまいな?

「ちろい、もやもや、うしゅくなった!」
『きり、はれてきたー!!』

ノアとキノコ妖精の言うように、霧がはれ、目の前に広がったのは、草原と……

「青い、湖か……」

晴れた空と同じ色をした湖が、そこにあったのだ。

「しゅごーい! おとぅさま、とぉっても、きれーね」

母に見せてあげたいと、目を輝かせながら話す息子に、ベルが聞いたら歓喜しそうだ、と口の端が上がる。

「不思議な場所だ。空は曇っているというのに、湖は青空のような色をしている……」

空が水に映り込んでいるわけではないようだ。

『加護持ち殿は、焔神殿から参られたのだろう。であれば、神殿の周りに結界が張られている事はご存知ではないか?』

烏の言葉に、この神殿も結界が張られているから違和感があるのか、と納得する。

「そういう事か」
『そーゆーこと!!』

妖精はよくわかっていないのに答えていないか?

『湖の真ん中にそびえ立つ、白く美しい塔が見えるだろうか。あれが、風と水の神殿だ』

水の神の神殿だというから、おどろおどろしい神殿を想像していたが、ベルの描く絵本に出てくるような、子供が好みそうな塔だった。

「からちゅさん、あしょこ、どぅやって、いくの?」
『加護持ち殿たちが、湖に近づけば、おのずとわかる』

烏はそう言い残し、『では、私はこれで』と空の彼方へ飛び立って行ったのだ。

「からちゅさーん、ばいばーぃ」
『バイバーイ!!』

あのわざとらしいほどの青い湖に、近付けばいいのか。

「ノア、アオ、湖に飛び込もうとは考えるなよ」
「はい!」
『えー、ダメ?』

キノコ妖精の言葉を無視し、ノアが落ちないように両手で抱き、湖へと近付くと……、

ゴゴゴ……

湖の中から何かが出てきた。
塔と同じように白い石で出来た道が、足元に浮き上がってきたのだ。

「からちゅさん、いってた、とーりね! みち、でてきたのよ」
『テオ、はやくわたるー!!』

はやく、はやくと逸る気持ちを抑えきれない様子で、ノアもキノコも腕の中で騒ぎ出す。仕方なく、白い道を渡りだすと、ノアは「わぁ~!」と嬉しそうに声を上げ、はしゃいでいるのだ。

強くなる為に、神殿に行きたいと言っていたが、これではただの観光だな。
ノアが管理者になって、いつでもここへ転移出来るようになったら、ベルを連れて来てもいいかもしれん。

湖の道を渡り、塔のある陸へと辿り着く。

「……入口どころか、窓すらないようだ」

そびえ立つ塔には、入口がどこにも無かったのだ。

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