継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 大工イフさんの場合 〜

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オレの名前はイフ。しがねぇ工務店の店主をやってた。
そう、工務店の店主だったんだよ。オレぁ……。

「社長、本日の予定は十時より社内会議、その後ベル商会、商会長との会食、十四時からは現場視察で十五時には本社へ戻っていただき、ディバイン公爵家の執事長との打ち合わせ、その後は夕食を兼ねたパーティーに出席、となっております」
「わかった……」

それなのに、今じゃ秘書を何人も持つ大手建設会社の社長だ。
多分、帝国でもトップ30には入る金持ちだろう。

「はぁ……、一体何がどうなってこんなことに……」

それもこれも全部、あのお嬢様との出会いから始まったんだ。

イザベル・ドーラ・ディバイン───……


『あなたがここの店主ですの?』
『息子のおもちゃを作ってほしいのですわ』

そう言って、ウチの工務店を訪れたお嬢様は、貴族嫌いのオレをその手腕で見事に懐柔し、雨季や怪我で仕事に有りつけねぇ仲間たちに、手を差し伸べてくれた。
そして、オレらの仕事を認めてくれたお嬢様は、公園開発事業や、ショッピングモール開発、レール馬車の駅やレールの開発など、様々な仕事を紹介してくれるようになった。

いつの間にか仲間が増え、仕事が増え、街の発展に、いや、国の発展に携わることができて、楽しくて嬉しくて、時間があっという間に過ぎていた。

気が付きゃオレも、もう40過ぎだ。

「お嬢様にゃ、本当、驚かされる事ばかりだぜ……」

公園開発と同時進行だったレール馬車、新素材の変な形の棒をずっと地面に並べてどうすんだと思っていたが、まさかその上に馬車を走らせるとは思わなかった!
しかも、あんなデケェ馬車を結構なスピードで走るんだぜ!? ありゃヤベェもん作っちまったなと思ったさ。

軍事利用してくれって言ってるようなもんだしな。
まぁ、お嬢様の旦那がそれを許すわけはねぇんだろうが。

そういやぁ、他国もアレを真似て作ったはいいが、新素材じゃねぇからメンテナンスをこまめにしねぇといけねぇわ、軍事利用するにゃ、国中にレールを整備しねぇといけねぇわで、金がいくらあっても足りねぇから断念したって聞いたな。

なのに、お嬢様はその金食い虫のようなもんで、利益を出してるってんだから、天才だ。
レール馬車のお陰で雇用も増えて、物流も改善され、盗賊に襲われることも激減したってんだから大したもんだよ。

それに、ショッピングモール。

これも画期的で、一つのデケェ建物の仲に、商店街が丸々入っちまったような便利な店だ。
このショッピングモールが出来たからといって、商店街が廃れたかというとそうでもねぇ。
何故なら、ショッピングモール内で売っている商品と、商店街で売っているものは全然違うからだ。

簡単にいえば、ショッピングモールは贅沢品、商店街は実用品という具合に、お嬢様曰く、差別化を図っているのだとか。

何よりすげぇのは、建物の造りだ。
工務店の社長としては、お嬢様の頭の中を覗いてみてぇほど、今までにないもんだった。

とにかく、お嬢様はすげぇ。

その一言に尽きる。

オレは、本当はこんな偉ぇ立場は似合わねぇが、お嬢様の理想の未来にゃ興味があんだよなぁ。
多分、あの人が考える未来は、もっとすげぇはずだ!


「社長、一週間後に、ディバイン公爵夫人より面会の希望が入っておりますが、いかがいたしましょうか。この日はすでに取引先の社長との打ち合わせが入っていますが」
「あぁ!? お嬢様の連絡は最優先事項だっていつも言ってんだろうがよ」
「承知いたしました。それでは、打ち合わせはキャンセルいたします」
「ああ、そうしてくれ」

さて、お嬢様が今回はどんな驚きの提案してくれるのか、楽しみだ。



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