13 / 186
その他
番外編 〜 チロとパーティー 〜
しおりを挟む「ディバイン公爵、公爵夫人、ようこそおいでくださいました」
「フィッシャー子爵、招待いただき感謝する」
「お招きいただき、ありがとう存じますわ」
『オマネキ、アリガト、ナノ~』
わたくしの肩で、わたくしと同様にカーテシーをするチロに、いつの間に覚えたのかしら、と微笑ましくなる。
『ベル、テオ、チロ、ゴアイサツ、デキタノ』
笑顔の可愛いチロは、わたくしの癒やしですわね。
本日は、フィッシャー子爵という、昔からディバイン公爵家とお付き合いのある子爵家の、お孫さんの誕生パーティーに招待されたのだ。
お孫さんといっても、16歳になるレディなのだけど。
なぜチロもいるのかといえば、テオ様が外出する時は必ずチロを連れて行くように、と仰ったからだ。どうやらチロがいれば、いつでも連絡が取れるかららしい。
なので最近はどこにでもチロを連れて行くようになった。
ノアがチロを羨ましがっていたから、今度はノアも一緒に外出した方が喜ぶかもしれませんわね。
「ディバイン公爵夫人は噂に違わずお美しいわぁ。お肌もツルツルで、まるで白磁のよう。どういったお手入れをなさっていますの?」
ほぅっと息を吐くのは、フィッシャー子爵の奥様で、何でも美容家かと言わんばかりに、化粧品の研究に余念のない方なのだとか。
そう皇后様が教えてくださいましたのよ。
どうりで美魔女なはずですわ。60代後半だというのにお肌も髪も美しくていらっしゃる。
『ベル、テヅクリノ、ケショースイ、ツケテルノ』
なぜかチロが自慢気に答えるが、子爵夫人にはもちろん聞こえていない。
「わたくしはあまり美容に詳しくないもので、侍女やメイドに任せておりますのよ」
『ベルノ、ケショースイ、スゴイノ。キズアト、ナオルノ~!』
チロったら、聞こえないのにずっと説明してあげてるのね。可愛いわぁ。
「まぁまぁ! ディバイン公爵夫人は美容には興味がございませんの? それほどまでに美しくていらっしゃるのに、勿体ないですわっ」
「そ、そうでしょうか?? フィッシャー子爵夫人は、お肌のお手入れはどのようにされているのでしょうか」
『ベルノホーガ、キレーナノ』
こらこら。チロ、そんなこと言ってはダメですわ。
視線をチロにやると、チロは慌てて口を塞ぐ。フィッシャー子爵夫人はというと、嬉しそうにお手入れのこと、化粧品のことを教えてくれた。
『ナガカッタノ~』
「喋りが止まらぬとは……恐ろしいな」
げっそりしているチロとテオ様に、「そのようなことを仰ってはいけませんわ」と注意する。
テオ様は女性嫌いですし、チロはパーティーが初めてだから、うんざりなのかもしれませんが、女性は美についてならば1日中だって語れるものですのよ。
とはいえわたくしも、まさか30分も語ってくださるとは思わなかったですけれど。
『ベル、ゴメンナノ~。チロ、キライニ、ナラナイデ』
「チロを嫌いになるわけありませんわ。大好きですわよ」
『ベル~!』
「ゴホンッ、私も口がすぎたようだ。だから、嫌いにならないでくれ」
まぁっ、テオ様までチロと同じことを仰って……っ
「嫌いになるはずございませんでしょう」
「ベル、私には、大好きはないのか?」
「ぅぐ……っ」
なんて恥ずかしいことを言わせようとするのかしら!? 人様のパーティーの最中だというのに……っ
『チロ、ベルモ、テオモ、ダイスキナノ~』
「チロはこう言ってくれるというのに、ベルからはその言葉が聞けないとはな……」
「も、もぅ! テオ様、大好きですわっ」
「私も愛しているよ。ベル」
ヒィィ!! 甘すぎて溶けそうですわよ!
「ディバイン公爵と公爵夫人だ!」
「やはりお二人とも、お美しいなぁ」
「お二人が並ぶと、まるで絵画のようだ……」
さっきから、わたくしたちの周りに、なぜか距離を取りながらも人が集まって来ている気がしますわ。
ヒソヒソ話しておりますが、何を言っているのかまでは聞こえませんわね。
『ベル、ドーシタノ~?』
「いえ、みな様が内緒話をされているので、何かしら、と思いましたのよ」
『チロ、ワカルノ』
わかりますの!?
『ミーンナ、テオトベル、キレーッテ、イッテルノ』
テオ様はわかりますけど、わたくしはキツイ顔とか言われているのではなくて?
「ベル、あのような者たちを気にする必要はない。それよりも、私たちはバルコニーにでも出て時間をつぶそう」
テオ様、女性嫌いの顔が出ておりますわよ。
毎回招待されるパーティーは、バルコニーで時間を潰すので、もう慣れてはいるけれど、いい加減主催者に怒られないか不安ですわ……。
この後、香水酔いしたテオ様を休ませていた時、バルコニーに生演奏が聞こえてきて、それを聞いたチロが突然、ダンスがしたいと言いだし、一緒にダンスをしたら「良いものを見せてもらった」と、テオ様が上機嫌になったのでチロが喜んでいた。
邸に帰ると、パーティー帰りにしてはテオ様が上機嫌な事をウォルトとマディソンに気持ち悪がられ、つい、チロと顔を合わせて笑ってしまいましたわ。
翌日、
『ノア、チロト、ダンス、スルノ~』
「はい! わたち、チロとダンスするのよ!」
と言って、可愛いダンスを見せてくれたノアとチロに、ほっこりしたのは言うまでもないだろう。
2,852
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる