12 / 175
その他
番外編 〜 車大工の親方の場合 〜
車大工親方視点
ディバイン公爵夫人のアイデアを形にする。
そりゃあもう、我々職人にとってもっとも過酷で、もっとも楽しく、充実感のある事だ。
そして、あのお人から頼まれるっちゅうことは、一人前の証。
「親方……、こりゃあすげぇもん、作っちまいやしたね……っ」
「おう。この工房は、馬車の革命っちゅう歴史に残るようなすげぇ事に、関わる事ができたんだ……」
変形する馬車を前に、わしらは半ば呆然と眺めていた。
「すげぇ……、もう、すげぇしか言えねぇ……っ、俺、こんなすげぇ仕事に携われて、本当に良かった……っ」
わしもあのお人に声をかけてもらって、本当に良かった。接点を作ってくれたイフにゃ、感謝せにゃならんな。
「おいおい、こりゃまだ序の口だ。この変形する馬車は、これからもっと進化する。わしらはまだ屋根の部分や御者席、中の棚ももっと良くできるはずだ」
「親方……っ、そうッスね! ここで終わっちゃ、奥様にがっかりされちまいますもんね!」
「そうだ。わしら職人は、これで完璧だと思っちゃいかん。常に、まだやれる事があるはずだと探し続けるのが一流の職人っちゅうもんだ」
「はい!」
それに気付かせてくれたんは、あのお人かもしれん。
おんなじような毎日を送っていたつまらねぇ人生が、面白くなってきよった!
「よっしゃ! ここからはより、使いやすく改造して、奥様をあっと驚かせてやらにゃならん!」
「はい!!」
9割方完成した新型を、今度はわしらが今出来る精一杯の技術と知識でより高度なもんへと変えていく。
車輪の動きの滑らかさ、フォルムの美しさ、乗り心地。奥様が大喜びするようなもんを作れたら、わしらは最高の職人と胸を張って言えるはずだ。
「親方、想像以上のものをありがとう存じますわ! さすが一流の職人ですわね!」
「想像以上っちゅうのが、わしらにゃ一番嬉しい言葉ですよって」
完成した新型馬車を見た奥様は、手を叩いて大喜びしてくださった。わしも弟子たちも、その素直な姿に笑みが漏れ、普段ではありえんようなほのぼのした空気が作業場を包んだ。
奥様が工房にやって来たその日の夜、ディバイン公爵家の使いだと男がやって来て、新型馬車に関するもんは絶対外部にもらしちゃいかんと注意されたが、わしはもらす気なんぞ毛頭ないもんで、弟子にも詳しい作り方は教えちゃおらんと話をした。
わしは貴族様のように政治の事はよぉわからんけども、これだけはわかる。この馬車は、悪い奴に知られちまうと、世の中が滅茶苦茶になってしまう危険なもんだ。
「ディバイン公爵家は、この馬車をおかしな事に利用したりはいたしません」
そう約束してくれた使者様に、わしは言った。
「ディバイン公爵家の奥様なら信用しとりますよって、あんたらのその言葉、信じさせてもらいます」
その翌日、商工会議所に呼び出され、行ってみるとそこには、驚く事に公爵様御本人がいらっしゃったからおったまげた!
公爵様と秘密保持契約というのを交わし、わしはベル商会を通しての取引以外には、絶対馬車を売らんと約束した。
どうやらベル商会は、この新型を悪い事には使わせんよう契約をしてからでないと売らん、と魔法契約する者のみに販売を始めたらしい。
だから正直、新型の売上にゃ期待しとらんかったが、魔法契約してでも手に入れたいと思った貴族の多い事。
商会はとんでもねぇやり手だったようで、どんどん注文が入ってきて、予約が見た事もない数になっちょった。
そのうち、人も増えて、馬車のデザインだけを手掛ける専門部署が出来て、そんでもってレール馬車っちゅうもんまで作りだして、気付いたらイフんとこまではいかんが、馬車といえばわしの工房……いや、わしの会社だと、なんかしらんが……ぶ、ブランド? みたいなんが出来とった。
「代表! 代表が自ら現場で仕事しちまうと、威厳がねぇです!」
「馬鹿野郎! わしは職人だっ、職人が現場で仕事せんと、どこで仕事するっちゅうんだ」
「しっかしおやか……代表、今じゃウチは他に並ぶもんもいねぇ大企業で……」
「親方でいい。お前も副なんとかっちゅう役職になっちまってから腕が鈍っとるんじゃないか。偶には、こうして馬車を作ったらいい」
「親方……っ、そうッスね!」
そういやぁ、イフもよく現場に出とるって言っとった。
所詮わしらは骨の髄まで職人だ。どんだけ偉うなろうが、変わらんもんはある。
「よっしゃ! 奥様を仰天させるような馬車、作るぞ!」
「はい!!」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。