継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 初恋 〜 イザベル妊娠前

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ウォルト視点


「ウォルト……、ベルはどのような男が好みなのだろうか」
「は……?」

仕事中、主から突然おかしなことを聞かれました。

「それはもちろん、旦那様なのでは?」
「それはそうだろうが、私と出会う前はどんな男が好みだったと思う」
「旦那様……」

この人は一体、何を言っているのでしょうか。

「奥様は、例の元婚約者とですら交流を持っていなかった女性です。旦那様が初恋ではないでしょうか」
「!? 初恋……」

旦那様も初恋ですよね。
ああ、浮かれてしまいましたね……。仕事をしてくださるなら構わないのですけれど。


「───初恋……、そうだな。ベルは私が初恋……いや、もしかしたら、幼い頃に好きな男がいたかもしれん……」

暫く仕事に集中していたかと思えば、まだ先程の話を考えていたようです。
これは一度休憩を挟んだ方が良いですね。

「旦那様、そろそろ休憩されるのはいかがでしょうか」
「そうだな……、ベルの所へ向かう」
「承知いたしました。奥様は本日、公爵家の図書室にいらっしゃるようです」
「ああ」

旦那様は嬉しそうに奥様へと会いに早足で廊下を歩かれます。もちろん私も同行いたしますよ。旦那様の補佐ですから。



「ベル、君の興味を惹く書籍はあっただろうか」
「テオ様? お仕事をされていたのではありませんの?」

本を読むことに集中していた奥様が、旦那様に声をかけられ、驚いて顔を上げられる。
旦那様は奥様の姿を見れたからだろうか、とても機嫌が良い。

「休憩中だ。君が図書室にいると聞いて来た」

そう言って隣に座る旦那様は、余程奥様とくっついていたいのでしょう。

とても一年前の旦那様と同一人物だとは思えません。

「ノアと同じキンバリーという方が書かれた、この植物に関しての本が面白いのですわ! 見てくださいまし! 絵もとてもお上手で、しかも珍しい植物ばかり描かれているのです!」

奥様も嬉しそうに旦那様に寄り添い、本の内容を説明しておられるので、お互いに触れあっていたいのかもしれません。

「ノアのキンバリーという名は、この方からもらった名だ。ディバイン公爵家の血筋で、植物学者だったらしい」
「そうでしたの! 絵がお上手な所も、ノアはこの方の才能を引き継いだのかしら」
「そうかもしれんな。ベルも絵が上手いから、君に似たのかもしれんが」
「まぁっ、そうでしたら嬉しいですわ!」

旦那様は最近、ノア様は奥様が産んだのだと思い込もうとしているらしく、奥様もまた、自分が産んだと納得されているご様子なのです。
決してお二人の心が壊れ、おかしくなったという事ではなく、自分の本当の子供として育てたいというお優しい思いからくるものだと、使用人一同は理解しております。

「植物といえば、ユニヴァ殿はまだ“コメ”を見つけられないらしい」
「テオ様、ユニヴァ王子もお忙しいのですし、無理を言ってはいけませんわ」

むしろ、王子を顎で使う旦那様がどうか、とは思われない所が、奥様と旦那様がお似合いだと思う所以です。

「……ベルは、ああいう無駄な光を放つような男がタイプなのか?」
「無駄な光って……」

旦那様もその無駄な光を放っていらっしゃいますよ。という奥様の心の声が聞こえた気がしました。

「わたくしが好きなのは、テオ様とノアですわ」
「そうか……そうだな。すまない、おかしな事を言った……」
「いいえ。テオ様、わたくし、テオ様を不安にさせるような態度をとってしまいましたか?」

奥様は、旦那様をなだめるように瞳を見つめ、落ち着いた声でお聞きになったのです。

「いや……そうではない。ただ、私は君がその……初恋の人だが、君は違うかもしれないと思ったら、少し……」

旦那様、30過ぎのおじさんがもじもじされているのは、少しキツいです。そして少々面倒臭いです。

「まぁ……。わたくし、テオ様の初恋でしたのね!」
「ああ。君は、私が初めて恋に落ちた女神だ」

少し、この場にいるのが居た堪れなくなって参りました。少し距離を取ることにいたしましょう。

「わたくしも、テオ様が初恋ですわ」

はい。そうでしょう。
これ以上ここにいてはいけないようですので、私は足早に図書室から脱出……、ゴホンッ、出ました。

「あっ、ウォルト、おかぁさま、どこぉ?」

すると、ディバイン公爵家の天使が駆け寄って来られたのです。

「ノア様、さて、どちらにいらっしゃるのでしょうか。よろしければ、ご一緒にお探しいたします」
「はい! おねがい、ちましゅ!」

旦那様、私に感謝してくださいね。

「さぁ、参りましょう。ノア様」


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