継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 イーニアスの立太子 〜 イーニアス7〜8歳

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ネロウディアス皇帝視点


「イーニアスを公式に皇太子とさだめる事に反対の者はいるか」

執政官であるディバイン公爵を筆頭に、法務官、按察官、財務官、監察官の元老院のメンバーが一堂に会した皇城の会議室で、朕とレーテは上座からその場にいる者の顔を一瞥する。

誰もが賛成の意を示していることに頷くと、隣のレーテを見た。
レーテは誇らしげに姿勢を正すと、

「では、イーニアス第二皇子の立太子を決定します」

と高らかに宣言したのだ。

朕の可愛いイーニアスの立太子が決まった瞬間だった。

現在イーニアスは7歳。立太子宣明の儀を行うとなると、準備に半年から一年はかかる。

「8歳での立太子か……まだ幼いあの子が皇太子になるのは、プレッシャーにならぬだろうか……」
「大丈夫よ。イーニアスは皇帝になる器のある、アタシたちの子供よ。それに、アタシたちがいるじゃない。プレッシャーなんかに負けないよう支えてあげましょう!」
「レーテ……そうなのだ! イーニアスには朕たちがいる。朕がイーニアスとレーテを守るのだ!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「とうとう、イーニアス殿下が皇太子になりますのね」

前前世ではまだ立太子はしていなかったと思ったけど、今世は早いですわね。それはそうよね。皇帝陛下と皇后様の愛息子で、能力も後ろ盾も言う事なしですもの。側妃様も皆様離縁なさいましたし、大粛清で問題を起こしそうな貴族はいなくなりましたし、大きくなるのを待つ必要はなくなりましたものね。

「ええ。とうとう……」
「皇后様、嬉しくはないのですか?」

思うことがあるのか、あまり嬉しそうでない皇后様が心配になる。

「もちろん嬉しいわ! あの子が立太子する事はアタシの目的の一つだもの。ただ……まだ幼いあの子が立太子する事で、利用しようとする有象無象が湧き出てくるのかと思うと……ね」
「ああ……そうですわね。権力のある所に人は集まると言いますし……」
「アタシは昔から命を狙われていたから、慣れてるっていうのも変な話なんだけどね、イーニアスには、アタシと同じ目には遭ってほしくないのよ」
「皇后様……。今は皇帝陛下もおりますし、テオ様もおりますわ。大丈夫です」
「ええ。そうよね。あの氷の大公テオ様がついているものね!」

不安になるのも無理はありませんわ。8歳で立太子ですもの。
わたくしだって、もしノアが8歳でそんな立場に追いやられたらと思うと、心配で仕方ありませんわ。

「そういえばイザベル様は、ノア君に集う有象無象の対応をどうしているの?」
「ウチはテオ様もウォルトもおりますし、アオも頑張ってくれておりますのよ」
「アオ……そういえば、ウチにも妖精がいたわ。いつでもイーニアスにベッタリな甘えん坊が」
「フフッ、立太子宣明の儀にも一緒に参加しそうですわね」
「ハァ……そうね。アタシ、妖精が見えなくて良かったわ。見えてたら声を上げてしまいそうだもの」


と話していたからフラグが立ったのだろうか、この一年後の立太子の儀で、わたくしこそが声を上げてしまいそうになるのだけれど、この時はまだ、想像もしていなかったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ 一年後、立太子宣明の儀 ~


皇城の謁見の間にて行われる立太子宣明の儀は、皇帝陛下から、この場にいる主だった貴族たちの前で、皇太子であることが宣言され、その後皇帝陛下から皇太子の頭に、証である冠がのせられる。そうして、皇太子となったイーニアス殿下が口上を述べるまでが一連の流れなのだが……

『アカも! アカもそれかぶりたーい!』
『アオも!! かっこいー!!』

冠を頭にのせられた時に、今までおとなしかったアカとアオが、イーニアス殿下の周りをぐるぐる回り始めたのだ。

「お母様……どうしましょう……」

困った顔でわたくしを見るノアに、「どうしたらいいのかしらね……」とわたくしも困った顔で応え、テオ様を見る。
テオ様は何事もないかのように、表情をピクリとも動かさない。

『アス、それアカにかぶらせてー!』
『アオにもー!!』
「うむ。また後でゆっくりかぶるといい」
『はーい!』
『りょーかいであります!!』

イーニアス殿下は落ち着いた様子で、にっこり笑うと小さな声でそう言って、立ち上がった。

それがもう堂々たるもので、すでに皇帝のような貫禄も出ており、この場にいる貴族たちがほぅっと息を吐く。

皇帝陛下も皇后様も誇らしそうにそれを見ていた。

「アス殿下、すごい……」
「そうね。妖精たちを抑えられる人なんて、イーニアス殿下しかいないかもしれませんわね」
「お母様、私も……アス殿下をささえられるように、なります」

まぁ! ノアったら、7歳でもうそんな自覚が出てきたのね!!

息子の決意が聞こえていたのか、テオ様は口の端を少し上げ、皇帝陛下や皇后様と同じような顔をしてまっすぐ前を見据えていた。


息子たちの成長は、嬉しいものですわね。


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