継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 父と息子の休日 〜 ノア4歳

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テオバルド視点


今日はベルが茶会に呼ばれ、朝から出掛けて邸にいない。
私は休みだというのに、ベルがいないなど……こんなに静かで物足りない家は久しぶりだ。
私はベルがいないと生きていけないと、改めて感じる。

ベルからは、出掛ける前にノアの事を頼まれたので、今二人でリビングにいるのだが、特に会話はない。

ノアは絵を描く事に夢中で、クレヨンを器用に使い植物紙に何やら描いている。

「……ノア、何を描いているんだ?」
「アカとぉ、アオと、チロ!」

確かに赤と青の三角と黒い縁取りで描かれた丸があるが……羽らしきものが三角や丸の上に描かれていて、何とも奇妙だ。

「妖精たちを描いているのか……」
「はい!」
「なかなか、上手だ」
「しょう! わたち、じょーじゅよ!」
「……そうか」

それにしても、植物紙は凹凸があるから描きづらそうだ……、そういえば、隣国の紙が届いていたな。あれならば描きやすいかもしれん。

「ウォルト、ノアに例の紙をいくつか渡してやってくれ」
「かしこまりました」

ウォルトが部屋を出て行くと、ノアが顔を上げウォルトを目で追った後、不思議そうに私を見上げてくる。

「少し待っていろ。良いものがある」

ノアは頷くと、また絵を描き始めた。今度は茶色い丸いものの上に小さな茶色の丸が二つある……、またもや奇怪な何かだ。

「クマちゃん!」
「それが、熊だと……?」

熊とは、獰猛で毛むくじゃらの獣だろう。

「旦那様、紙をお持ちしました」

ある山で熊と遭遇した時を思い出していた所に、ウォルトが戻って来る。

「ノア、この紙を使え」

ウォルトから隣国の紙を受け取り、ノアへ渡せば、植物紙との違いに戸惑っているではないか。

「かみ?」
「そうだ。これは隣国リッシュグルスの、ユニヴァ第二王子が贈ってくれたものだ」
「ゆにば、でんか!」
「覚えているか。隣国は紙の製造に力を入れている。植物紙とはまた異なる新たな紙だ」
「ありゃた……かみ!」

新たな紙は薄く、丈夫な上凹凸も少なく、水にも強い。さらに大量生産できるようで、羊皮紙よりも安上がりだ。
この紙は、近い将来世界中で使われることになるだろう。

ノアは目を輝かせて受け取ると、さっそく持っていた茶色のクレヨンで線を試し描きしている。

「わぁっ」

よほど描きやすかったのだろう。感嘆の声を上げ、今度は赤と青のクレヨンで何かを描き始める。こうなると、話しかけても返事はなく、息子の集中力の高さを侮っていた私は、何となく気まずい思いをした。

「おとぅさま、できたの!」

暫くして、絵を見せにきたノアに、何を描いたのかと聞けば、また妖精たちを描いたのだと胸を張る。なぜ妖精ばかりなのか……。

『ノア!! アオ、かわいー!!』
「アオ、わたち、かわいく、かけたのよ!」

全然可愛くはない。が、息子が可愛く描けたと自信満々に言うものだから、とりあえず頷いておいた。

ベルならば、女神のように微笑んで抱きしめるのだろう。

「ウォルト、これを額にいれておいてくれ。ベルにも見せたい」
「かしこまりました」
「おとぅさま、おかぁさまと、あーのりゅど、みしぇりゅの!」
「む……あの絵師にも見せるのか」
「はい!」

この三角と丸とぐちゃぐちゃな線で出来た絵を、プロに見せるのか……?

「旦那様、どうやらノア様は、ご自身の絵をアーノルドに褒められたようです」
「……褒められた?」

息子の絵は、絵師から見て才能があるのだろうか……。それならば絵の勉強をさせるのもやぶさかではない。
芸術のセンスを磨く事も必要だからな。

「すっかり子煩悩ですね」
「何か言ったか、ウォルト」
「いえ、何でもございません」

ベルにも、帰ってきたら、ノアに絵の才能があるのだと教えてあげよう。きっと大喜びするに違いない。

「ノア、もっと絵を描くと良い」
「はい!」


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