継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 ノアと祝福の儀3 〜 ノア5歳

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水色の長い髪や白い古代ギリシャ風の服から水がボタタっと滴る男性は、ゾンビのようによたよたと歩きながらノアへと近づく。

「て、テオ様」

恐怖で悲鳴を上げそうな自分を必死で抑えながら、隣のテオ様にしがみつくと、テオ様はわたくしを抱きしめてくださって、落ち着いた声でこう言ったのだ。

「あれが水の神なら大丈夫だ。私も自身の祝福の儀で、聖水が倒れた。つまりそういう事だったのだろう」

えー……。

ノアもアオも、ちょっと引いていますわよ。

『───……』

ノアに何かを言っているようだけど、こちらまでは聞こえてこない。

顔も髪に隠れて見えないし、あれが水の神だとしたら何がしたいのかしら……。
わたくし、ホラーは本当に苦手ですのに……っ

ノアは怖がるアオを抱きしめたまま、じっと貞男……ゴホンッ、水の神を見ている。そして、頭を撫でられ……、え?

突然、水の神が立ちブリッジをしたと思ったら、方向を変えこちらへと顔を向けたではないか!

怖いっ、怖いですわ!!

「て、テオ様……っ、わたくしたちを見ておりますわ……」
「ベル、大丈夫だ。頭のおかしな神なのだろう」

案の定、あの有名なホラー作品のように動き出した水の神は、こちらへブリッジで向かってくるではないか!!

「ヒィッ!」
『コワイ! アス、アカコワイよー!』
「アカはわたしがまもる!」

テオ様のお隣に座っているイーニアス殿下が、キッと水の神を睨む。

ペタペタと音をさせながら近付いて来た神が、わたくしの前でピタッと止まる。
テオ様はわたくしを抱きしめ、ブリッジしたままの水の神を睨んでいた。

わたくしはといえば、恐怖とこのわけのわからない状況に、テオ様の腕の中でパニックだ。

『───…私は、ホラーが好きだ……ホラーはよい』

水の神の声に、見えている者たち皆が固まった。

『ホラーの絵本を、作るがよい』

そう言って、ブリッジしながら祭壇方向に向かっている途中で、スーッと消えてしまったのだ。


…………ムリぃ!! 

何言ってますの!? あの神何を言ってますのォ!? わたくしの愛息子の祝福の儀に、何をしに来たんですの!?

「神託か……?」

テオ様、絶対違いますわよ!

「無視しましょう。わたくし、怖い事は苦手ですわ!!」
「君がそう言うのなら、そうしよう」

ディバイン公爵家から、水の神の像を無くそうかしら……と思った瞬間でしたわ。


すでに祝福と神の加護をもらっていたノアだから、祝福の儀では何も起こらないと思っていたけれど、風と水の神から頭を撫でられ、何故かいつもよりも輝いていた。

「これは……っ、水の神が加護をお与えになられたのか……っ、親子でこのような奇跡が起こるとは、さすがディバイン公爵家」

聖水の入った容器が倒れたからか、司教はそう言ってありがたがってお祈りしていたが、見える者には恐怖と困惑を与えた儀式であった。



「───ねぇ、ノア。あの貞男……水の神は、儀式中ノアに何て話しかけていましたの?」

儀式を終えた後の馬車の中で、先程の事をノアに聞くと、

「あのね、こども、こおいうえんしゅつ、すきだろう。っていってたのよ」
『アオ、いや!! あれコワイ!! みずのかみ、いつもアレやる!! コワイ!!』

もしかして水の神は、子供が喜ぶと思ってやってる!?

「アオ、だいじょおぶよ。もういないの」
『ノア、だいすきー!!』

アオったら、日に日にノアにベッタリになっていきますわね……。

「おかぁさま、みずのかみさま、アオに、『ひかりのこ、ノアをまもるために、みずのちからも、あたえてやろう』っていってたの」
「え!?」

ノアの話に驚きテオ様を見れば、テオ様はアオを胡散くさそうに見ていた。

そういえば、キノコ帽子の青みが深まったような……あら? アオの瞳も、黄色から緑になっていますわ……。

『ベル、このあと、ごちそうまってる?』
「え、ええ。邸に帰ったら、ノアの5歳のお祝いパーティーですわよ! 教会にも来ていた家門の方々も来られるから、大人しくしておりますのよ」
『おかし、たくさんある?』

話を聞いておりませんわね。

「まったく……。たくさんありますわよ」
『おかし、たくさーん!!』
「ベル、君は、パーティーは欠席しないか」
「テオ様、大丈夫ですわ。椅子に座っておきますし、ノアのお祝いなのですもの。絶対出席したいのですわ!」
「無理だけはしてくれるなよ」
「はい」

心配性な旦那様ですわね。

こうしてノアの祝福の儀は、たくさんの方にお祝いしてもらい、少しの困惑とたくさんの幸福を残して終わったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


「しょれ、ふりょのごはん!」
「え……これ、ぼくのエビフライ……」
「めっ、ふりょの!」
「さいごのいっこだったのに……」

さいごのいっこのエビフライを、おさらにいれてたべようとしていたら、すっごくかわいいおんなのこが、ぼくにはなしかけてきた。

うれしくて、どうしたの? っておへんじしたら、エビフライをとられちゃったんだ……。

「あら、エビフライがもう無くなっちゃったのね。大丈夫よ。すぐに作ってもらいましょうね」

そのとき、すっごくキレーなめがみさまがあらわれて、やまもりのエビフライをくれたんだよ!

「しょれも、ふりょの!」

すぐにうばわれちゃったけどさ……。

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