継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
100 / 186
番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの母3 〜 ノア5歳、イザベル臨月

しおりを挟む


「結局、お母様が何者なのかはわからずじまいですわ」

今日もお父様の部屋に行って眠ってしまったノアに寂しく思いながら、ベッドの上で溜め息を吐いて呟く。

「カーラという女性が知っていると義父上は言っていたが、その女性はまだシモンズ伯爵家に居るのか?」

テオ様がわたくしを抱え込むように、後ろからお腹を撫でつつ、カーラのことを聞いてきた。

「カーラはシモンズ伯爵家の侍女長で、わたくしの乳母でもあり、サリーのお母様なのです。もちろん今もシモンズ伯爵家で働いてもらっておりますのよ」

わたくしはてっきり、カーラは元からシモンズ伯爵家で働いていたものだと思っておりましたが、お母様と一緒にやって来たというのは、初耳でしたわ。

「気になるのであれば、シモンズ伯爵邸に行ってみるか?」
「気にならないと言えば嘘になりますが、もう臨月ですし、この子がいつ生まれてもおかしくありませんもの。それに、さすがに馬車はマディソンもムーア先生も許してはくれませんわ」
「皇后の転移があるだろう」
「そんな……っ、このような事で皇后様を煩わせるわけにはまいりません!」
「……ならば、カーラという人物をこちらに呼ぶのはどうだろうか」

テオ様が一番、お母様の事を知りたがっているようにも思えるのだけど、どうしてかしら?

「私は、愛する妻の事は出来る限り知っておきたいんだ。何が君を危険にさらすかわからないからな」

危険……、やっぱり魔法契約があるから。でもテオ様、いくら言っても魔法契約を破棄させてくださいませんもの。

「テオ様、魔法契約の破棄を考えてくださいました?」

わたくしの言葉に、テオ様はムッとして、

「破棄は絶対しないと言っただろう」

何度も言わせるなとばかりにそう返事をするのだ。

「ですがもし、わたくしに何かあった時、テオ様も巻き込んでしまいますのよ」
「望むところだ」

そのような事を望まないでくださいませ!

「それよりも君の義母上の話だ」

その話はここまでだというように、母の話へと戻されてしまった。

「この子を出産しましたら、一度シモンズ伯爵邸に行ってみますわ」
「その時は私も行こう。妻だけを実家に帰すわけにはいかない」
「はい。テオ様とシモンズ伯爵邸にご一緒するのは初めてですわね」
「ああ。君の生まれた家を見るのが楽しみだ」

そんな話をしていた翌日、折よくオリヴァーからの手紙で、サリーがオリヴァーの実験で出来た素材のサンプルを持って来ると知ったのだ。

「サリーなら、カーラからお母様の話を聞いているかもしれませんわ」
「サリー? ああ、君の縁談用の絵姿を持って、ウォルトに売り込みに来たという侍女か」

え?

「そのような事、初耳ですわ」
「ウォルトからは、君の売り込みがサリーという侍女からあったと聞いていたが……?」

売り込みって……、

「お父様ではなく、サリーがそのような事をしたのですか!?」
「君は知らなかったのか?」
「え、ええ。今の話を聞いて驚きましたわ……。サリーが……」

テオ様との縁談のお話はお父様からお伺いしていたから、てっきりお父様がわたくしの絵姿をディバイン公爵家に送り付けたとばかり思っておりましたもの。

お父様がいれば、詳しく話をうかがえるというのに、朝早くに帰ってしまったから、タイミングが悪かったですわ……。

「そのお陰で、君を妻に出来たのだ。感謝せねばならないな」
「旦那様、その事で少し不思議に思った事がございます」

今まで気配を薄くし、お茶の準備をしてくれていたウォルトが、わたくしたちの話からその時の事を思い出したように、遠慮がちに言う。

「何だ」
「サリーさんは、私が旦那様と領地の視察をした後、別行動をとっていた時にとある食堂で声をかけてきたのです。不思議と警戒心のわかない方で、話を聞いてしまったのですが……。もちろん身元も確かなようでしたし、奥様の姿絵も受け取り、後に調査をさせていただき、旦那様へと報告いたしましたが、よく考えると……サリーさんは、なぜ私があの食堂にいる事を知っていたのかと不思議に思うのです……」

えぇ!?

「待ってくださいまし! サリーはわたくしの侍女で、ずっとわたくしのそばにおりましたのよ!? 何かの用事で街に行くような事があっても、2~3時間で帰ってきますし、いくら隣の領地とはいえ、短時間で往復する事は出来ませんわ!」
「……つまり、ウォルトとベルの話をまとめると、サリーという侍女は、イザベルの世話をしながら、空き時間に領地視察後に別行動をとっていたウォルトを見つけ出し、姿絵を渡して隣の領地へ短時間で戻った、と」

そんなバカな。

「そんな事が出来るのは皇后様のように転移が出来る人だけですわ! サリーが転移能力の持ち主だとは聞いた事もございません」
「侍女が君に能力を隠していたという事も考えられる」
「姉妹のように育ってきたサリーが、わたくしに隠し事なんて……っ」

あの無表情ですら、わたくしには何となく感情が理解できるほど、わたくしはサリーの事を知っておりますのよ。

「ベル、どれほど仲が良くとも、人間一つや二つ、人に言えない事はある。そうだろう」
「……そう、ですわね……」

サリーが、わたくしに秘密にしているの……?

しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...