継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの母2 〜 ノア5歳、イザベル臨月

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わたくしの母、セレーネ・ヘカテイア・シモンズは、今思えばとても矛盾している人だった。

貴族ではないと言いながら、皇后様が仰ったように、高位貴族の礼儀作法は完璧にマスターしており、それを自然に扱う方であったし、わたくしもそうとは知らずに教えこまれていた。
ピアノだって、考えてみたら庶民が嗜むものではないし、母はバイオリンだって弾く事も出来た。
勉強も、オリヴァーに教えていたのは母だ。

とにかく何でも出来る人で、わたくしたちにとってそれが当然だったから、特に何かを思う事もなかったのだけど……。

よく考えたら、わたくし、お母様がどこの出身か、お母様の両親、親戚、何も知りませんわ。

そう思って父に改めて聞いたら、

「知らないって……どういう事ですの?」

父の予想外の言葉に首を傾げる。

「……いつかイザベルにもオリヴァーにも話さないといけないかなって思っていたけど……、そうだね、私とセレーネがどんな風に出会い結婚したのか、少し聞いてもらおうかな」
「お父様?」
「もちろんディバイン公爵、あなたも聞いてください」

わたくしの隣にいたテオ様は、お父様の言葉に瞳をほんの少し見開いた。

「義父上、よろしいのですか?」
「もちろんです。妻の話を、二人に聞いてほしい───」



◆◆◆



「───はぁ……今日は風が少し冷たいなぁ。よしっ、霜が降りる前に耕してしまわないとね」

シモンズ前当主である伯父が寝たきりになってから、従兄弟は借金まみれの伯爵家を継ぐ事を嫌がって家を出て行き、結局伯父は私を後継者として養子に迎えたんだ。

伯父に変わって領地経営を始め、火の車の伯爵家の内情にほとほと困っていたそんな時だった。

彼女と出会ったのは。

「カーラ、見てください! あそこに土を掘ってる人がいますっ」
「セレーネ様、あまりはしゃぐと転びますよ」
「まぁっ、わたくしそんなにドジっ子じゃありません!」
「はぁ……、セレーネ様、残念ながらあなた様は自分が思っているよりドジっ子ですからね」

楽しそうな声が聞こえて顔を上げたら、ちょうど彼女と目が合ったんだ。

なんて美しい女性なんだろう……。

その時にはもう、私は恋に落ちていたんだろうね。
彼女……セレーネから目が離せなくなってしまっていたよ。

セレーネは、サリーの母親のカーラと共に歩いていて、目が合った私に声をかけて来たんだ。

「ねぇ、そこのあなた。この畑には何を植えるのですか?」
「ぇ、あ……い、芋をっ、植えます……」
「お芋を植えるのですか! カーラ、お芋ですって」

私の話を聞いて、カーラと楽しそうに話している時、セレーネのお腹が鳴ってね。彼女は顔を真っ赤にさせて……、フフッ、とても可愛らしかったよ。

「よろしければ、私のパンとスープを差し上げます」
「え!? そんなっ、あなたのお食事ですよね!?」
「かまいません。とはいえ、硬いパンと具も入っていないようなスープで申し訳ないのですが」
「まぁっ、パンが硬いのですか!? そんなパンは初めてですっ、素敵!」

セレーネは昔から、よくわからない事で喜んでいたからね。硬いパンもセレーネにとっては嬉しかったのだろう。最初は遠慮していた彼女も、結局はニコニコと食べていたよ。

余程芋の成長が気になったのか、それからというもの、彼女は何度か畑に遊びに来てくれてね。セレーネも、だんだんと私に好意を抱いてくれるようになったんだ。
私たちが恋人になって半年程経った頃、私が正式に伯爵家を継いだ直後に、思いきってプロポーズをしたら、彼女はとても困惑していたよ。

「エンツォ、でもわたくし、貴族ではないのです」
「そんな事は関係ないよ。君が何者だってかまわない。どうか、私の妻になって……お願いだよ。セレーネ」
「……エンツォ……っ、はい……っ」

セレーネがどこから来て、どういう身分の女性なのか、彼女は語ろうとはしなかった。私も、何も聞かなかったよ。聞いてしまえば、彼女が私の前から消えてしまうと、そう思ったから……。

そして、セレーネはカーラと、その娘だという女の子、とうじ3歳くらいだったかな。サリーを連れて伯爵家に嫁いで来たんだ。

暫くして、セレーネにそっくりな君が生まれ、そしてオリヴァーが生まれ、とても幸せだった。

けれど、彼女は私を置いて逝ってしまった……。

突然だった。確かに身体が強い方ではないけれど、それでも亡くなるような病気にもかかっていなかった。なのに、どうして……?

結局原因はわからずじまいで、後はイザベルも知っての通りというわけだ。



◆◆◆



「───お父様、それではお母様の親族も、身分すら、一切が不明ですの?」

父と母の出会いを聞き、愕然とする。

「そうなるね。もしかしたら、カーラは知っているかもしれないけど」
「義父上の話だと、本人が貴族ではないと言っているだけで、庶民とも考え難いが……」

テオ様は、やっぱりわたくしの血筋が気になるのかしら……。半分でも出身がわからない者の血が流れていると、公爵家に相応しくないと思われていたらどうしましょう。

「ベル、私は義父上の気持ちがよくわかる」
「え?」
「私も、ベルがベルであるなら、血筋などどうでも良い」
「テオ様……っ」

わたくし、あなたに嫁ぐ事が出来て、本当に幸せですわ。

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