継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの母3 〜 ノア5歳、イザベル臨月

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「結局、お母様が何者なのかはわからずじまいですわ」

今日もお父様の部屋に行って眠ってしまったノアに寂しく思いながら、ベッドの上で溜め息を吐いて呟く。

「カーラという女性が知っていると義父上は言っていたが、その女性はまだシモンズ伯爵家に居るのか?」

テオ様がわたくしを抱え込むように、後ろからお腹を撫でつつ、カーラのことを聞いてきた。

「カーラはシモンズ伯爵家の侍女長で、わたくしの乳母でもあり、サリーのお母様なのです。もちろん今もシモンズ伯爵家で働いてもらっておりますのよ」

わたくしはてっきり、カーラは元からシモンズ伯爵家で働いていたものだと思っておりましたが、お母様と一緒にやって来たというのは、初耳でしたわ。

「気になるのであれば、シモンズ伯爵邸に行ってみるか?」
「気にならないと言えば嘘になりますが、もう臨月ですし、この子がいつ生まれてもおかしくありませんもの。それに、さすがに馬車はマディソンもムーア先生も許してはくれませんわ」
「皇后の転移があるだろう」
「そんな……っ、このような事で皇后様を煩わせるわけにはまいりません!」
「……ならば、カーラという人物をこちらに呼ぶのはどうだろうか」

テオ様が一番、お母様の事を知りたがっているようにも思えるのだけど、どうしてかしら?

「私は、愛する妻の事は出来る限り知っておきたいんだ。何が君を危険にさらすかわからないからな」

危険……、やっぱり魔法契約があるから。でもテオ様、いくら言っても魔法契約を破棄させてくださいませんもの。

「テオ様、魔法契約の破棄を考えてくださいました?」

わたくしの言葉に、テオ様はムッとして、

「破棄は絶対しないと言っただろう」

何度も言わせるなとばかりにそう返事をするのだ。

「ですがもし、わたくしに何かあった時、テオ様も巻き込んでしまいますのよ」
「望むところだ」

そのような事を望まないでくださいませ!

「それよりも君の義母上の話だ」

その話はここまでだというように、母の話へと戻されてしまった。

「この子を出産しましたら、一度シモンズ伯爵邸に行ってみますわ」
「その時は私も行こう。妻だけを実家に帰すわけにはいかない」
「はい。テオ様とシモンズ伯爵邸にご一緒するのは初めてですわね」
「ああ。君の生まれた家を見るのが楽しみだ」

そんな話をしていた翌日、折よくオリヴァーからの手紙で、サリーがオリヴァーの実験で出来た素材のサンプルを持って来ると知ったのだ。

「サリーなら、カーラからお母様の話を聞いているかもしれませんわ」
「サリー? ああ、君の縁談用の絵姿を持って、ウォルトに売り込みに来たという侍女か」

え?

「そのような事、初耳ですわ」
「ウォルトからは、君の売り込みがサリーという侍女からあったと聞いていたが……?」

売り込みって……、

「お父様ではなく、サリーがそのような事をしたのですか!?」
「君は知らなかったのか?」
「え、ええ。今の話を聞いて驚きましたわ……。サリーが……」

テオ様との縁談のお話はお父様からお伺いしていたから、てっきりお父様がわたくしの絵姿をディバイン公爵家に送り付けたとばかり思っておりましたもの。

お父様がいれば、詳しく話をうかがえるというのに、朝早くに帰ってしまったから、タイミングが悪かったですわ……。

「そのお陰で、君を妻に出来たのだ。感謝せねばならないな」
「旦那様、その事で少し不思議に思った事がございます」

今まで気配を薄くし、お茶の準備をしてくれていたウォルトが、わたくしたちの話からその時の事を思い出したように、遠慮がちに言う。

「何だ」
「サリーさんは、私が旦那様と領地の視察をした後、別行動をとっていた時にとある食堂で声をかけてきたのです。不思議と警戒心のわかない方で、話を聞いてしまったのですが……。もちろん身元も確かなようでしたし、奥様の姿絵も受け取り、後に調査をさせていただき、旦那様へと報告いたしましたが、よく考えると……サリーさんは、なぜ私があの食堂にいる事を知っていたのかと不思議に思うのです……」

えぇ!?

「待ってくださいまし! サリーはわたくしの侍女で、ずっとわたくしのそばにおりましたのよ!? 何かの用事で街に行くような事があっても、2~3時間で帰ってきますし、いくら隣の領地とはいえ、短時間で往復する事は出来ませんわ!」
「……つまり、ウォルトとベルの話をまとめると、サリーという侍女は、イザベルの世話をしながら、空き時間に領地視察後に別行動をとっていたウォルトを見つけ出し、姿絵を渡して隣の領地へ短時間で戻った、と」

そんなバカな。

「そんな事が出来るのは皇后様のように転移が出来る人だけですわ! サリーが転移能力の持ち主だとは聞いた事もございません」
「侍女が君に能力を隠していたという事も考えられる」
「姉妹のように育ってきたサリーが、わたくしに隠し事なんて……っ」

あの無表情ですら、わたくしには何となく感情が理解できるほど、わたくしはサリーの事を知っておりますのよ。

「ベル、どれほど仲が良くとも、人間一つや二つ、人に言えない事はある。そうだろう」
「……そう、ですわね……」

サリーが、わたくしに秘密にしているの……?

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