継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 ディバイン公爵家の影1 〜

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テオバルド視点


「───旦那様、ノア様の侍従ですが、選別して詳しい資料をまとめておきました」
「ああ。ご苦労」

息子の祝福の儀の少し前の事だ。ウォルトに頼んでおいた侍従の選定を終え、候補の情報を持ってやって来たウォルトが、神妙な顔をして私を見るので、仕事の手を止め「どうした」と声をかける。

「……旦那様、ノア様は世界でも数少ない、妖精と契約をした特別なお方です」
「そうだな……」
「もし、この事実が他に知られれば、教会が騒ぐだけでなく、自国の貴族や、他国からも狙われるでしょう」

聖者ではないが、妖精を見る事ができ、妖精と契約をしたとなれば、人々にとってはもはや聖者と同じだ。
ウォルトも私も、その事が漏れないよう使用人全員と魔法契約をしている。さらに、注意を払ってはいるが、いくら慎重に行動したとしても、隠しているものが見つかるという懸念は常にある。

「だからこそ、ノアが心許せる侍従が必要だ」
「しかし、普通の者ではノア様の補佐どころか、ついていく事もままならず、お守りする事もできないかと考えます」
「……それは、ノアの侍従候補がいないという事か」
「いえ、そうではなく……適任者はいない、という事です」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「おくさま、ノアさま、はじめておめにかかります。ほんじつより、ノアさまのじじゅうとして、おつかえいたします。サイモンともうします」

ノアの祝福の儀の翌日だ。テオ様に呼ばれ、ノアと共に執務室へ入れば、見知らぬ男の子がウォルトの隣にいる事に気付き首を傾げた。

癖のあるシアーグレージュの髪を肩より少し下まで伸ばし、一つにまとめ、同じ色の瞳をした聡明そうな子供だ。

「まぁ、ノアの侍従ですの?」

ノアと同じくらいの年齢だろうに、働かせるというのだろうか。

「その子供はウォルトの親戚の子供だ。侍従とは言っても、成人(15歳)するまではノアの話し相手として過ごさせる。私とウォルトも5歳の頃からの付き合いだからな。将来の公爵と家令として、今から信頼関係を築いていった方が良いだろう」

顔に出ていたのかテオ様からそのように言われ、そうだったのね。と納得する。

「サイモン君、わたくしはイザベル・ドーラ・ディバインですわ。そしてこっちが息子の、」
「ノア・キンバリー・ディバインです」
「おくさま、ノアさま、よろしくおねがいいたします」

ウチの息子もそうだけど、この世界、賢そうな子が多いわ。

「よろしく、おねがいします」
「よろしくお願いいたしますわ」



サイモン君はすぐにノアと打ち解け、おもちゃで一緒に遊んだり、絵を描いたり、絵本を読んだりと楽しんでいる。

「良い関係が築けそうで良かったですわ」

一緒にふたりを眺めていたテオ様に、そう声をかけると、真剣な顔をして私を見つめてくるので、「どうなさったの?」と首を傾げる。

「サイモンは、ディバイン公爵家の“影”の一員だ」

影……?

「影といってもまだ幼いからな。見習いのようなものだが」

影って何ですの? 見習い??

「ベルも心配だとは思うが、ノアは妖精と契約している。普通の者を侍従にするわけにはいかないんだ。幼い子供の影など、優しい君は嫌悪感があるかもしれんが……わかってくれ」

嫌悪?? ディバイン公爵家の影……何だか忍者っぽいですわね。
影と呼ばれる課があるみたいですが、テオ様はわたくしも知っているかのように言っておりますけど、わたくし、実はディバイン公爵家についてあまり存じ上げませんのよ。

「ベル、怒ったのか? すまない……。妊娠中の君に負担をかけるような事を言ってしまった」
「え?? あの、テオ様わたくし……」
「ベル、今は君の体調の為にも、この話は終わりにしよう」

終わりますの!? “影”がとても気になるのですが!?

「旦那様、奥様はそもそも、“影”が何かをご存知ないのではないでしょうか。説明したことも一度もございませんし」

ウォルトの言葉に大きく頷く。

「なんだと……?」

驚いたような表情でわたくしを見るテオ様に、こっちが驚きなのですが? と心の中でツッコミつつ、首を傾げて見せると、恥ずかしくなったのかゴホンッと誤魔化す為の咳をされた。

「……そうだな。この機会に、公爵夫人である君と、後継者であるノアに、“影”の事について話そうか」

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