119 / 186
番外編 〜ノア5歳〜 〜
番外編 〜 イザベルの里帰り4 〜 ノア5歳
しおりを挟むノア視点
「───つまり、カーラは事故で5歳の私の夢に、精神体の私と入ってしまい、何故か大人の私が現れ驚いていたという事?」
『はい。稀に前世の記憶を持つ方は、前世の姿が夢に反映される場合もあります。それを“魂の記憶”というのですが、ノア様は前世の姿が反映されたようです』
黒豹の神獣であるカーラから詳しい話を聞いていたんだけど、ますます混乱してくる。
私が”前世の記憶”で、今の私は5歳なのだと言われても……。しかも別人ではなく、同じノア・キンバリー・ディバインとして生まれ直しているとはどういう事なのだろう。
こんなおかしな夢は、あの時以来…………、
『ノア様、私はこれから、アベル様の所へまいります。ですので、ノア様も一緒に来ていただきたいのです』
アベル……それは義母が産んだ私の弟らしい。
あの冷酷な父が、本当に義母と子供を作ったのか、信じられないでいる。
「それは構わないけど、その、アベルって子は、どこにいるかわかるの?」
『はい。あそこに見える夢の境目から、アベル様の夢です。その中心にいらっしゃいます』
カーラはもふもふした片手をスッと上げ、虹色の空を指す。そこにはくっきりと境目があり、なるほどと納得する。
『それでは参りましょう』
「ああ……」
私がこの不思議な夢をすぐに受け入れたのは、1年前に見た不思議な夢のせいかもしれない。
そこに出て来たのは義母の幽霊だった。
義母は……憑き物が落ちたように落ち着いていて、初めて会った頃の優しい義母の姿で……、私との約束を、覚えてくれていた───
『ノア様、私から離れないようにしてください』
はぐれないよう、その長い尻尾を私の腕に巻き付けたカーラは、夢の境に向けて走り出した。
しかしその時、地面が大きく揺れたのだ。
「何だ!?」
『あれは……、』
カーラが上を見る。私もつられて顔を上に向けると……
「ぇ、お父様……?」
随分前に亡くなったはずの父が、何故か巨大化し、ズシンッ、ズシンッと地面を揺らしながら歩いていたのだ。
『ディバイン公爵ですね。お小さいノア様には、とても大きく見えるのでしょう。そんなイメージが、この夢に反映されています』
どうやら、幼い頃の私は、父をあのような巨人だと思っていたようだ。
言われて見れば、大きい人だと思っていたかもしれない……。
私を見下ろすあの冷たい瞳が、ひどく恐ろしく感じていた。
『ノア様、巨大なディバイン公爵が、境目まで連れて行ってくださるそうです』
「え?」
見れば、巨大な父は片膝を付き、手のひらに乗れというように私たちの前に大きな手を差し出していた。
その目には、あの冷たさはない。
『せっかくなので運んでもらいましょう。時間短縮になります』
「ぁ、そ、う……だね」
巨大な父の手のひらに乗ると、立ち上がり動きだす。
思ったよりも揺れはなく、なんとなくだが、父か揺れないようにしてくれているんじゃないかと、そんな風に感じた。
あっという間に夢の境目に到着し、降ろされる。
父ともここでお別れか……。
「気をつけて、行ってこい」
境を渡ろうとした時だ。
父が……あの父が、そう言った。
『ノア様、どうかされましたか?』
「……いや、何でもないよ」
境を渡り、ふと振り返って見た光景に、ドキリとした。
父の肩には、青いドレスを纏った義母が座っていて、父の頬に寄り添い、互いに微笑み合って……そして、私を見て手を振っていたのだ。
これは、幼い私の夢。イメージ。
「お父様とお義母様は……、」
『ノア様?』
「……何でもない。行こう───」
幼い私の夢は、お菓子の家や青いシュワシュワした水に浮かぶ大きな船、虹色の空に綿のようだけど甘い香りの雲がある子供らしい夢だが、境目からはガラリと変わり、何というか……白くて柔らかい布団に包まれているような、そんなイメージが広がっていた。
上も下も横も、全てが白く柔らかい。
『地面が柔らかいので、足をとられてしまいますね……』
「先程とは違い、何もないな」
『アベル様はまだ赤子ですから、布団のイメージが強いのかもしれません』
ああ、赤ん坊ならそうなのかもしれない。
『いらっしゃいました』
カーラの言葉に前を見ると、優しい光を帯びた繭のようなものがそこにあったのだ。
『あの繭の中に、アベル様がいらっしゃいます』
「あの中に?」
『さすが聖者ですね。光の力が強い……』
小さな声で呟いたそれは、私の耳には届いてしまった。
「聖者……?」
1,970
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる