継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの里帰り5 〜

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ノア視点


今、カーラは聖者と言わなかったか?

聖者とは、光魔法を使い、傷や病気をたちまち治してしまうという、奇跡のような存在だ。
この世界に数十年以上姿を現さず、もはや伝説と言っても過言ではない。そんな中フローレンスは、数十年ぶりに現れた聖女だった。

そのせいで殺されてしまったけれど……。
そんな存在が、私の弟……?

『やはり、闇の力をかき消してしまうほどの強さの光……、これは、セレーネ様のお力ではなく、”セレス様”のお力を継いでおられるのか……』

セレーネ……? セレスとは一体誰だろうか……

光る繭のに前足を乗せ唸っているカーラを静かに眺める。
何かを確認しているようだ。

『なるほど。前世の魂と同様の能力をお持ちですか……。どうやら私の封印は必要なさそうですが、セレス様は騒ぎ出しそうですね』
「カーラ、私は良くわかっていないのだけど、私の……弟? は、聖人なのかな?」

一人……一匹? で納得しているカーラに恐る恐る問えば、そうです。と頷くカーラの肯定に血の気が引いた。

そんな……っ、もし、この事が皇族に知られてしまったら、フローレンスのように……っ

『ノア様、心配いりません。現皇帝も次期皇帝も聖人を利用するような人物ではございませんから』
「? 君の話によれば、私はもう一度人生をやり直しているんだよね?」
『はい』
「なら、現皇帝はネロウディアスのはず。次期皇帝は、リュークだろう」

ネロウディアスは好色で欲深い男だったはずだ。リュークもその性質を色濃く継いでおり、母親のオリヴィアはもっと酷い。悪魔のような女だ。皇族も貴族も皆、腐り切っていた。

『現皇帝はネロウディアスですが、次期皇帝はイーニアス殿下です』
「!? イーニアス……っ」

イーニアス殿下は、フローレンスを狙い、義母と共に私を殺そうとした人物だ。

『イーニアス殿下は、ノア様ととても仲の良いお友達だと、イザベルお嬢様から伺っております』
「ばかな……っ」
『お心の美しい方で、ノア様と同じように妖精とも契約され、海賊の王様になるのが夢だと、お嬢様はお手紙で教えてくださいました』
「海賊!? いや、妖精と契約って……」

一体何がどうなっているんだ!?

『……ノア様、あなた様は”今のノア様”でもあるのですから、ご存知のはずです』
「っ……」
『別人ではないのですよ。同じ魂の同じ人物です。あなた様は間違いなく、を生きておられます』

今……そうだ……。

カーラの言葉に、“今”の記憶が一気に流れ込んでくる。

───私は、侵略者から民を守る為、必死で戦って……そして……

「あの時、死んだんだ……」

思い出した。

『ノア様……』
「そして、生まれ変わった」
『お嬢様は、それを回帰と言っておりました。また同じ人生をやり直す事だそうです』
「回帰……。ああ、そうだ。私は……」

私は今、両親に愛されている───



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「ノアが泣いていますわ……っ、怖い夢でも見たのかしら」

さっきまで幸せそうに笑っていたというのに、何があったの?

ハンカチで眠っているノアの目元を拭いてあげると、一瞬ノアが笑っているように見えたが、気のせい……?

「お嬢様、ノア様とアベル様をじっと見ていても何も変わりませんよ」

サリーはそう言って、特製の激マズ青汁を出してくると、「一気にどうぞ」と一歩下がる。
シモンズ邸にいた時は毎日出てきたのよね、これ。

「何も出来ないってわかっていますわ。でも、心配なの」

今ならわかる。これ、日本の青汁を参考に作っているのだわ。だからだったのね。あんなに粗食だったのに栄養失調にならなかったのは。

「……まっず」

久々に飲んだら、口の中に苦味と臭みが広がって大変な事になっている。

「お嬢様、そこは続けて『もう一杯』と言っていただかないと」
「口が裂けても言えませんわよ。それよりリバースしちゃうからお水をちょうだい!」

などと大騒ぎしている所で、アベルの身体からにゅっと黒豹が出てきたのだ!

「カーラが戻りましたね」
「カーラ!?」

い、今、アベルの身体から出てきましたわよ!?

『お嬢様、こちらにいらしていたのですね』

黒豹が喋りましたわ! 本当にカーラがこの黒豹ですのね……っ

「カーラ、ノアとアベルは大丈夫ですの!?」
『もちろんです。すぐにお目覚めになられますよ』

その言葉に安堵し、ノアとアベルの手を握ると、暫くして「にゃ……」と可愛い子猫のような声を出したノアが薄っすらと目を開けたのだ。

「ノア!? 目が覚めましたのね!」
「……おかぁさま……? アベル……」

ノアは目覚めてすぐ、アベルが無事か確認し、きょろきょろしている。

「ノアが守ってくれたから、隣で眠っていますわ」

そう伝えればほっと息を吐く息子は、とても優しい子に育っている。

「おっきぃ、ねこちゃんは……?」
『私はこちらにおります』

黒豹のまま、カーラがノアの前に出てきたのでぎょっとした。

「!? ねこちゃん、おしゃべり、するのね」
『私は神獣ですので、お喋りできます』
「ちんじゅー!! おかぁさま、ちんじゅーよ!!」

ノア、珍獣ではなくて神獣……ん? 随分前にノアが言っていた珍獣って……もしかして、神獣の事でしたの!?

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