継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 ノア13歳、アカデミー編5 〜

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ノア視点


「アス殿下、お清めって……あれはアカの仕業ですよね? 大丈夫なんでしょうか……」
「うむ。妖精は神官のお清めで浄化される事はないだろう」

そういう事を言いたいんじゃありませんよ?

イーニアス殿下は偶に天然な発言をする。

『アカ、あのひとに、ピアノ、ひーてあげるー!』
『アオもー!!』
「ぇ、ちょ、アカ、アオ……っ」

止める間もなく、神官に付いていってしまった妖精たちに呆然とする。もう嫌な予感しかしない。

「これは……、どう誤魔化せば良いだろうか、ノア」
「もう問題を起こす事前提なんですね。殿下」

神官は音楽室に行ったようだし、追いかけてみようという事になり、二人で音楽室へ向かったのだが、音楽室前の廊下はすでに野次馬でごった返しており、前に進めなかった。

「アス殿下、どうしましょうか……」
「うむ。私に任せろ」

そう爽やかに微笑むと、アス殿下は「すまぬが通してもらえぬだろうか」とたった一言、発した。
すると人混みが割れ、目の前に一本の道が出来たのだ。

すごい……。そんなに大きな声を出したわけでもないのに、皆がアス殿下の為に道を開けた。

アス殿下はそこを堂々と歩いていく。その後ろ姿に、未来の皇帝の姿が重なった。

この人は、きっと素晴らしい皇帝陛下になる。
私も、この人を支える事の出来る大人になるんだ。

「ノア、ピアノの音がする」
「もしかして、アカが?」

二人で頷き合い、扉を開けると───


「悪霊め! 教会最強のエクソシストと言われたこの私が、退治してくれる!」
「ヒィィィ! 本当に勝手に音が鳴ってるぅ!!」
『アカ、ピアノ、とくい!』
『アオも!! つぎ、アオもひくー!!』
「ギャァァァ!! 不協和音が耳に響くぅ! わし、もう引退する! こんな怖い所辞める!」
「クソッ、聖水も効かぬのか!? まさか悪霊ではなく、悪魔!?」
『おみずー!』
『あめ、ふったー!!』

なんてことだろう……。妖精なのに、悪魔だと思われてる。

「神官殿、それ以上聖水をかけてしまうと、ピアノが壊れてしまうのだ。少し落ち着かれよ」
「!? 貴方様はまさか……皇太子殿下!」

神官が片膝をつき、頭を垂れる。怖がって震えていた学長も、神官の後ろで慌てて「ははーっ」と土下座をしているが、顔色は真っ青だ。よほどアカとアオが怖かったらしい。

『まどあける!! アカのえんそー、みんなにきかせる!!』
『ねこふんじゃった、ひく!』

お願いだからもう止めて……。

「神官殿、これは悪霊でも悪魔の仕業でもなさそうだ」
「なんと……!? 皇太子殿下、このような恐ろしき現象が、悪魔や悪霊の仕業でないとすると、一体なんだというのでしょうか?」
「うむ、恐ろしいだろうか? このような軽快な音楽を奏でる悪霊や悪魔が果たしているのかどうか……ノアよ、どう思う?」

アス殿下は余裕の笑みを浮かべ、私に問いかけてきた。
そうか、これは……、

「私は、この現象は『妖精のイタズラ』かと思います。ここはアカデミー。子供たちが多く集う場所ですから、子供好きと言われる妖精も集まってくるのではないでしょうか」
「銀髪の……貴方様は、ディバイン公爵のご子息……っ」

神官は私を見て、目を見開き、言葉の意味を理解して、「これが、妖精のイタズラ……?」と楽しそうに鳴っているピアノを見つめた。

「であれば、簡単だ」
「皇太子殿下……?」
「妖精たちよ、素晴らしい演奏を感謝する! しかし、皆が怖がっているようなのでな、出来れば演奏を止め、あるべき場所へと戻ってもらいたい!」
『アスだ! アス~!』
『ノア!! ピアノ、たのしー!!』

アス殿下がお願いした途端、アカが演奏を止めてアス殿下の所へ戻ってきた。アオも、私の腕の中に飛び込んでくる。

神官たちは呆然と、アス殿下を見つめていた。

「……何と、皇太子殿下は、奇跡を起こした……っ」

この日、妖精をも従える、奇跡の皇太子殿下が誕生した。

学長は、妖精でも悪霊でも怖さは変わらないと、そのまま引退してしまったのでアオが悪い事をしてしまったと申し訳なく思っていたのだけど、元々お年もあり、今期で引退する予定だったのだとイーニアス殿下から聞き安堵したのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


「あのキノコたちは一体何をやっているんだ……」

頭を抱えるテオバルドのそばには、風の妖精王と水の妖精王が困った顔でテオバルドを見ている。

『わたしは止めたのよ! 本当よっ、信じて!』
『ルピナス、いいな。アカデミー、行けて』
『アクアは黙ってて! テオの機嫌がこれ以上悪化したらどうするのよ!?』
『大丈夫。ベルがいれば、問題ない』

すっかりテオバルドを怖がることの無くなった水の妖精王アクアは、得意気にイザベルの名を出すと、ルピナスの肩をポンポンとたたく。

『……そうよね。テオ、ベルに膝枕でもしてもらって、休憩しましょう!』

その言葉を聞いたテオバルドが、数分後、愛妻の膝枕で安眠を取っている姿を、ウォルトが目撃したのだが、結局アカとアオはお説教をされたのだとか。

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