124 / 175
番外編 〜 アベルとフローレンス 〜
番外編 〜 次男の名前 〜 アベル0歳
テオバルド視点
どうしたものか……。まさか私とベルの子供がアベラルド様の生まれ変わりだとは……っ
「旦那様、やはりお子様は、聖者でいらっしゃるのでしょうか」
ウォルトが深刻な表情でこちらを見つめてくる。
もし、あの子が聖者だと知られてしまえば、ディバイン公爵家といえど教会の介入は免れないだろう。
「……そのようだ。しかも、歴代で最も力の強いと言われた聖人だ」
「……どうなさるおつもりですか。このままディバイン公爵家で、誰にも知られぬようお育てになるのか、それとも教会へ報告するのか……」
「教会へ報告するなどあり得ん! 私とベルの大切な子だ。お前もそれは十分に理解しているはずだろう」
教会になど報告しようものなら、自分の子と引き離される事は目に見えている。
ここ100年以上聖者など現れてはいないのだ。教会側も、聖者の存在が明らかになれば、取り込もうと必死になるだろう。
それも、ディバイン公爵家の子供ともなれば、教皇となり、皇女との婚約まで早々に整えられ、あの子に自由はなくなる。
「もちろんでございます。しかし、このまま誰にも知られぬようお育てするには、あまりにも人の目がございます。何しろ、イーニアス殿下も、皇后陛下も、皇帝陛下すら気軽にお越しになるのですから」
「わかっている……。しかし、皇家に関しては、あの子を聖者として公表しない限り何かを求めてくる事はないだろう」
「そうでしょう。しかし、人の口に戸は立てられません。公爵家の中だけであれば、魔法契約で可能でしょう。しかし、ご成長すればそういうわけにはいかないかと……」
「言われなくともわかっている……。かといって、閉じ込めて育てるなど出来るはずもない」
私たち夫婦の宝だ。可愛い我が子に自由さえ与えてやれぬ親になどなりたくはない。
「……せめてあの子が成人するまでは、公爵家で育て、何があっても治癒魔法は使用させぬようにする。成人後は、あの子の意志に任せる事にしよう……」
「かしこまりました。旦那様がそのようにお望みであれば、我々“影”はあなた様に従います」
大丈夫だ。あの子は誰にも奪わせない。
◇◇◇
「“アベル・ユリシーズ・ディバイン”という名はどうだろうか」
ベッドに座り、こちらを見る愛しい妻に、ずっと考えていた次男の名を告げると、妻は満面の笑みを浮かべ、
「素敵な名前ですわ!」
と喜び、愛おしそうにその名を呼ぶのだ。
「アベル……。アベラルド様からいただいたのですね」
「ああ」
「わたくしたちの、二番目の息子ですわ」
「そうだ。ノアとアベル、二人は私たちの宝だ」
ベルは笑みを深くすると、その美しい声でテオ様と、私の名前を紡ぐ。
何と愛しい女性なのだろうか。
「どうした、ベル」
「わたくし、あなたと結婚できて、可愛い息子たちに恵まれて、本当に幸せですわ」
「っ……ああ。私も、君と結婚できて、子供たちの父親になれて幸せだよ」
必ず、ベルも息子たちも、何者からも守りぬこう。
「ふぇっ、ふぇっ、ぇ~」
「あらあら、アベル、どうしましたの? お父様に抱っこしてもらいたいのかしら」
聖母のように微笑み、私を見る妻に負け、アベルを抱き上げる。相変わらずふにゃふにゃとして潰れてしまいそうだ。
「あらテオ様、赤ちゃんを抱っこするのが上手になっていますわね」
「生まれてから毎日抱っこしているんだ。上手くもなるだろう」
「フフッ、そうですわね。次はアベルをお風呂に入れてみますか?」
「私がか?」
赤ん坊を風呂になど……恐ろしくて無理だ。
「大丈夫です。わたくしが入れ方をお教えいたしますわ」
「……ベルがそう言うなら、やってみよう」
本当に、ベルと結婚してからというもの、初めて体験する事が多い。
しかし妻が一緒ならば、何でも出来そうなきがするのはどうしてだろうか。
「ノアとも一緒に、お風呂に入ってくださいましね」
「ああ」
可愛いお願いをしてくる妻を抱きしめたいが、今は息子をこの手に抱いているからな。また後で抱きしめる事にしよう。
この小さな息子が、あの聖女と後に、教会を巻き込んだ大事件を起こす事になるとは、想像もつかなかったのだ。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。