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番外編 〜 ぺーちゃん 〜
番外編 〜 教皇とイザベル5 〜 ノア10歳、アベル5歳
しおりを挟む「───そもそも、教会側は両親と引き離そうなどとは考えておりません。しかし歴代の、ほとんどの聖者たちが両親に恵まれていないという事が、そのような誤解を与えてしまったのでしょうな」
大司教はホホッと笑って、わたくしたちに説明してくれた。
「わたくしはてっきり、聖者の存在を確認したと同時に、保護されるとばかり思っておりましたわ」
息子と引き離されるのではないかと、本当に不安だったのだ。
「それは、不安にさせて申し訳ありませんな。もちろん、聖者は多方面から狙われる存在ですから、教会で保護をという声は上がりますが、ディバイン公爵家のように、聖者を守る力があるのならば、まったく問題はないでしょう」
むしろ、教会より安全ですなぁと笑う大司教は、嘘をついているようには見えない。
「良かった……」
「ただし、どの組織も大なり小なりそうかもしれませぬが、教会も決して一枚岩ではありません。情けない事に、教会内部にも過激な考えを持つ者は存在しているのです」
やはりいくら教会でも、聖人君子の集まりではないですものね。
「ですから、私個人としては、フローレンス様とアベル公子のお力の事は見聞きしていない事にし、先程アベル公子が仰ったように、成人してから、もし、民に尽くすお覚悟があるのであれば、教会として受け入れる方法が一番良いかと思うのです」
大司教はそう言ってお茶を美味しそうに飲むのだ。
「……勝手な事かもしれませんが、わたくし共も、そうしていただけると助かりますわ。今は教会で働くと言っていても、将来やりたいことが別に見つかるかもしれませんし、子供たちの将来の選択肢は、より多い方が良いですもの」
聖者の顕現を期待している民たちには申し訳ないけれど、一人の親として、子供たちには好きな道を進んでほしい。
「そうですな。民に尽くすという行為は簡単そうに見えて、難しいものです。時には自らを押し殺さなくてはなりません。良いものも、悪いものも目にする事になるでしょう」
大司教も、何十年も教会にいらっしゃるから、色々ご苦労されたのだろう。
「それにしてもアベル公子は、まだお小さいのに勇気を出してレディを守ろうとする行動、素晴らしい心意気ですなぁ」
「たいせつなひとは、まもらなくちゃ、いけないんだって、おとうさまがいってたから……」
そう答えながらも、アベルとフロちゃんはわたくしを真ん中に挟み、ぴったり寄り添って座っている。
膝にはぺーちゃんが座り、こんなにソファにスペースがあるにぎゅうぎゅうだ。アベルの隣にはノアが座ってにこにこしている。
「ペーちゃ、もちゃ、ちゅりゅ!」
話に飽きたのか、おやつを堪能したからか、ぺーちゃんがおもちゃで遊びたいと言い出し、大司教は「ペーちゃん、ちゃんと話を聞きなさい」と困り顔になっている。
「じーじ、はにゃち、おわったにょ。ペーちゃ、もちゃ、ちゅりゅ!」
「はぁ……ディバイン公爵夫人、孫がどうやらおもちゃで遊びたいと申しておりまして、あちらのおもちゃで遊ばせてもよろしいでしょうかな」
「もちろんですわ。ノア、アベル、フロちゃん、ペーちゃんと一緒におもちゃで遊んでいてちょうだい」
「やったぁ!」
泣きそうだったアベルは、現金なもので、嬉しそうにノアとペーちゃんの手をつないで、遊具へと駆けていったのだ。
わたくしはその間にテオ様を呼んで、大司教と三人で先程話していた事を話し合った。
暫く待ちぼうけにさせてしまったテオ様は、少し不機嫌で、アベルの発言を迂闊だと憤っていたが、大司教から教会内部の派閥の話を聞き、アベルへは苦言を呈するだけで済みそうでホッとした。
そして、お二人がお帰りになる時間がやって来た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
教皇フェリクス視点
口の中でホロッと溶けていく、丸いクッキー、カラフルな野菜のクッキー、滑り台にブランコにシーソー、そしてトランポというジャンプをする台。疲れたら積み木やパズルで遊ぶのもいい。
ここにはノアも、フローレンスも、ノアの弟のアベルもいて、私と一緒に遊んでくれる。
転んだら、母の膝の上で休めばいい。「痛いの痛いの飛んでいけ」をしてもらえるから。
だけど、
「ぺーちゃん、帰りますぞ」
「やーっ、ぺーちゃ、ここいりゅー!」
「それは、ご迷惑になるのではないですかな」
「にょあ、ふりょ、あーちゃ、かぁちゃ…………、みゃおー!?」
なぜここに魔王が!? 遠ざけてもらったはずなのに!
「なぜ、私の妻に息子がもう一人増えている」
「みゃ!?」
睨まれている……っ、もしかしたら、私はこの場で魔王に殺されるのではないか!?
「テオ様、ぺーちゃんが震えておりますから、少し離れてくださいませ」
「ベル……!?」
「ぺーちゃん、大丈夫ですわ。怖くありません」
「かぁちゃ……」
優しい腕に抱かれながら、この人は悪女ではなかったと改めて思う。優しい母だ。
そういえば、この人の鑑定をしていなかったな───
◆◆◆
名前: イザベル・ドーラ・ディバイン
年齢: 24
種族: 半神(闇の女神の娘)
家族構成: 夫、息子2、娘1、父、弟
LV: 27/平均値26~40
体力: 60/平均値65~100
魔力: 280/平均値150~300
魔法属性: 闇/状態: 封印
闇の女神(母)の加護、闇の神獣の加護、創造神の神獣の加護あり
世界の回帰の主軸
スキル: 異世界の知識、夢渡り、精神治癒(小)
◆◆◆
「かぁちゃ……かみちゃま……」
「え? ペーちゃん? 大変! 熱がありますわ!」
結局、熱を出してしまった私が、公爵家から帰ったのは翌日だった。
鑑定は滅多な事では使ってはダメだという事を学んだ、貴重な一日であった。
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