継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ミーシャ 〜

番外編 〜 ミーシャの日常、公爵邸招待編3 〜

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ミーシャ視点


暫くの間、馬車の中は無言で、ナツィーが心配そうに私を見ていたけど、顔を見る事は出来なかった。

そして、貴族街の中でも高級住宅地へ馬車が近付いていくのと比例して、ナツィーの顔色が悪くなっていった。

「嘘……っ」

悲鳴のような声を上げたナツィーは、この中で唯一の貴族だからだろう。ウチの前を通った事があるのかはわからないが、馬車が門のそばまで来た時に、ディバイン公爵邸に入るのだと気付いたらしい。

「……三人とも、着いたから、降りよう」
「こ、こ、ここ、ここに……!?」
「そんな……まさか、ミーシャが……っ」
「触っちゃダメだ……触っちゃダメだ……っ」

玄関前に降り立った三人の反応は様々で、コニーが特に酷かった。

「お嬢様、お帰りなさいませ」

執事長のウォルトや他の執事、侍女長のミランダ、メイドのみんなが玄関に並んで出迎えてくれるが、こんな大袈裟な出迎えは引かれるかもしれないから止めてほしい。

「な、なん、なん……!?」
「…………」
「ぁあ……私、不敬罪で処刑になるんだ……っ」

案の定、三人の顔色は蒼白に変わり、ドン引いているではないか。

「応接室で奥様がお待ちです」

ウォルトがチラリと後ろの三人を見て、声を抑え言う。

お母様、挨拶する気満々だ……。大丈夫かな?

「お、お城……っ」
「…………」
「これから私は死刑台に……」

みんな何故か一列になり、互いの腕や服を掴んで、まるでお化け屋敷のように進んでいる。
それをうちの使用人たちはにこやかに見守っていた。

『ミーシャ、ともだち、きたー!!』

予想通り、青いキノコが飛んでくる。相変わらず騒がしく、友人たちの周りを飛んでいるが、みんなに見えないことだけは救いだ。

『ベル、おやつたくさーん、よーいしてまってる!! はやく、いく!!』

アオが三人を急かすが、見えていないので意味はない。でも、お母様は張り切っているようだ。

みんなお母様のファンだって言っていたから、喜んでくれるかもしれない。雰囲気が和んだら、話しやすくなるだろうし……。

使用人の間を恐る恐る通り、邸の中へ入ると、まずコニーが「ふぅぁ!!」と悲鳴をあげ、腰を抜かして動けなくなった。

「コニー、大丈夫?」
「だ、だいじょぶく、ないみたい……」

コニーは涙目で、両サイドをメイドに支えられ、引きずられるように歩いている。

クロエは……

「あ、あの壺……国宝の……っ、あの絵画は、ポップアートの巨匠、アーノルドの作品!? ハッ! この絨毯、踏み心地が雲のようだと思ったら、最高級の……っ」

目が回るんじゃないかってほどキョロキョロしながら、屋敷内の装飾品を見ていた。

「………………」

ナツィーだけは静かに前を見据えており、姿勢も良く歩いている。

先導していたウォルトが、お客様用応接室の扉の前で止まると、ノックをして「奥様、お客様をご案内いたしました」と中に声をかける。「どうぞ。入っていらして」と返事があり、扉が開いた。

「お母様、友だちを、連れてきました……」

お母様は、ソファに座り私たちを待っていたようで、私の顔を見ると立ち上がり、「お帰りなさい、ミーシャ。皆様、良くお越しくださいましたわ」とにこやかに出迎えたのだ。

我が母ながら、バックに花が咲き乱れているような幻覚が見える。

「あばぁ!?」
「…………」
「私、一体いつ死んだんでしょうか……? 女神が迎えに来た……」

母を見れば、もっと和むと思っていたのだが、みんなが一様に固まってしまい、母は笑顔のまま首を傾げてしまった。

「コニーは生きてるよ」

とりあえず、自分を死んだと勘違いしてしまったコニーを、正気に戻さないとダメだと思って声をかけていた時、偶々ナツィーの顔を見たら、白目をむいて気絶していた。

「ナツィー!?」

一体いつから気絶していたのか。もしかして、気絶したまま歩いていたとか言わないよね?

「ミーシャ、転んだら危ないから、ソファに座ってもらいましょう」

お母様が指示を出し、正気ではないコニーと、ナツィーをソファに座らせる。
クロエはといえば、「めが……っ、めがみ、めが……!」と、魚のように口をパクパクさせて母を見ており、顔が真っ赤から蒼白に変わったりと忙しい。

「クロエ、ソファに座って……」

狼狽えて、視線が定まらないクロエの手を引き、母の前に座らせると、おかしな汗を大量にかき始め、焦点が定まっていない。

『ベルが、ミーシャのともだち、ショック死させた……!!』

まだ死んでいない。

『じかんのもんだい!!』

お母様、ってしまったの!? という顔をするのは止めようか。

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