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番外編 〜 ミーシャ 〜
番外編 〜 ミーシャの日常 恋愛編3 〜
しおりを挟むエスコートをしてもらうために、ノアお兄様の執務室に訪れた私は、ノックした後許可を得てそっと扉を開けると中を覗いて、机にむかってペンを動かしているノアお兄様に声をかけた。
「ノアお兄様……、ちょっといい?」
「どうしたの? そんな所に立ってないで入っておいで?」
「うん……」
相当忙しいのか、ペンを止める事はないのに、優しい声で私を呼んでくれる。
部屋に入った私を、サイモンが紅茶とお菓子でもてなしてくれてひと息つくが、デビュタントの事を今話してもいいか迷いながら、兄をうかがい見ていた。
すると、視線を感じたのか、ノアお兄様が顔を上げて私を見る。
「少し待っていてね。きりがいい所まで片付けてしまうから」
「うん……」
忙しい所ごめんね。と心の中で謝りながら、出来るだけ音をたてないよう静かに待っていれば、暫くして私の向かいにお兄様がやってくる気配がして、視線を上げた。
「お待たせ。それで、私に何か用事があるのかな?」
お兄様は微笑むと、サイモンが淹れたお茶をひと口飲む。
「あのね……デビュタントのエスコートの事なんだけど……」
「ああ、アス殿下からエスコートさせてほしいって、公爵家に手紙がきていたよね。何か問題があった?」
「え?」
アスお兄様から、エスコートの手紙??
「お兄様、そんな手紙が来ていたなんて知らない……」
「え?」
「だから私、ノアお兄様にエスコートを頼もうと思って来たんだけど……」
ノアお兄様は頭を抱えると、「お父様……」と呆れたように呟いたのだ。
お父様が、アスお兄様の手紙の事を、私に隠していたの?
「ミーシャ宛にも手紙が来ていたはずだけど、それも……見ていないんだね」
「うん……」
「お母様は何も言っていなかった?」
「何も言ってない……」
「という事は、お母様にも隠しているみたいだ」
お父様が、アスお兄様の手紙のことを、お母様にも言ってないの? どうして??
「しょうがないな……。ミーシャはアス殿下のエスコートを受けたい?」
「アスお兄様の……」
アスお兄様のエスコートなら……アカも付いてきて、きっとダンスもみんなで一緒に踊ってくれるだろうし……楽しそう。
「ノアお兄様、アスお兄様なら、エスコートもきっと楽しい」
「楽しい?? そ、そう。ならミーシャは、イーニアス殿下のエスコートなら受けると言う事だね?」
お兄様の言葉に頷けば、お兄様は、「なら今晩お父様に話してみるよ」と頭を撫でてくれた。
◇◇◇
「テオ様、イーニアス殿下からミーシャにエスコートの申し出があったのですか?」
「!? なぜそれを……っ」
その日の夜、お母様がお父様にアスお兄様の手紙の事を追及していた。
お父様はお母様の言葉に、ウォルトを見て、ウォルトは首を横に振っている。
「テオ様」
「ベル……、違う。私は……っ」
あのお父様が追い詰められている。
一方お母様は、怒っているわけでもなく、「どうして隠していましたの?」とただ疑問に思っているだけの様子なのに、お父様はオロオロしだして、いつもの威厳が見る影もない。
「あーあ、お父様って本当、お母様には弱いよなぁ」
「妖精女王、最強」
「お父様にも困ったものだよね」
アベルお兄様はケラケラと笑い、フロちゃんは頷き、お母様に話したノアお兄様は呆れ顔だ。
「ミーシャはイーニアス殿下であれば、エスコートを受けると言っておりますわ」
「!?」
お父様が素早い動きでこちらへ振り向く。
ちょっと怖いと思っていたら、今度は足の長さを生かした速歩きでやって来て、「どういう事だ」と低い声で凄まれた。
「テオ様」
「……ベル、しかしミーシャはまだ子供だ」
「デビュタントは、その子供が大人になるお披露目会ですのよ。結婚も出来る年齢ですわ」
「け、結婚……っ」
お父様がふらついている。
お兄様たちは我関せずで、それぞれ好きに過ごしていた。
「それに、イーニアス殿下がエスコートしてくださるなら、これ以上の安心はありませんわ」
「エスコートならばノアがいるだろう?」
「確かに親や兄弟にエスコートをしてもらうご令嬢も多いですが、エスコートを申し込まれたのであれば、そちらを優先するのは当然ですわ」
「!?」
お父様がどんどん落ち込んでいく。
この夜、父は可哀想なくらい落ち込んでいたが、翌日には元に戻っていたので、お母様に甘やかしてもらったに違いない。
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