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一目惚れの出会い編
13 悪意に怒り爆発。
しおりを挟むそうして、残りの二つのアトラクションを乗り終えた。
マナさんの靴ずれを心配するフリして、数斗さんも新一さんも帰ることを促したので、入り口へ戻るために引き返す。
数斗さんと新一さんがカバーしてくれていても、トイレまではついていけない。
マナさんが行かないように引き止めるのは明らかにおかしいし、時間差で行くのも、露骨。
だいぶ楽になったから大丈夫、と気合いを込めて握った拳を二人に見せてから、マナさんの後ろをついて行って、手洗いを済ませた。
「あっ、ごめん。小さくて見えなかった! 小柄で可愛いね!」
ドン、と化粧室から出る際に、マナさんがぶつかってきたので驚く。
彼女も疲労が溜まってて、素がはみ出たのだろうか。
『ホント、チビブス! はぁ~、今日何回チビブスってツブヤキしたかなぁ。一番多い単語になったかもね』
携帯電話をタップしているマナさんは、SNSアプリであるツブヤキに私の悪口をひたすら書いていたらしい……。
やれやれ……。
まぁ、外面を完璧にする分、どっかに吐かなきゃ気が済まないんだろうな……。
と、ふと思う。
あれ? 外面がいいなら……普通は、ツブヤキには書かないよね?
……普通に考えて、裏アカとかで、罵倒とか呟いているのかな……。
それって、証拠になったりするかな。
いや、裏アカを見つけただけで、そう簡単に結びつかないよねぇ。
でも、気になってしまったので、マナさんを追いかけて、集中する。
彼女が目にしている画面のアカウントIDを記憶して、検索した。
サァー。
と血の気が引くみたいに、身体が冷える。
想像以上に私を罵っている言葉が並ぶツブヤキばかりだったけれど、一番は、真樹さんのことだ。
【チョロ男がウザく付きまとう。アンタなんて願い下げ】
一番相手をしてあげていた真樹さんのことだろう。
新一さんは積極に関わらないし、最後は存在無視状態。
数斗さんは、私に付きっきり。
必然的に真樹さんがマナさんの話し相手になる。それは無理もない。
でも、下心なしで、真樹さんは友だちとして、楽しい会話を振り続けてくれたじゃないか。
【愛想笑いしんどーい。足も痛いし、チビブスのせいで、最悪。このチョロ男と精神的にお似合いなんだから、くっつけばいいのにw】
本当に、悪口ばかり。
でも。これだ。
これは最低だ。
【決めた! このチョロ男をオトして、利用してやろ(笑)喧嘩して相談してもらえば、いいんだよ! ホント、この手を早く使いたかったぁ~! どうせ、チョロ男の使い道はそれぐらいでしょ(笑)あんなチビブスから寝取るなんて、簡単だもん♪】
ぎしり、と携帯電話を軋むくらい握り締めてしまった。
冷めたばかりの身体から、ぐわっと怒りが沸騰して、駆け寄って彼女の手首を掴んだ。
「沢田さんッ!」
「えっ!?」
「いい加減にしてくださいッ!!!」
こんなに声を上げたのは、いつぶりだろうか。
いや、今日はずっと、叫んでいたじゃないか。
でも、それとは違いすぎる。全くの別物。
強い感情任せに、怒鳴った行為。
『えっ、七羽ちゃんっ?』
『な、何?』
離れて立って待っていた数斗さんと真樹さんが、焦った声でこちらに来る。
『は? 何いきなり……なんなの?』
「どうしたのっ? 七羽ちゃん」
戸惑いながら、首を傾げて尋ねる沢田さんを見て、我に戻った。
あっ……なんて、言おう……?
こんな裏アカを見せる?
証拠だけど、でもっ、これ……。
真樹さんを、かなり傷付けない?
だって、散々貶されて、挙句には自分を踏み台にするために利用するとか、書かれちゃうなんて……。
新一さんだって、友だち想いなのに。二人を大事にしているのに。こんなこと書かれていたら、激怒するはずだ。
言い逃れされたら?
それに、そうだとしても……彼女を本当に放り出して帰るなんて……彼らは、気に病まない?
でも。でもっ。このままだとっ。
ぐわんぐわんと頭が揺れてきて、気持ち悪くなってきた。
今日溜まりに溜まったストレスを、吐き出しそう。
だめだっ。
私の方が、帰りの車に乗れそうにないっ……!
「ッ私! あなたのこと、大っ嫌いですッ!!!」
力任せに、声をぶつけた。
『はぁ!? マジでいきなりなんなのコイツ!!』
『ええッ!? 七羽ちゃん!?』
『七羽ちゃんッ!?』
混乱する三人に構うことなく、ヒステリックな女らしく、彼女を睨み付けた。
「ど、どうしてっ? わたし、何かしちゃったの?」
「とぼけないで! あなたが一番わかってるくせに!!」
『いやいや、意味わからないし! なんなのこの子! ざけんな!』
「どうしてもわからないよ! どうしちゃったの? 七羽ちゃんっ」
『癇癪を起こす女より、泣く女の味方をするに決まってるじゃん!』
うるっと涙目になって、怯えたフリを始める沢田さん。
悔しいけど、そうだ。
彼女の方が、何枚も上手に立ち回れる。
「七羽ちゃん。一体どうしたの?」
『一体コイツに何されたの?』
「一旦落ち着こ? なっ?」
『マジどうしちゃったの、七羽ちゃんっ。マナちゃんも泣いちゃってるし!』
最悪、真樹さんだけでも味方につけて、数斗さん達と対立させる図が浮かんでしまい、奥歯を食いしばる。
最悪だっ……!
もっと考えてから行動すべきだった。
『何に気付いたか知らないけど……ポッと出より、わたしの方が信用されるに決まってるでしょ?』
「手が、痛いよ! 七羽ちゃん!」
力を込めていないのに、沢田さんは大袈裟に痛がる。
お望み通り、私はその手をブンッと投げるように振り払った。
それを見て、沢田さんも真樹さんも、絶句した顔になる。
「ごめんなさい。数斗さん、真樹さん。この人とは仲良くなれません。目を合わせた時から、サイッテーでしたから」
「ひ、酷いっ」
「えっ、なんでっ……?」
怒りを込めて吐き捨てた。
きっと真樹さんは、ショックを受けただろう。
『何よ、ガキだと思ってたのに、女の勘? でもガキはガキね。不利になっちゃって、お気の毒~』
嘲笑う沢田さんの心の声に、また力一杯に声をぶつけたくなる。
「七羽ちゃん」
「空気を悪くしたくなくて我慢しましたが、もう無理ですっ。私は電車で帰るので、お構いなく」
「えっ、だめだよ、七羽ちゃん」
「最後の最後に、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
数斗さんが引き留めてくるけど、もう私が退散するしかないと思う。
深々と真樹さんと数斗さんに頭を下げて、謝罪をする。
『なんだ? 様子がおかしい?』
遅れてお手洗いから出てきた新一さんの声が近付いてきたので、振り返って「ごめんなさい、新一さん」と深く頭を下げた。
「え、どした?」
「我慢の限界です。一人で帰りますので、大丈夫です」
『はっ? お、おいっ!』
『七羽ちゃんっ!』
新一さんにも謝罪したし、もう足を早めて出口に向かう。
「よくわからないけど、そっとした方がいいよ!」
追いかけようとしたであろう数斗さんを、沢田さんは引き留めたのだろうか。
あとを追ってくる足音は、聞こえない。
数斗さんが追いかけてくれることを望んでいる。
でも、追いかけてきてほしくない。
もうあんな人と、同じ空気を吸っていたくなかった。
かと言って、彼女を置き去りに帰るなんてことも、選択させたくない。
こういうのは、悪い意味での八方美人だ。バカみたい。
やり切れないのに、なんで叫んじゃったんだ。
悔しくて、私は走り出した。
泣くのをグッと堪えて、走って走って。
ゆっくりとスピードを落として息を整える。
地図で確認して、帰るための駅を目指して歩いた。
私が出るべきだと思って飛び出したけど……大丈夫だろうか。
もう数斗さんも新一さんも、沢田さんを疑っているだろうけど、真樹さんは違う。
何も知らない真樹さんの前で、証拠もないのに、沢田さんを責め立てるだろうか。
あの外面の厚い腹黒は、上手く立ち回るんだろうな……。
ああっ!
数斗さんも新一さんも、また真樹さんに沢田さんを押し付けたら、どうしよう!?
あの沢田さんが、真樹さんを誘惑するチャンスをあげちゃったことになるんじゃない!
バカッ! 私のバカ!
もうなんでっ! 他人の心を読む能力があるのに! 空回りしてんの!?
最悪ッ!
真樹さんに忠告する?
いや、信じてもらえるわけないよね。
数斗さんに、真樹さんと沢田さんを二人にしないでって言っておく?
理由は……あとで、裏アカを見せれば……。
『いた! 七羽ちゃん!』
震える手で、携帯電話を操作していたら、声が聞こえた。
すっかり聞き慣れてしまった声。
ビクッとしたあとに、振り返って見れば、駆け寄る数斗さんの姿があって、視界が歪む。
「よかった、七羽ちゃん……見付かって」
ホッと息をつくのもつらそうなくらい、数斗さんは息を乱している。
「ど、して……」
「え? 七羽ちゃんを一人で帰すわけないじゃないか。一緒に帰ろ。話を聞くよ」
「で、でもっ……数斗さんの、車じゃ」
「ああ、うん。新一に貸した。平気だよ、明日取りに行くだけだから」
自分の車は他人に貸してしまって、自分は私を追いかけて、一緒に電車で帰ると、平気で笑いかける数斗さん。
優しい、優しい声。
その持ち主は、ただ私を気遣う眼差しで、優しく微笑む。
ボロッ、と涙が、とうとう落ちてしまった。
「ごめ、んなさいっ……わた、しっ……もうっ……どうし、たら……」
「うん……泣いていいよ。大丈夫、聞いてあげるから」
『苦しいんだ……可哀想に…………抱き締めてあげたいけど……だめだよな。泣かせてあげよう。ずっと我慢してた分。その隙をつくみたいに、抱き締められたくないよな』
ボロボロと涙を落とす私を、数斗さんは痛々しそうに見つめては、私の頭を優しい手付きで撫でる。
抱き締めたいという自分の衝動は堪えて、私をあやす。
ひくっ、としゃくりで肩を震わせた私は、一歩、数斗さんに歩み寄る。
そのまま、目の前にある数斗さんの胸に、自分の額を押し付けた。
数斗さんが、ホッと息をつくのがわかったかと思えば、軽く腕を回されて、少しだけ抱き寄せられる。
片手で、私の頭を撫で続けながら。
『よかった……俺を頼ってくれた…………』
心からの安堵の声を零す。
優しすぎる声。
私は、余計泣きじゃくってしまった。
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