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お試しの居場所編(後)
盛り上がって歌いまくる夜。 (後半)
しおりを挟む「この話、やめません? わたし、おねえちゃん、やってる。終わり」
「なんで棒読み。なんだよ、隠すなよ。安月給だってわかってんだから、具体的な給料を教えろよ」
「嫌ですよ……。また転職の話に繋げるんでしょ?」
「かもな。でも、頑張って働いた給料の額を隠さなくていいだろ。ペナルティー」
「なっ!?」
不倫男はいるし、安月給だし、ってことで、転職を勧める予感しかしない。
新一さんにまたもやペナルティーをつけられたけど、今回はメモをすることなく、動画アプリの画面を見せてきた。
「罰として、これ歌え」
「はずっ…………知らなかった場合は?」
「勘で歌えばいい。おい待て。今知らないフリしようとしたな? 罰で決めポーズも加えろ」
「ひえ!? 酷すぎません!?」
知ってる曲だけど、知らないフリで回避しようとしたけれども、恥ずかしさレベルを急激に上げてきた新一さん。意地悪が酷いレベルである。
「なんの曲? 知らないな」
「ん~? おれも知らないや」
「ちょっ! 新一さん以外知らないって! さらに恥ずかしいじゃないですか!」
数斗さんも真樹さんも、動画のタイトルを見ても、首を横に振った。
恥ずかしさを覚える決めポーズ付きで歌うなんて、初見の二人になんて思われることやら。
「恥ずかしい? どんな曲?」
「まぁ、見た方が早い。歌え」
『絶対ツボる』
興味津々になる数斗さん達に、面白がる新一さんは曲を入れる準備をする。
「鬼!! 理不尽ですよ! 月給くらい隠してもいいじゃないですか! 私は三人の月給知りませんが!?」
こんな罰ゲーム、納得いかない!
そう拒否を示すと、一瞬だけ動きを止めた三人は、顔を合わせた。
「おれは先月、30万にギリ届かなかった」
「おれは26万~」
「……俺は出世したので、40万くらい」
「「稼ぎ頭」」
「わぁ……って! 訊いたわけじゃなかったんですが!?」
二人とも、かなりの給料じゃないか。
数斗さんは流石、わりと大きなホテルの副支配人に出世しただけあって、差が激しすぎるわぁ……。しかも、40万くらいはかなり控えめな言い方。心の中で浮かべたが正確な数字……四捨五入したら、50万じゃないですか……。
大卒の正社員強し……と、稼ぎにびっくり感心したけれども、そうじゃない!
訊いてないのである! 互いに知らないから、この罰ゲームは無効って意味だったの!!
「おれ達の月給は知ってるのに、ナナハネは隠すんだな……明かすか、歌うか、二択だ」
「意地悪ですね!? もうっ!!」
してやったりなニヤリ顔な新一さん。
「新一……いじめすぎないでよ」
「そうだよぉ。ちなみに、決めポーズって何?」
微苦笑で止めてくれる数斗さんと真樹さん。
優しい恋人と優しいお兄ちゃん……救世主!
「投げキッス」
「「投げキッス!?」」
「”ちゅっ”て、何度も言うところがある。その都度、ポーズを決めるように」
ああぁッ……!
優しい二人が、すっかり見たくなってしまっている……!! 目が爛々と輝きすぎです……!
可愛い女の子が、全力で自分の可愛いアピールする曲。
かわい子ぶる歌詞と歌い方なんだよね……。
「歌ったことはないのに……」
「お前なら出来る。で? 明かすか、歌うか」
「ううっ……歌います」
高給な額を聞いたあとに、自分の安月給を明かす方が惨めな罰ゲームである。
恥ずかしい方を選んで、仕方なくマイクを手にした。
ぷるぷると羞恥心に耐えながら、歌い切る。
”ちゅっ”の歌詞の部分で、いちいち投げキッスなポーズを赤面しながらやり、可愛いアピールの歌詞を歌い上げた。
可愛いと思ってくれるけれど。
可愛いが面白すぎると、ツボる新一さんが、苦しそうに笑いを堪えている。
新一さんほどではないけれど、可愛い可愛い言いながら、笑いを堪えて肩を震わせている真樹さん。
ひたすら、可愛いと内心悶絶しては、感激している数斗さん。
何故、感激……おかしいですよ。
「めちゃくちゃ可愛かったぞ……ククッ」
「可愛すぎる、うん。歌詞の通り、七羽ちゃんは可愛いよ」
「可愛い……今のは、七羽ちゃんのための曲だったの???」
『投げキッスは、どうして俺に向けてくれなかったの?』
「やめてください……羞恥心でメンタルゴリゴリ削れましたよ……」
ぐったりとソファーの肘掛けに頬を押し当てて、ダウン。
追い打ち、やめて……。
『あ~、面白かった。……まぁ、スーパーのパートの平均時給と、数斗が把握してるシフトで、月給は大体わかるんだけどな』
新一さんの心の声で、ギョッとしてしまった。
両手で隠して、のたうち回ることを堪える。
結局、安月給って、バレるだと!?
理不尽な罰ゲームを受けさせられたぁああッ!!!
おのれ! 意地悪なお兄ちゃんめッ!! いつか仕返ししてやるんだから!!!
やけ酒で、スローペースで飲んでいたカシスソーダをぐびっと飲み干した。
そのせいか、酔いが回って、うとうと。
とっくに真夜中だ。それのせいもあるだろう。
「寝るなよー、ナナハネ。危機感。危機感だ。無防備に寝るなって、昨日言ったぞ?」
「真樹もうたた寝してるから、いいじゃないか。少し仮眠とっていいよ、七羽ちゃん。すぐに起こしてあげるから」
新一さんと数斗さんの声に、自分がどんな返事をしたか、よく覚えていない。返事すら、したかどうかも怪しい。
数斗さんに頭を引き寄せられて、肩に凭れて、意識を手放した。
――――呼ぶ声に、意識が戻される。
あれ? ソファーに横たわってる……私。
頭の下には、クッション。
『七羽ちゃんっ、七羽ちゃん、っ』
「……数斗さん?」
心の声で、数斗さんが私の名前を連呼する。
起き上がっても、姿は見当たらない。
一人がけソファーに頬杖をついて、寝息を立てて寝ている真樹さんが、テーブルの向こう側にいる。
それから、斜め右のソファーに座って、タブレットを操作している新一さんしかいない。
なんか、数斗さんの声、様子が……苦しそう?
「数斗なら、バスルーム。ちょっとシャワー浴びてる」
「シャワー?」
新一さんはタブレットに視線を落としたまま、そう教えてくれた。
でも、首を捻る。
時々、数斗さんが苦しげに、私の名前を呼ぶ心の声がするのだけれど……大丈夫?
「……男の事情」
チラリと、私を一瞥すると告げた。
私は一気に眠気が吹っ飛び、ボンと真っ赤になる。その顔を両手で押さえて、呻いた。
『無知な鈍感じゃないもんな。流石に、わかるか』
「わ、私……なんか、しくじりましたっ?」
「ああ。お前が寝苦しそうだから、数斗が膝枕してやったら、数斗の太ももを抱き締めたんだ」
「ふとももをだきしめた」
「お前の手も頭も、際どいとこまで来たから、数斗が助けを求めた。そして、シャワー中だ」
『明日のためにも、溜めずにヌいた方がいいだろ』
「ひえ…………申し訳ない」
「数斗の強い自制心に感謝しとけよ。プラトニックって決めてても、好きな奴に誘われれば、理性もぶっ飛ぶんだから」
「うぐぅ……はい……肝に銘じます」
なんたる失態。
数斗さんの理性を追い込んでしまった……。
『七羽ちゃんッ! あぁ~ッ……。……ふぅ、はぁ…………ごめん、もう一回ッ』
ンンンッ!!
一番聞いちゃダメなヤツ!!!
オカズにされてるとか!
家でも隣の部屋の、思春期の弟からも聞こえちゃうけども!
オカズが自分とかッ! 居た堪れない! 無理! 脱兎の如く、心の声が聞こえない場所まで逃げたいわ!!
「そんな意識しすぎんなよ、変態」
「うう~意地悪にも程がありますぅ~」
「自業自得だろ。これに懲りたら、無防備に寝るなって」
「はいぃ……とりあえず、意識しないように、話をしてくださいよぉ」
ニタリと笑ってからかう新一さんに呻きを聞かせては、また私の名前を連呼する数斗さんの熱っぽい心の声から、意識を外すための会話を求めた。
『会話、か……。仕事関連、今がチャンスか』
……やけに、仕事を気にするなぁ。
なんて、妙だと思いつつも、新一さんと二人で会話をすることになった。
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