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お試しの居場所編(後)
41 盛り上がって歌いまくる夜。(前半)
しおりを挟む数斗さんのリクエスト曲を歌い直し。
甘めのラブソングなので、気恥ずかしい。
恋人からラブソングを歌うようにリクエストだなんて……。
でも、しっかりと覚えたての曲を歌い切った。
「素敵だよ。ありがとう、歌ってくれて。欲を言えば、録音させてもらいたかったな」
「録音はNGです」
「残念……」
『素敵な歌声なのに……可愛いのに。仕事中も聴きたい』
数斗さんのお礼を受け止めて、録音はきっぱりと断る。
ショボンとしても、許しませんよ。
てか仕事中はダメでしょ!? 接客業!!
新一さんと真樹さんが、続けざまに最近の人気アニメソングを歌ったので、私は古いアニメソングを歌うことを思いつく。
「このアニメソング、知ってます?」
「ブッ! ふっる! ナナハネも観てたのか。いいな、聴きたい。歌って」
「なんのアニメだっけ? あっ! あの少年漫画のか! 懐かしい~! てか、これ、おれら、まだ小学の低学年だったんじゃね?」
新一さんも真樹さんも、食いついてくれたので、歌おうか。
盛り上がる昔のアニメソング、いいよね。
「どうせあれだろ。ナナハネは、あのキャラが一番好きなんだろ? あのイケメン枠の」
「なっ!? 何故それをっ!」
「プハッ! いや、わかりやすいって! 女性ファンは大半が好きだろ、あのイケメンキャラ。女ウケよすぎだよな」
『大袈裟リアクションで遊ぶな、ウケる』
「あの気障なセリフを言っちゃうイケメンキャラっていいよなぁ~。戦い方もカッコよすぎて、サマになりすぎ。漫画の中でもイケメンって認識されててきゃーきゃー騒がれてるシーンあったよね」
『羨ましいよなぁ~』
「私、彼のあのセリフが好きです! コホン」
最早、名ゼリフとされている、そのキャラのセリフをカッコつけて言ってみた。
「似てねぇ!」と、新一さんにゲラゲラと笑われる。
流石に、男性キャラの声真似出来ませんよ??? このキャラの声優さんは、女性ですけども! 私の声とタイプ違います!
「懐かしー! 気障だよね~」と、真樹さんもけらりと軽く笑う。
数斗さんだけは『……ちゃんとそのアニメ、観ておけばよかったな』と蚊帳の外になってしまい、内心でしょんぼりしていた。
「数斗さんは? ちゃんと観ていた昔のアニメ、あります?」と、会話に入れるように振っておく。
「ん? んー……あ。あのアニメ。オープニングの曲、すごくよかったの覚えているよ」
『パワフルな感じだけど、七羽ちゃんが知ってるなら歌ってほしいなぁ、聴きたい』
「それって、漫画の方が打ち切りになったとかで、オリジナルシナリオで終わらせたアニメじゃん」
「違いますよ。原作を追い抜いて、アニメオリジナルとして進み、そして完結したんです」
「めっちゃ詳しいな、おい」
「あとから知りました。声優さんが歌う、あのアニメの曲、全部いいですよね! あの声優さんの声にハマりすぎて……全部歌えちゃいます。挿入歌も」
グッと親指を立てて見せる。
「では、七羽ちゃんにリクエストします」
「全曲かよ。聴く」
「全部いいの、わかる。聴く聴く、歌って」
よきアニメには、よきアニメソング。
満場一致のリクエスト入りました~。
「ナナハネのこのアニメで好きなキャラ……イケメンの悪役だろ」
「グッ! 何故! わかった!?」
「やっぱりか!」
『芝居かかった大袈裟リアクションやめろ! ツボる!』
新一さんにまたもや好きなキャラを言い当てられて、胸を押さえてわざとらしく動揺した反応したら、お腹を押さえて笑われる。
「お前の面食いぶりはわかりやすいなぁ」
「イケメンだけじゃないですよ? ちょっと暗い過去とか、不憫さとか、決めゼリフのかっこよさとか、最後の憐れなシーン泣けましたよ? イケメン悪役に救済をください」
「ゾッコンか」
「わかるよ。あれは不憫だし、最後のシーンはあの悪役に同情したし、しんみりしちゃった」
『七羽ちゃんと同じだけど…………でも、そんなにゾッコンなの? あんなに魅了するなんて……ずるい』
数斗さん。二次元キャラに嫉妬しないでください。
そういうわけで、アニメソング歌いまくるターンに入った。
私からも、男性が歌いやすいアニメソングをリクエストすれば、快く歌ってくれたので、拍手喝采。
数斗さんは優しいバラードがピッタリすぎて、うっとり気味で聴いちゃう。
ノリノリだと楽しいし、懐かしさも楽しいし、面白さも楽しい。楽しい尽くし。
歌い終わったあと、お手洗いのついでに化粧直ししておこうと、バックからポーチを取り出して行く。
戻ってくると、何故か新一さんが手を伸ばしてきた。
「それ、ブランドのか?」
『なんか見たことある』
「ポーチですか? はい、そうですよ。有名ブランドの」
ポーチの外側だけを見ると思うだろうから、素直に新一さんに手渡す。
「あれ? アプリゲームのタイトルじゃん。ああ、コラボ商品?」
「ビンゴでーす。新一さん、当てまくりますよねぇ」
「いや、普通にここまでヒントあればわかるだろ。好きなのか? こういうグッズ」
「はい。実は、傘もなんですよ」
そう答えながら、私はバックから折り畳み傘を取り出して見せる。
「傘? なんで折り畳み傘を持ってるのに、雨の中、ずぶ濡れで帰ったんだよ?」
『今日も明日も雨予報もないし、バックに入れてたなら持ち歩く習慣があったんじゃ?』
「それが長い話に……。タブレットを余裕で入れられるこのバックに切り替えた際に入れっぱなしになってしまい、いつもの小さいバックで仕事に行った日に、大雨に降られちゃったんです」
「……いや、短いじゃねーか!」
『コイツのわざとのボケもウケるよな。一緒にいて楽しい奴なのは、間違いない』
長い話に……なる、とは言っていない。
新一さんの勢いのいいツッコミを入れられて、私はへらりと笑う。
「人気アプリゲームだもんなぁ……。ふぅん」
『なるほどな。普通のアニメグッズだと安っぽいけど、こういう有名ブランドでキャラのモチーフにしたグッズなら、お洒落感もあっていいじゃん』
「いつも買ってんの?」
「あ、ツブヤキ情報で知って、欲しくなったら買います。でもこういうの、限定商品だったりするので、焦っちゃいます。しかも、好きなゲームのグッズってだけじゃなくて、お洒落で素敵すぎません!? どの種類も、買い揃えたい欲がっ……! なんて、オタク気質ですよね。まぁ、有名ブランドなので、無理ですけど」
新一さんが何に納得したかはわからないけれど、ちょっと語ってしまった。
オタク感なく、お洒落な有名ブランドらしいデザインに仕上げて、洗練された品にして売ってくれるコラボ商品。
好きな物とともに、お洒落も出来ちゃう。最高。……ただし、値段もそれなり。
『買い揃えたい、か。そうは言っても、全部は全部じゃないだろうから……』
「どの種類が好きで欲しくなるんだ?」
携帯電話で検索している新一さんが、尋ねてくる。
ん? と首を捻った。
とりあえず、好きなキャラのデザインを答えておく。
「他にも、人気ゲームとかのコラボ商品ってなかったか?」
「あ、別のアプリゲームのものが。じゃーん! 財布も! ふふ、グッズ持ちすぎて、オタク丸出しですよねぇ」
「かなりお洒落でいいじゃん。昔なら、オタクグッズでお洒落なんて出来なかったろ」
「いい時代になりました」
「それな」
別のゲームの別のブランドの財布も見せると、新一さんは何故かポチポチとメモする。
何故にメモー? と首を捻る。
「七羽ちゃん。結構出費が大変じゃない? お洒落のためにも、好きなブランド物買うだろうし、化粧品も新しい服も。その上、お母さんと家計を支えてるんでしょ?」
数斗さんが折り畳み傘を手にしながら、尋ねてきた。
『お。ついでにナナハネの仕事について知るか』と、新一さんはメモを終えて、耳を傾けてくる。
んんー? メモと仕事。なんの関係が……?
「え、ええっと、はい。月収は安すぎて言いたくないですけど……まぁ、こういうブランド物が欲しい時は、生活費とか、弟達のお小遣いを減らしちゃいます」
「え? 待って? 七羽ちゃん……お小遣いあげてるの?」
歌っていた真樹さんが、マイク越しで聞いてきた。
真樹さんだけではなく、数斗さんと新一さんも、大小違いはあれど驚いた反応。
それが何か? と首を傾げてしまう。
「はい」
「……毎月?」
「ええ、はい」
「う、そ……? 二人も、お小遣いを……? 毎月? い、いくら……?」
「……いつもは五千円だけ」
「毎月五千円!? 合わせて一万円! ちょっと待って!? おれ、にーちゃんにお年玉を五千円しかもらってなかった!! 二回だけ!!」
「うるさい、真樹。マイクで騒ぐな」
真樹さんにちゃんと答えると、やっぱりマイクで声を響かせて驚く反応をする。
ついに、新一さんがじとりと見ては、苦情を言って止めた。
「お年玉は!? 弟達にお年玉はいくら!?」
「え、えっと……今年は、二千円だけプラス」
「お姉ちゃんんんッ!!」
「二人のお姉ちゃんですけども……」
マイクを置いて目の前まで詰め寄った真樹さんに、戸惑いがちに指を二つ立てて見せて答えると、嘆くような声を上げられる。
「いやいや! シングルマザー家庭で、お母さんと二人で働いてやりくりって! 大変! それで安月給って言うんでしょ!? 毎月お小遣いって! 年間にすると……えっと!」
「12万円。暗算しなくても、わかるだろ」
「兄妹のお小遣い費! 年12万円!!」
そうかぁ……私は、弟達に年に12万円以上お小遣いあげているのかぁ……。
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