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お試しの居場所編(後)
お揃いの記念品とともにキュン。(後半)
しおりを挟む『提案してみようかしら』
「あの、お客様」
ずっと見守っていた女性店員さんが、近付いてきて、話しかけてきた。
「よかったら、セミオーダーが可能なバングルはいかがでしょうか?」
「「セミオーダー?」」
にこやかな笑顔で勧めた店員さんに、私も数斗さんも聞き返した。
「こちらです」と案内されて、レジカウンターの端側にあったウィンドウケースを掌で差す。
「ゴールドとシルバー……刻印が可能なんですか。今日の日付を刻んでもらえるね?」
二つのバングルが飾られていた隣のポッププレートには、綺麗な文字で刻印が可能と表記されていた。
記念日の日付や名前やメッセージなど。
「これはいいじゃないですか。シンプルですし、初デート記念日も刻印が出来れば、二人だけのものですね」
『キュン。二人だけのもの……』
「そうだね。ダイアモンドで、無難だけれど、そうしようか。刻印で特別だもんね。あ、刻印はどのくらい時間がかかりますか?」
「刻印する文字次第となりますが、一番長い文字でも、三日ほどで仕上げることが可能です」
店員さんから聞き出した数斗さんは、顎に手を添えて考えた。刻印する内容を。
日付とファーストデートとイニシャル。それで可能かどうか、数斗さんが尋ねようとした時。
「またピンクゴールドのバングルの在庫がありまして。真ん中の石も、選べることができます」
「!」
目を見開いた数斗さんは、それを輝かせて、私を向く。
店員さんは、レジカウンターに入ると、見本のためのケースを取り出して見せてくれた。
ピンクゴールドのバングルと、はめることが可能な石。ポピュラーなカットが施された誕生石が、ズラリ。
「七羽ちゃん……どっちの誕生石を選ぼうか?」
物凄く真剣に数斗さんは、見本の石を見つめた。
私の誕生石のペリドットを選ぶか。それとも、真実の愛も守ってくれる自分の誕生石のアメジストにするか。究極の二択と言わんばかりに考え込んだ。
バングルにはめられるのは、一つの石のみ。それくらい、シンプルなデザインだ。
「いっそのこと、私が数斗さんのアメジストの方を身につけて、数斗さんは私のペリドットの方をつけるのはどうでしょうか?」
「わっ……それ名案」
互いに相手の誕生石を、身につけることに決まり。
はしゃいでいるとも言える数斗さんの綺麗な目の輝きを見て、今日はずっとこんな感じに目を輝かせる私を見ていたのかなぁ、なんて思ったりした。
「でも、数斗さん。何もピンクゴールドにしなくてもいいじゃないですか? ゴールドでも、シルバーでもいいかと」
「そう? んー」
『七羽ちゃんの色って認識しちゃって難しいな……』
よほど私の色だと認識が定着してしまったようで、数斗さんは首を捻って悩む。
そこまで私はピンクゴールドなのか。内心で苦笑してしまう。
「そこまで悩むなら……ピンクゴールドにしましょうか」
「! ……うん」
仕方ないと笑いかけると、数斗さんは柔らかく微笑んで、私の手を握り締めた。
そういうことで、手続きを開始。
数斗さんが考えた刻印の文字は、ギリギリアウトで文字数を超えてしまった。上限は20文字だ。
本日の年と日付。初デートということでFirstdate。その後ろに、私達のイニシャルで、K&N。これで22文字。
「イニシャルは諦めては?」
「それは……」
『俺は七羽ちゃんの名前を刻みたいくらいなのに?』
そんな……捨てられた子犬みたいな顔をしないでほしい。
「えっと……では、年数は、十の位だけに省略しましょう? あと、私としては、&ではなくて、ハートがいいですが、どうでしょうか?」
「あ、可能って書いてあるね。そうしようか。ありがとう、七羽ちゃん。いいね」
『カップルらしいね。ハートだと』
「あとは、文字のフォントだけど……どれがいい? 三種類だけど……」
文字のフォントも、店員さんが見本を見せてくれた。
「俺としては洒落た方がいいな」と、数斗さんは普通に見やすい明朝体より、他の二択を希望する。
「筆記体と、イングリッシュ体……」と、私はその二択を首を傾げて見比べた。
「こっちの頭文字だけを大文字にした筆記体の方が、私は好きだと思います」
「あー、なるほど。いいね。じゃあ、これにしようか」
数斗さんはルンルンした様子で、記入。
「七羽ちゃん。俺が書いておくから、他のもの見てていいよ。ほら、俺のアクセサリー」
そうだった。数斗さんにも、毎日つけるようなアクセサリーを選ぶ約束をしていたんだ。
わかった、と頷いて、手続きを頼み、私はウィンドウケースを覗き込みながら店内を歩いた。
『セミオーダーか。そうか……オーダーメイドっていう手もあるんだ』
数斗さんがそう思い付いたみたいな心の声を零すから、つい、そっちを向く。
「あの、オーダーメイドって受け付けてますか?」
「大変申し訳ございません。本店は、セミオーダーのみを受け付けておりますので」
「そうでしたか……。記入、終わりました」
そんなやり取りを店員さんとして、数斗さんは笑顔で取り繕って、住所なども書き終えたものを差し出し返す。
『オーダーメイドの店を検索して探すか……。俺と七羽ちゃんの誕生石を合わせてもらったのを……』
また私にプレゼントする物を考えているようだ。彼の頭の中の買い物リストが減らない……。
携帯電話を取り出した数斗さんは、すぐにオーダーメイドとジュエリーのキーワードで検索した。検索画面を表示して、あとで詳しく調べるのか、そのまま画面をオフにしてズボンのポケットにしまう。
そして、私の元に来た。
「何かいいの、見付けた?」
「まだですよ」
まだ一分程しか経っていないのに、と笑ってしまう。
壁際に設置されたウィンドウケースは、ネックレスのみが陳列されていた。
『あれ……これ、蛇? すごいな、挑戦的なデザインも置いているんだな』
数斗さんが目に留めていたのは、ゴールドのチェーンにかぶりついているみたいに3のような形でくねったゴールドの蛇だ。
『かっこいいな……』と、珍しく数斗さんが気に入っている。
意外だ。こういう物が好みだったの?
「金色の蛇ですね」
「え? あ、うん」
『見てることに気付かれちゃった』
私が声をかけると、数斗さんは焦って目を別の方へ逸らした。
何故……? と小首を傾げる。
「数斗さん。こういうの気になるんですか?」
「あー、いや……。こういうジュエリーショップにあまり見かけない斬新なデザインだと思っただけだよ」
「好みとかじゃないんですか?」
「んー、どうかな……」
『中二病っぽいとか思われたくないな……』
苦笑で誤魔化そうとする数斗さんは、イメージに反して、中二病っぽさを気にしているらしい。
いや、これは別に……痛い感じではないデザインなのに。
「金色の蛇って、幸運の象徴ですよね。小さなダイアが背中に並んでいるので、白い蛇にも見えちゃいます。白い蛇も確か、幸運というか、吉兆の象徴だったような……。かっこいいです」
「……そう? 七羽ちゃん、こういうデザインとか、アリなんだ?」
「逆に数斗さんはダメなんですか?」
「……正直に言えば……好み、かな」
誘導してみれば、やっと告白してくれた。
「あ。数斗さんの苗字は、竜ヶ崎じゃないですか。ドラゴンとか、好きですか?」
「んんっ。まぁ、嫌いじゃない、よ。うん」
恥ずかしそうに少し頬を赤らめて、咳払いをしつつ、数斗さんは頷く。
なるほどー、と相槌を打つ。自分の名前繋がりで、興味が引かれていたのだろう。
……今度、数斗さんにドラゴンのイラスト、描こうかな。ちょっとしたプレゼントとして、サプライズで。
その前に、新一さんの依頼を遂行しなければ。
「どうですか? 数斗さんに幸運を」
「……うん。これがいいな」
微笑んで告げれば、数斗さんは微笑み返した。
『七羽ちゃんからの幸運を受け取りたい』と、心で願う。
「すみません。これ、別会計でっ、わっ」
今の手持ちなら、なんとか買えそうだと、店員さんに呼びかけたけれど、レジカウンターに行こうとする前に、首に右腕を巻かれて確保された。
「会計は一緒で」と、数斗さんはよしとしない。
「七羽ちゃん。今日のデート代は俺持ち」
「数斗さん、せめて、これだけは。これだけは、私に買わせてくださいっ」
「だーめ」
「なんでですかっ? 数斗さんへのプレゼントだけでも、私の支払いでっ」
「だーめ。今日の決まりでしょ?」
ぐぁああっ。数斗さんは、放してくれなかった。
「これは例外で!」
「だーめ」
三回も却下してきた!
数斗さんの右腕を外そうとしたけれど、外せない。むぎゃっ。
「……そこまで言うなら、七羽ちゃんにお願いを一つ聞いてもらおうかな」
「それで……譲歩? なんでしょう?」
今振り返ると、数斗さんと顔で近すぎるので、前を向いたまま、私はそのお願いを尋ねることにした。
「キスの許可をちょうだい?」
カチン、と固まってしまう。
上の方から、耳の近くに、甘く囁かれた声。
キスの、許可。目をパチクリさせては、頬を火照らせた。
いや、それは……そ、それは……だって、まだ、お試し期間中の恋人関係なのにっ。
「そのほっぺに」
『唇だって、期待した?』
ふふっと、小さく笑う数斗さん。
いや、身構えちゃっただけで……期待したわけじゃないですっ! 紛らわしいんですよ!
「……あの、数斗さん? もうしてませんか?」
「ん? してないよ? 髪と手にしか」
「……」
それは……大差ないのでは? 首を傾げたかったけれど、腕が巻かれているので、動けない。
「えっと……それでいいなら?」と、疑問形になってしまった。
「ありがとう。これで、フェアだね」
ちゅっと、私の右頬に唇を押し付ける。
…………いや、数斗さん。全然、フェアではないですよ……?
天と地の差があるのでは……?
『これで頬へのキスが、いつでも出来る』と、かなり嬉しげに舞い上がっている数斗さん。
そのまま、会計をする数斗さん。値段が……。遠い目。
「つけて?」と数斗さんは、ネックレスをさっそく身につけるために、やや屈んで私に顔を寄せた。
楽しげな笑みの数斗さんの顔が目の前に。
普通は後ろから首につけるのに、数斗さんは前からつけさせる。顔が近距離になる形で。
そりゃあ、身長差を考えれば、数斗さんが背を向けてしゃがむのはキツそうだから、こうなるのは同然なわけで……うぐぐっ。なんか、フェアな気がしてきたっ。
顔を火照らせつつ、ゴールドのネックレスを首に回して、つけようとしたけれども、緊張ですぐにはつけられなかった。
数斗さんは私の緊張で強張って苦戦する姿を、この近距離で楽しんで眺めている。
「出来ましたっ」
「ありがとう」
成功! とやっと近距離に解放されるかと思いきや、数斗さんは微笑んで、顔を寄せて唇を重ねた。
私の唇に限りなく近い場所で。
ボンッと、熱が爆発的に上がった気がする。
目を細めてほくそえむ数斗さんは蠱惑的で、ギュンッと胸が締め付けられて、そこを押さえた。
キュンと超えて、ギュンッ。
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