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お試しの居場所編(後)
54 お揃いの記念品とともにキュン。(前半)
しおりを挟む一階のジュエリーショップに、到着。
長い道のりだった……。
残念ながら、都合よくは、ペアブレスレットは置かれていなかった。
ペアリングとかは、あるんだけど、それも少なめ。
「諦めましょうか」
「いや、ちょっと見ておこうよ」
『七羽ちゃんが気に入った物を、俺も発注してもらえばいい』
数斗さんは、全く同じ物をつけたいらしい。
「数斗さん。何もここで買おうとしなくてもいいのでは?」
「ここじゃないとダメだよ」
なんてキッパリと言葉を返された。
「今日の初デートをした場所で買って、ここでどんな風に過ごしたのかって、買ったブレスレットを見て思い出せるでしょ?」
数斗さんは私に微笑むを向けると、そっと顔を寄せて。
「たくさん好きって言い合ったことも、思い出せて浸れる。そんな初デート記念のペアブレスレット」
そう甘めに囁いた。
耳のそばで囁かれて私は、若干身を引く。頬の火照りを感じながら。
「わ、わかりました……」と、応じるしかなかった。
ウィンドウケースにあるジュエリーを覗く。
「どれが好み?」
『七羽ちゃんはどれが気に入るかな』
数斗さんの手首を気にながら、ウィンドウケースの中を覗いていたら、数斗さんはまた私の好みを尋ねた。
「数斗さんは、私の意見ばっかり聞くんですね。私だって、数斗さんの好みを知りたいんです。一緒に好みのものを見付けましょう?」
ちょっとむくれ気味に言ってから、小首を傾げて見上げる。
『ンンッ! そんな顔で上目遣いっ、可愛い』
「うん……俺の好みも知ろうとしてくれてありがとう。じゃあ、一緒に探そうか」
『俺のことも知りたがってくれて、嬉しいな』
数斗さんは、嬉しそうに微笑んで承諾。
「でも、まぁ……シンプルなら、いいって思うんだよね」
「私のアクセサリーを選んだ時は?」
「それはもちろん、七羽ちゃんに似合いそうな、可愛い物を考えて選んだ」
「んー、じゃあ、私も数斗さんに似合いそうな……綺麗な物を考えて選びます」
『健気、可愛すぎる』
コックン、と深く頷く数斗さんには、私が健気に見えたらしい。
「七羽ちゃんのそういう俺の気持ちに応えようとして、思いやって考えてくれるところ、堪らなくて嬉しくて、好きなんだ」
数斗さんの右手が、私の頭をひと撫でしてきた。
「十分、想ってくれているって感じるし、伝わっているんだよ」
『決して、俺への想いが、弱いだとか、そうは思わない。ただ俺の方が強いだろうね』
内心でちょっと得意げに笑っている数斗さんは、優しい眼差しで見つめてくる。
「七羽ちゃんが満足するほど納得出来ないって言うなら、まだまだ強い想いを伝えられるって自分で思っているからじゃないかな? もっと強くしたいって言うなら、もっと時間が必要だろうね」
想いを伝える。もっと私は、数斗さんに強い想いを伝えられるのではないか。
今までは納得出来なかったから、気に病んでしまっていたのもしれない。
『延命を。間違った、延長だ。延長してほしい。お試し期間の延長を』
「今日の進捗はどう?」
『延長。答えを出してくれてもいい。正式な恋人に』
にこりと冗談みたいに軽く笑いかける数斗さんの心の声は、延長を繰り返して言う。
また二週間じゃないですか……まだ三週間ほど残っています。
あと、答えは一択ではありません……。
「……多分、勢い任せには言っていないので、心は込めていると……思います」
「そっか。そう思えたなら、前進したってことだね。ちなみに、俺は全部、想いがこもってるって伝わったよ」
数斗さんは、ポンポンと掌を頭の上で弾ませた。
『行きの車の中だけでもキャパオーバーだと思ったけれど、やっぱり七羽ちゃんの想いは全部受け取れる』
幸せそうに口元を緩ませる数斗さんは、ウィンドウケースに目を戻す。
サラッと、数斗さんの耳にかかっていた明るいグレージュの髪が、落ちる。
じっと、よく見えるようになった耳たぶを見つめた。ピアス穴はあるけれど、そこにピアスがついているところはみたことがない。
『ん? 何を見てるんだろう?』
視線に気付いた数斗さんは、小首を傾げたけれど、私は何も言わずに、ウィンドウケースに視線を落とす。
「……これ、レディース向けですよね。ほぼ全部」
「んー、まぁでも……こういう細いチェーンで、控えめな存在感の物でも、俺は全然身につけられるよ? 七羽ちゃんとお揃いなら、なおつけたい」
特に数斗さんは、完全にレディース向けのデザインだとしても、抵抗がないそうだ。
あまりアクセサリーを好んでつけていなかったから、本当にこだわりがないんだろうな……。
「確かに、存在感が控えめな細い物がいいですよね……かつ、綺麗な物」
「かつ、可愛い物。でも、七羽ちゃん。俺はかっこいいより、綺麗なんだね? まぁ、こういうアクセサリーなら、綺麗系がいいだろうけれど」
私には可愛い物を、数斗さんには綺麗な物を。
お揃いのアクセサリーだってこともあるけれども……。
「私は数斗さんのことをもちろん、かっこいいとは思いますけど……数斗さんの第一印象って、美人、でした」
「美人? 美形とかじゃなく?」
「はい。物腰柔らかそうな美しい人ってことで、美人、って表現したくなる人だと思いました」
ちょっと不満げな顔を一瞬見せたけれど、数斗さんは「そうなんだ」と納得したように頷いた。
「俺は、可愛すぎる子だなって思った」と、私に一目惚れした瞬間を、数斗さんは思い浮かべる。
あの時は、聞き間違いだと思ってしまうほど、信じられなかった。
「後付けだけれど、心が綺麗だから、その瞳と目が合って、一目惚れしたのかなって思う」
煌めくジュエリーのウィンドウケースから、私に細めた目で見つめてくれる。
「前に言ったか。ぶっちゃけると、七羽ちゃんは初対面の時に口説いた俺は、怖かった?」
「え?」
「ほら、引き気味だったでしょ?」
「あー……戸惑っちゃって。数斗さんほどの男性がなんで私なんかに、って。最早、混乱でした」
「そこまで? 七羽ちゃんは可愛いのに。自信持って。そんな七羽ちゃんは、ピンクゴールドが似合うよね。これ、どうかな?」
数斗さんは一つのブレスレットを人差し指で示す。ケース越しなので、ちょっとどれかすぐにはわからなかったけれど、数斗さんの考えを読んで、見付けた。ピンクゴールドで小さな粒が均等にチェーンの間にあるデザインのものだ。
んー。これは、やっぱり、女性ものだから、数斗さんにはどうかな。
「あれ? 気に入らない?」
「数斗さんがつけるとなると……やっぱり女性寄りですよね?」
「でも、それはしょうがないんじゃないかな? 俺はつけるけど?」
「ほら、また。私にばかり合わせているじゃないですか。二人の初デート記念ですよ?」
『……キュン』
二人の初デート記念品を選ぶ。それをしっかり考えていることに数斗さんはときめいているみたいだけれど、それが目的のはず。やっぱり、私に合わせる気じゃないか。
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