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お試しの居場所編(後)
新鮮な楽しいことを楽しむ。 (後半)
しおりを挟む「楽しそうですけど、急遽見学って可能なんですか?」
「うん、だから、不動産の都合次第。今、即入居可の見学を申し込んだ」
「早い」
「早く引っ越したいからね。新一の家に、長居するのも悪いし」
「別にいいぞ? 朝までゲームしようぜ?」
「何それずるい。おれも混ざる」
冗談をかわす三人を見て、私もクスクスと笑う。
「ん! ゲームといえば、ナナハネ。映画当てゲームしないか?」
「はい?」
スプーンを口の中から出して、食べ物を飲み込むと、閃いた新一さんが提案してきた。
『映画当てゲーム?』と、真樹さんと一緒に首を傾げる。
「さっき、二人が来るまで、あのホラー映画を観てたんだけど、一時停止した画面を見ただけで、当てやがったんだよ。ただの壁のシーンを見て」
「壁のシーンを見て、その映画を当てるって何???」
真樹さんが、目を点にした。
新一さんが私の無駄な特技を説明している間、私は乾いた笑いを内心で零す。
心が読めてしまう私には、ヌルゲーである。問題を出す人が答えを知っていれば、聞こえちゃうもの。
「いいじゃん。アイス食べながら、やろう?」と、真樹さんは乗り気。
「七羽ちゃんの観たことある映画に限定するなら、俺のアカウントでログインしていい? 七羽ちゃんが、前にオススメの映画をマイリストに登録してくれたから」と、数斗さんも話を進めてしまう。
「あの。本当に当てちゃうんで、やっても面白くないかと」
私は苦笑いで、挙手をして他のことをしようと提案しようとしたけれど。
「は? その自信、証明してみろよ。負かす」
「何故闘争心燃やすんです?」
負けないという言葉に過剰反応して、新一さんが闘争心を燃やした。負けず嫌いか。
なんか、私が負けるまで、やり続けそうな気がしてきた……。
「んー。わかりました。でも、本当にヌルゲーになっちゃうんで……マイリストの中の映画を選んで、テキトーに早送りして、わかりそうにない場面で止めて、どんなシーンかって問題にしてみません?」
「は? 自分で難易度ハードに上げるとか、余裕かよ。絶対に当てさせねー」
「だからなんで攻撃的な姿勢になるんです?」
少しは私も苦戦しようとルールを変えてみれば、新一さんがギラッと目を光らせるほどに闘争心を燃え上がらせてしまったもよう。
シチューを食べ終えると、皿洗いは家主の新一さんがやると言って譲らなかったので、私達はアイスをテーブルに置いて、映画当てゲームの準備をした。
動画配信サービスアプリに、数斗さんがログイン。
前に私がマイリスト登録したものは、全然少ないので、増やすと言えば、数斗さんと真樹さんに瞠目された。
『挑戦的すぎる……!』
『そんなに自信あんの!?』
『新一の負けず嫌いが爆発しないといいけど……』
……タイトルだけで、超ヌルゲーですもん。ゲームにすらなりません。これくらいの難易度じゃないと、ゲームは面白くなりません。
新一さんが戻ったところで、アイスを開封。
真樹さんが買ってくれたのは、普通の雪見アイスじゃなかった。
「雪見アイス、生チョコバージョンなんですね」
「あ、うん。ごめん。限定期間みたいで、それしかなかった」
「大丈夫ですよ。生チョコバージョンも美味しいですし」
「そうなの? 一個ちょーだい」
「はい、いいですよ」
「えっ!!? いいの!? 天使かッ!!!」
真樹さんが大声を上げて驚くから、ビクンッと震え上がる。
すかさず、新一さんが頭を引っ叩いた。
「え、えっ? なんですか? だめなんですか?」と、心の声まで強く響いたものだから、私まで驚いて胸を押さえながらも、オロッとしてしまう。
「いや! ”雪見アイスを一個ちょーだい”って言われるのって、一番イラッとする”一個ちょーだい”の第一位だよ!?」
「どこのランキングだよ。でも、まぁ……フツー、断るよな。高校のダチもふざけて言ってた」
「あー、あったね。……アイス、二つしかないから、半分くれって意味だもんね」
三人が、私が持つアイスに注目。
チョコ味の餅に包まれたチョコアイスは、二つのみ。
「友だちに言われたら、もう一つくらいあげません?」
「マジ天使」
「大袈裟な……」
「いや、ちょうだいって言うのは、欲張ってるんだよ。一個ちょうだいじゃなくて、半分ちょうだいって意味だし。前にもあげたことあるの?」
「ええ、はい。友だちに……あれ? あの子も、”マジで?”とか、驚いていたような……」
数斗さんの問いに、すんなり答えて、あとから、そういえば、と思い出す。
『まさか……』
「その子って……もしかして、悪友?」
「…………」
『『『マジ性格悪いな』』』
私が遠い目で黙秘したら、肯定とみなされて、縁を切った悪友の認識は、さらに地に落ちた。多分、地中深く。
そうかぁ……。あれ、意地悪な一種だったのかぁ……。気付かなかったわぁ……。
「お前は、慈悲深い天使すぎるだろ」
「ゲーム始めましょうか?」
この話は終わりましょう。
真樹さんは冗談で言ったので、雪見アイスは二つとも私のもの。
「外したら? 罰ゲーム?」
「あ。じゃあ、あの曲を歌った録音」
「まだ言いますか」
まだ諦めていなかった数斗さんが、理不尽な罰ゲームに歌わせられた曲の収録を希望。
「ナナハネが嫌がるなら罰ゲームに決定な。外す度に、曲増える」
「やめて? せめて、三回勝負だけで」
「しゃーねーな。負かす」
「あと、私が買ったら、何くれるんです?」
私の懸賞品は何か。負けて罰ゲームがあるなら、逆も用意してもらわないと。割に合わない。
「んー、そうだな……。好きなモン、一つ買ってやるよ」
「好きな物を? なんでもですか?」
新一さんは何故か真樹さんと顔を合わせてから、そう決めた。
「そ。問題出すおれ達が、一人一つずつ、何か好きな物を買ってやる。でも、上限はぁ……3万円以内で」
『プレゼントを考える手間が省ける』
『ナイス! プレゼントあげる、いい口実!』
『何をねだってくれるかな』
プレゼントをあげる口実にしてきた、だと……!? ホント、策士。
そして、何故プレゼントをあげる気満々なんですか……三人とも。
「それって……フェアですか?」
「あの曲を歌ったものを録音されて、車内で流される辱めと比べて、アンフェアか?」
「…………比べるのは難しいですが、その辱めは嫌なんで、勝ちます」
「ハッ! 負かす!」
「新一さんのその強い闘争心は、本当になんなんです?」
「ナナハネが挑発するからだろ」
「してませんよ……」
三人から上限3万円の物を買ってもらうなんて、勝利の褒美が良すぎる……。
でも、あの曲の自分の歌声が車内に流れるのはかなり嫌だから、フェアな気もしてしまう。負けられない。
そんなこんなで、私がヘッドフォンで耳を塞いで背中を向けている間に、三人にマイリストから映画を選んで、早送りで当てにくい場面を選んでもらう。
私はアイスを、もっもっと食べながら、三人の考えを読まないように、別のことを考えた。
まぁ、こんなそばだと、心の声は、聞こえちゃうけども。
ポンポンと数斗さんに肩を叩かれて、振り返る。
「私の大好きなあの映画じゃないですか。三回勝負なのに、こんな生易しくていいんです?」
数斗さんが、私の最推し映画だからって、選んだ映画。前に私がイラストを描いている横で、観ていたもの。
『マジでタイトルを当てた……』
「いいから、どの場面か当ててみろ」
すぐにタイトルを言い当てたから、真樹さんは驚き、新一さんはムッとして答えを急かす。
「ヒロインの部屋の夜の窓だと……中盤か、終盤のどっちかな。ん~。あ、中盤のシーンかな。ヒロインに会いに来て忍び込んだイケメンヴァンパイアが、”試したいことがある”って言うシーン」
「セリフまで言い当てに来たぞ? どんだけ挑発するんだよ」
「挑発してませんって」
「自分でヘルモードにするとか、挑発的に勝負仕掛けて来てんじゃん」
結論から言えば、私の答えは当たりだったので、一勝。
またヘッドフォンを耳につけようとしたけど、数斗さんが「一口ちょうだい」とアイスを求めたので、私は数斗さんの口元に運ぶ。
パクリと食べた数斗さんは「美味しいね」と微笑むから、もっといるかと、差し出す。
数斗さんはアイスを頼まなかったもんね。
無言で交互に食べ合っていれば、次の問題が決まった。
『主人公の顔ドアップなんかでわかるわけないっしょ』
「あぁ~、あのアクション映画では? ガトリングか何かで、弾丸の雨が降ったので、身を縮めて耐えてるところ」
「なんでわかったの!!?」
私とアイスのシェアを楽しんでいて、問題選びに参加しなかった数斗さんの心の声に意識を一点集中してたので、タイトルも聞いていなかったフェアな勝負だったけど、すぐにわかって当てる。
「面白くて、何度も観てたので……なんか、思い出せちゃうんですよね。俳優さんの顔付きや雰囲気で、あのシーンかなって」
「ナナハネセンサーが、画面越しでも通用するのかよ」
「”ナナハネセンサー”って何?」
「感情察知能力」
正しくは、心を読む超能力ですけど。
いや、画面越しには通用しないのだから、やはり私の感情センサー???
「七羽ちゃんの二勝だね」
「何欲しいか考えといて~」
と、数斗さんと真樹さんが、私の勝ちを確信して、もう買う気満々。
「まだ勝負はついてないぞ。……ちなみに、上限は3万円で、下限は1万円な」
「たっか!」
「5千円程度じゃあ安い」
新一さんも負けはまだ認めないけれど、私が勝ったら、1万円以上の物を選ばせて買うつもりらしい。
……フェアって、なんなんだろ?
これで、本当に三勝してもいいものか。
……でも、わざと間違えるなんて……バレバレなんだろうな。新一さんが、きっと怒る。
またヘッドフォンで耳を塞いで、数斗さんがたまにいじるタブレットで、物件探し。
即入居可ではなくても、交渉をしてみるとのこと。
新一さんが、問題を決めた。
「わぁ。真っ黒」
「新一、意地悪すぎ」
「真っ黒じゃねーよ。暗いだけ。かなり」
振り返れば、テレビ画面は真っ暗。確かに、うっすらと何か映っている。
新一さんの頭の中には、ホラー映画のタイトルが浮かんでいるけれど、真っ暗なシーンばかりの映画だから、難しい。
じっと、かろうじて見えるものを判別出来れば、パッと浮かんだ。
「あ。あのホラー映画の中で、悪霊から逃げていたら、倉庫で弟とはぐれちゃったので、慌てて引き返しているシーンですね!」
「お前は超能力者かよ! なんで倉庫の中の棚がかろうじて見えてるだけで、当てるんだよ!」
はい。実は、超能力者です。
でも、これは無駄な努力を発揮しているだけです。
「三勝おめでとう、七羽ちゃん。じゃあ、勝利のご褒美に、何が欲しい?」
「あー……それは熟考しておきます」
数斗さんに訊かれるけれど、はぐらかしておこう。あわよくば、忘れてもらいたい。
負けてしまった新一さんが目を鋭くして、問い詰めようとする前に、私は逸らすことにした。
「新一さん。例の販売サイトについて、質問があるんですけど」
それは見事に成功。
新一さんのメラメラしていた闘争心は、あっという間に鎮火された。
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