心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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お試しの居場所編(後)

60 新居探しも一緒に決めよう。

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 お小遣い稼ぎに、イラストを描いて売るという商売を、軽く始めることも出来るサイト。
 新一さんにこれを通して、描いて売ってみる、という練習がてら、アイコンイラストの依頼をされている。
 まだサイトには、登録していないけれど。

「登録したら、すぐに依頼を受けられる感じになるんですかね? ないとは思いますが、他の人から来たらどんな対処をすればいいのか……」
「いや、対応する客の人数を限定出来るはずだ。多分、登録したあとに、細かい設定を決められるんじゃないか。登録したら、一人だけ対応するって設定しておけばいい。おれが依頼するから、引き受けるって承諾すれば、やり取りが正式スタート。今登録してくか?」
「あ、いえ。まだサンプルのイラストを決めてないので、後々に」

 タブレットで確認してもらったあと、メモのために、バッグから手帳を出す。
 ダイアル式の革手帳を開く。

「七羽ちゃん、手帳を持ち歩いてたの?」
「え? あ、はい」
「? 知らなかったのか? でも、数斗の家で、遊園地のスタンプ描いたって言ったよな?」

 そういえば、数斗さんの前で出すのは、初めてだった。
 新一さんは、首を捻る。

「あの日は、数斗さんが迎えに来てくれる前に、ラフを、あ、下書きを決め終わったので、そのまま読み込んでおいて、数斗さんの部屋でタブレットに描いていたんです」
『また新一に、先越された……』
「下書きを描く用なの?」
「そうですね。メモ代わりでもあります」
「そうなんだね。見てもいい?」

 数斗さんが内心でしょげているので、手帳を渡して見せた。
 真樹さんも「おれもー」と、ソファーから立ち上がって、背凭れの後ろから覗き込む。

「七羽ちゃんのアイディア手帳なんだね」
「タブレット持ってても、アナログ手帳がしっくりするので、そのままでして」
「いっぱい描いてるね」
『たくさんだ……』
「描きたいモノだけ、タブレットで描いたり、水彩色鉛筆で描いたり」
「すげー」
『色々アイディアがあるんだな。すごい。……ん?』

 興味深々に見ている数斗さんと真樹さん。
 ただの下書きなので、やや恥ずかしいな……。
 すると、一番前のページを開いた数斗さんが、首を傾げた。

「七羽ちゃん、これは?」
「え? ハート、ですけど」
「それはわかるけど……どうして、一番前にこのイラストがあるの?」

 一番前にあるイラストは、赤いハートを描いている。その赤いハートの影みたいに、青いハートを描いているだけのデザイン。

『表紙みたいに一番前に……特別なイラスト?』と、数斗さんは気にする。

「別に深い意味はないですよ? ただ気に入っていて……前の手帳にも、描いてましたね。トレードマークみたいな」
「トレードマーク……そうなんだね」
『こういうのも、描くのなら……』

 数斗さんが、顔を上げた。

「新一の次に、俺も依頼したいんだけど、いいかな?」
「え? 何をですか?」
「こんな感じで……アイコンイラストで。色は、黄緑色と紫色。二つの色のモノを掛け合わせたモチーフのイラスト。このハートみたいに。ハート以外でもいいから、七羽ちゃんのお任せで」
『まぁ、欲を言えば、ハートがいいかもしれないけど、七羽ちゃんが好きなように描いてくれればいいな』

 そのうち、数斗さんも依頼したい、と言うとは思ってはいたけれども、モチーフのイラストの注文とは意外だ。
 指定された色が、私と数斗さんの誕生石のもの。

「ツブヤキのアイコンにするのですか?」
「うん。あー、でも……複数描いてほしいのは、欲張りかな? 3つ、別々のデザインで」
『その中から、オーダーメイドを作ってもらおう』

 オーダーメイド……?
 ハッ! 私のデザインを基に、アクセサリーのオーダーメイドを注文するってこと!?
 完全オーダーメイドって……値段が恐ろしい……!
 だがしかし! 私のデザインを基に作られるアクセサリーは、見たい!

「えっと……じゃあ、新一さんのアイコンが無事描けましたら」

 ハートのみだとか、そういうイラストなら、無償でもいいと思うだろうけど、絶対よしとしてくれないだろうから、最初からサイトを通じて買ってもらうことにした。

「ありがとう、七羽ちゃん。楽しみ」

 数斗さんは柔らかく微笑むと、手帳を返してくれたので、メモメモ。数斗さんの名前を付箋に書いて、一ページ目にペタリ。

「おれもオリジナルアイコン欲しいぃ~。でもいきなり三人の客を持つのは、プレッシャーでしょ? 数斗のが終わったら、おれも注文させてね!」
『今のアイコンみたいな、ファンタジーなモン、描いてほしいな!』

 真樹さんは気遣ってくれて、とりあえず仮予約をしてくれた。

「新一さんの依頼が上手く出来れば、の話ですけど」
「やる前から怖気付くなよ。……あ、ナナハネのビビリの度合い知りたいから、ホラー映画観ないか? 新作の短編映画」
『絶対にナナハネが観てないヤツ』

 新一さんが、意地悪に提案。

「夜寝れなくなるので、ご勘弁を」と、苦く笑って、丁重にお断りした。

 少しお喋りをしたあとは、数斗さんに車で家の前まで送ってもらう。

「今日は本当にごめん」と、申し訳ないって顔で謝ってきたので「大丈夫ですって。明後日の見学、楽しみです」と笑って返す。

「あ。見学がダメだったら、普通にデートしてくれる?」
「割り勘デートですね?」
「うん。割り勘デート」
『譲らないなぁ』

 譲りません。

 別れ際に、好きと言い合い終わると、数斗さんは、ちゅっと頬にキス。

 怖さがぶり返して、眠れなかったら、メッセージのやり取りをしようと言ってくれたけれど、私は普通に眠れた。


 翌日。急遽でも、物件の見学が可能だという返事が来たので、明日は一緒に不動産に行く予定が立った。

 今日、数斗さんは警察署で事情聴取やら、職場での話やらで、てんてこ舞いだったそう。
 私の事情聴取は必要ではないかと尋ねたけど、無理には必要ないとのことだ。
 犯人も認めているし、起訴には十分。
 職場のセキュリティー強化の見直しが決定したとか。
 数斗さんの住所も、事務室に保管された従業員の個人情報を漁って知ったらしい。

 引っ越しのためにも、特別休暇を得られたので、私が休みの日、または半日シフトに合わせて休み、引っ越し作業を進めるつもりだとか。
 可能なら、私にも付き合ってほしいとのこと。
 もちろん、構わない。


 翌朝、迎えに来てくれた数斗さんと不動産へ。
 数斗さん達が住んでいる街と、私の住む街の中間くらいの位置。車での移動時間は、約25分。
 ちょっとだけ大きな街で、駅周辺は飲食店が豊富で、さらにはボウリング場も近い。実は、住むにはいい街で、穴場だとか。

「昨日電話した通り。可能な限り、すぐに引っ越したいんです」
「はい。希望の物件は、こちらです。あと、こちらは、最新の物件でして、希望に添えると思いまして。こちらも、内見は可能です」

 担当してくれた不動産の女性が対応してくれて、改めて、プリントされた物件の資料を差し出された。
 見学を希望した物件は、二つ。新たに、一件、物件の資料を出してくれた。

 出来たばかりのマンションで、入居者募集中だとか。
 確かに、希望の条件が満たされている物件だ。写真が、真新しくてかっこいい三階建てのマンション。
 ちゃんとオートロック式。間取りも、広め。さらには、私が好んでいるからって、カウンターキッチンの条件も、当てはまっている。
 入居者募集なので、内見も大歓迎だとか。

 とりあえず、数斗さんも私の意見も聞いて、行くことを決めた。

 物件、見学開始。

「わぁ。広いですねぇ」
「はい。二人暮らしには、ちょうどいい広さかと」
『七羽ちゃんと、二人暮らし!』

 カップルで来ているので、当然二人暮らしをすると思われている。
 私もご機嫌な数斗さんも、わざわざ否定はしない。
 日当たりもよくて、設備も不足なかった。カウンターキッチンも、素敵だ。
 もしも、と家具の配置も考えて、一緒に話した。


 三軒目。
 真新しいマンション。三階建てで、三部屋のみ。それでいて、オートロックマンション。セレブ感が、ヒシヒシ。
 まだ誰も入居していないそうで、最上階の部屋を見せてもらった。

「すごいお洒落ですね」と、ほげーっと感心してしまう。

 1LDKだけれど、本当に広い。
 リビングは、キッチンカウンターのそばにテーブルを置いても、まだ広々。

 ベランダに繋がるドアも、寝室の窓辺も、陽射しが差し込む。ベランダからは、花壇で囲った真新しい駐車場が見下ろせる。寝室に、クローゼット。洗面化粧室は、ホテルのものと似て、お洒落。脱衣所とも分けられていて、ドラム式洗濯機も置けるとのこと。浴室も、お洒落だ。バスタブが大きい。シャンプーなどを並べられる棚のデザインもあり。

「……すみません。ここって、家賃いくらでしたっけ? 見そびれましたぁあぁ~」

 数斗さんが持つ資料で家賃を確認しようとしたけれど、数斗さんはサッと背に回して隠してしまう。

『七羽ちゃんはキッチンカウンターも、洗面化粧室も気に入っていたみたいだし、脱衣所にドラム式洗濯機も可能か。七羽ちゃんは洗濯苦手だって言ったしね。この広さだと、四人用テーブルを置いても、狭く感じない。新一達とも、食事が楽しめる。カウンターで食事も、もちろん。机とか置いても、いいよな。七羽ちゃんがイラスト描く作業ペースも、確保出来る』

 数斗さん。めっちゃくちゃ、つらつらと考えている。

 だから、私の家じゃないんですよ。私は住まないんですよ。
 作業スペースって何っ?
 で!? いくら!? このセレブ価格確定のマンションの家賃は!!


「ここに決めました」

「「はい!?」」


 キラッと輝くような清々しい笑顔で、数斗さんは即決した。
 私も、不動産の人も、ビックリする。

「え、ええぇっ?」
「気に入らない? 気に入ったでしょ?」

 また資料を奪おうと試みたけれど、数斗さんは私を捕まえて、両腕に閉じ込めてきた。

 何故に、おねだりするような眼差しで、見下ろしてくるのです?

「い、いや、私は」
「嫌なところでもある?」
「ないですけど」
「俺は気に入った」

 ニッコニコな数斗さんの顔を見上げながら、私は反対が出来ないと気付いた。
 数斗さんがどんなに私のことを考えていても、口にして言ってはいない。あくまでこれは、数斗さんが住む家。しかも、すぐにでも欲しい。

 考え直してー、と言うには、悪い点がないのである。
 家賃がどんなに高くても、稼いでいる数斗さんには余裕なのだ。

「ここにするね」と、上機嫌に頬へキスをしてきた。

 かなり、意志が強め。もう決定だ。

 数斗さんは、不動産の人と話を進めてしまう。

「じゃあ、家具の配置を考えようか?」

 なんて、楽しそうな笑顔で、私の肩を抱いた。
 大雑把だけれど、家具の置き場所を決めて、それから一度昼食に行くことにする。

「飲食店、いっぱいあるけれど、何食べようか?」
「ん~。数斗さんは?」
「あ。そういえば、とんこつラーメンの店があるんだけど、七羽ちゃんもラーメンはとんこつ味が好きだって言ってたよね?」
『俺も好きだけど、女の子はあんまりラーメン店で食べたがらないと聞いたことあるような……』
「好きですけど……量が多いと、食べ切れなくて」
「食べ切れなかったら、残りは俺が食べてあげるよ。でも、七羽ちゃんはもっと食べて? 軽すぎだよ」
「そういう数斗さんも、ちゃんと食べてます?」
「え? 俺、細い? 頼りない?」
『ジム行くべき!? いや、そんな時間あるなら、七羽ちゃんと居たい……』
「私をお姫様抱っこ出来たのに、頼りないわけじゃなくて、数斗さんは細身ですよね。腰が細めで、なんか……」

 グッとくるものを感じる。
 そう言いかけて、口を閉じた。

『ん? なんかって……何?』
「あ。写真出ました。これなら、食べられそうです。このとんこつラーメン屋に行きましょうか」
「あ、うん。行こうか」
『何を言いかけたのかな?』

 身体の好みなんて、言わない方がいい。きっと。多分。
 数斗さんの自制心は強いけど、私も気を付けないと。節度を守ってもらうために。

「七羽ちゃんは、ラーメン屋に行くことあるの?」
「ありますよ。一度、友だち四人と有名ラーメンへ。あとは、家族とですね。数斗さんは?」
「大学の友だちと、声をかけられては、よく食べに行ったよ」

 美味しいとんこつラーメンを食べ終えて、会計しようとした時に、財布を取り出して気付く。
 割り勘で支払うと言う数斗さんの隣で、金額を目にして、安すぎだな、と。
 数斗さんがそれほど、値が張らないラーメンを選んだという。
 あっれぇ~? ここは、全部私が持つべきだったかもしれない……。


「今日の不動産の手続きが、終わったら、家具店に寄っていい? 一緒に考えて選んでほしいな」

 早速、家具選び。まだ確定ではなく、候補に入れただけ。
 明日の半日シフトのあとには、家電店。
 私の休みである日曜に、別の家具店も行かないかと誘われた。小物も選ぶ買い物デート。
 現時点で、数斗さん達が住んでいる街の駅ビル。そこにも大きな家具店があり、家電店もあり。そして、何度か回ったことのある雑貨店も。
 ウィンドウショッピングは、好きだ。また手を繋いで、お喋りしながら店を回るデート。
 ただし、気に入った物があれば、買う。新居作りのためだ。


 今の家にある必要な荷物は、すぐに引き受けてくれる業者に頼んで、運んでもらえるとのこと。
 とんとん拍子で、数斗さんの引っ越しが決定した。

『困ったなぁ……。休みを得られたのに、引っ越しのためのデートだけか。まだ延長の話もない……。期限は、来月の金曜日か。その日まで、七羽ちゃんは考えてくれるのかな』
「……数斗さん。荷解きも、手伝いたいです。今のアパートに引っ越した時も楽しかったですし」
『!』
「もちろんだよ。七羽ちゃんと荷解きって、俺も楽しそうだから、ぜひとも」
『どんどん、俺と会おうとしてくれる。嬉しいな。前向きになってくれている。俺も、一緒に楽しみたい』

 数斗さんは、嬉しそうに笑みを零す。

「好きだよ、七羽ちゃん」

 前向きな気持ちを与える太陽の石のピアスと一緒に耳たぶをさり気なく撫でて、頬にキスをしてくれた。

「私も好きです、数斗さん」

 私の方は、ギュッと数斗さんに抱き付いて、胸に頬を押し付ける。

『俺も好き。大好き。愛してる……』

 そんな私の頭の上に、数斗さんは口付けを落とした。


 家に帰った私は、掌サイズのジュエリーボックスを手にする。翳すように、見上げた。

「……お試し期間の延長、か…………」

 そう呟いて、ベッドに横たわった私は、自分の額にジュエリーボックスを置いて、目を閉じる。


 お試し期間の恋人関係。

 私と数斗さんの関係について。


 考えては、眠りに落ちる。
 初デートから、ずっと。こんな夜だ。


 
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