大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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バーでカクテルを

第394話、仕事終わりに一杯

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 さて、今日の仕事は薬院ではなく、村の運営にかかわる書類の処理だ。
 つまり、悪魔族秘書官たちのいる村の中枢……ディアーナが所長を務める『役所』だ。最近、役所という名称が付き、建物も拡張した。村の産業が村レベルではなくなりつつあるらしく、処理しなきゃいけない書類もかなりある。
 俺は『村長室』とプレートのかかった部屋で、書類に目を通していた。
 ちなみに、ここには『副官』のディアーナの机もある。

「アシュト村長。こちらの書類にも目を通しておいてください」
「はいよ」

 俺はアウグストさんが作った印を持ち、植物エキスで作った朱肉を付ける。
 これらは、ディミトリ商会の売り上げや、売り上げから何割かを緑龍の村に落とすという書類だ。難しいことは未だに理解しにくいけど、ちゃんと読んでおく。

 俺が確認し印を押さないといけない書類はかなりある。
 だが、必要最低限の書類だけで、残りはほとんどディアーナが処理してくれている。ディアーナなりの気遣いだ。
 俺が薬師として薬院で働けるのも、新婚旅行で何日も留守にできるのも……そう、ディアーナのおかげなんだよな。
 そういえば最近、仕事の話ばかりで、ディアーナと喋っていない。
 
「なぁディアーナ」
「はい」
「今夜空いてるか?」
「……はい?」
「いや、その……酒でも飲まないか? その、バーもできたし、住人を誘って飲んでるんだ。いずれは村にもバーを作りたいし、その試飲に付き合ってくれないか?」
「……わかりました」
「あ、嫌なら別に」
「そんなこと言ってません。では、仕事を終えた後に」
「は、はい」

 お、怒ってるのかな……なんか、ディアーナの仕事速度が上がったぞ?
 俺は首を傾げつつ、追加された書類に目を通した。

 ◇◇◇◇◇◇

「お、お待たせしました」
「…………あ、ああ」

 夜。仕事を終え、軽めの夕飯を食べた。
 バーの前でディアーナを待っていると、お付きのセレーネ、ヘカテーと共にディアーナが来たんだけど……なんか着替えてるというか、ドレスと言うか、おっぱいと言うか。
 妙に胸元が開いたドレス。長い黒髪は丁寧にまとめられ、薄く化粧もしているのかいい匂いがする。すると、セレーネがいつの間にか俺の背後に。

「アシュト様。何かお言葉を」
「え、ああ。ディアーナ、そのドレスめっちゃ似合ってるな」
「……あ、ありがとうございます」

 ディアーナは頬を染め、そっぽ向きながらお礼を言う。
 
「ではお嬢様。私どもはここで」
「お迎えが必要であればお呼びください。もちろん、必要ない場合は結構です」
「せ、セレーネ! ヘカテー!……もう」

 セレーネとヘカテーは頭を下げ、夜の闇に消えていった。
 いつまで入口にいてもしょうがないし、バーのドアを開ける。

「いらっしゃいませ」

 ミリアリアがカウンターから出迎えてくれた。
 カウンターに座り、さっそくお酒を注文する……そういえば。

「ディアーナって、酒は飲めるのか?」
「はい。お付き合いで飲むこともありますので」
「へぇ……そういや、ディアーナってお嬢様っぽいもんな」
「失礼ですが、お嬢様というのはお止めください。実はその……子供っぽくみられるので、あまり好きではないのです」
「あ、ああ。悪い」

 こ、子供っぽい……?
 なんとなく胸を見てしまう……いや、子供はあり得ない。デカいし。

「……どこを見ていらっしゃるの」
「すみませんでした」
「……くす」

 お、ディアーナが笑った。
 すると、ミリアリアが小さなグラスに入った緑色の酒を出してくれる。

「マスクメィロンを使ったカクテルです。まずはこちらで乾杯を」
「ありがとう」
「おし。じゃあ乾杯するか」

 グラスを合わせ、俺とディアーナは乾杯した。
 マスクメィロンカクテルは甘く、酒精もそんなに強くない。量も少ないので一気に飲み干せた。
 さて、ここからが本番だ。

「ミリアリア。俺はセントウカクテルを」
「では……果実系でお任せします」
「かしこまりました」

 俺はちょっとトロッとしたセントウカクテル、ディアーナは数種類の果実を使ったカクテルを注文。おつまみにチコレートやクッキーが出され、さっそく摘まむ。

「ん、うまい」
「はい。これはディミトリ商会で扱っているチコレートですね。食べたことがあります」
「ディミトリのところか……そういや、ディミトリ商会ってかなり設けてるんだろ?」
「ええ。ミュディ・ブランドはベルゼブブで最も人気のあるブランドに成長しました。独占販売をしているディミトリ商会の利益は計り知れません。ディミトリ様は誠実な商売を心がけておりますので数字は信用できますが……このままいくと、ベルゼブブ富豪ランキングトップ5に食い込めるでしょうね」
「な、なんかすごいな……ディミトリは怪しさ満点だけど」

 ディミトリ、けっこうな付き合いになるけど、未だに胡散臭さが抜けない。
 もちろん信用はしている。いろいろ融通してもらってるしね。

「アドナエル様のアドナエル・カンパニーも、ベルゼブブにカフェをオープンしてから急成長していますね。アドナエル・カンパニーが独占しているマスクメィロンが大人気のようです」
「あれ、確かに美味いもんな」
「ええ。ですが、真に恐ろしいのは……ミュディ・ブランドもマスクメィロンも、アシュト様がご提供された物だということです」
「いやいや、俺なんて大したことしてないぞ」

 俺はセントウカクテルを飲む。甘くて美味しいね。

「ミュディは趣味が商売になっただけだ。本人は金のことなんて全く頭にないし、好きなことをして笑顔で毎日過ごしているから俺も本当に嬉しい。マスクメィロンは……まぁ、アドナエルに泣き付かれたってのもあるけど、美味い果物が食べたいって気持ちはあったからな」
「無自覚とは恐ろしいですね」
「いやいや、だから」

 否定しようとしたら、ディアーナがくすっと笑う。
 その笑顔がなんとも可愛らしく、俺はつい目を反らしてしまった。

「ミリアリア、おかわり」
「では、私も同じものを」
「かしこまりました」

 俺は、平べったいグラスに積まれていた飴玉に手を伸ばす。
 せっかくなので話題を変える。

「なぁ、ルシファーは元気か?」
「うん、元気だよ」

 と、横から声が。

「やぁ」
「うぉぉぉぉぉっ!?」
「きゃぁっ!?」

 いきなりルシファーが隣に現れた。
 驚き、ディアーナの方に身体を寄せたせいで、手が柔らかい物に触れてしまった。
 パッと手を離すが、ディアーナが胸を押さえて赤くなる……や、やばい。

「おっとごめん。驚かせちゃったね」
「ふざけんなお前!? ど、どうやって入ってきたんだよ!?」
「そりゃもう、こっそりとね」

 ルシファーはケラケラ笑い、驚いて硬直してるミリアリアに言った。

「お姉さん、ボクにもお酒ちょうだい。少しキツいのがいいな」
「か、かしこまりました」
「そうですね……兄さんにはキツイのがいいですね」

 ゾワァ~っと、黒いオーラを感じた。
 すると、笑みを張り付けたディアーナがルシファーを見ていた。
 これには、ルシファーも蒼くなる。

「でぃ、ディアーナ? ど、どうしたんだい? きみを驚かすなんていつものことじゃ」
「バカバカバカ!! 兄さんの馬鹿!! ああもう、こんなタイミングで来なくても」
「い、いいじゃないか別に。ボクだってアシュトと飲みたいし」
「あの、俺を挟んで兄妹喧嘩するなよ……」

 ルシファーの登場で一気に騒がしくなったバーカウンター席。
 とりあえず、お酒を注文して乾杯しなおすかな。
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