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日常編⑮
第397話、ビッグバロッグのバーで一杯①
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ビッグバロッグ王国、エストレイヤ家。
ほんの少し前。ビッグバロッグ王国一とも呼ばれる名家であるエストレイヤ家の当主が変わった。
当主の名はリュドガ。父アイゼンが当主の座を譲り、エストレイヤ家の後継者に任命……この話はビッグバロッグ王国中に伝わり、国民は大いに歓迎した。
アイゼンは隠居……ではなく、若手騎士の指導員として剣を振るっている。
ちなみに、アイゼンを知る者が見ればわかるが、なぜか現役時代より逞しくなり魔法の威力も上がっているとか。
指導員としての仕事の傍ら、趣味から始まった農園や温室の世話、リュドガとルナマリアの子供であるスサノオとエクレールのお世話など、毎日充実した生活を送っているらしい。
「……と、こんな感じかな」
『そっかー……リュウ兄、がんばってるんだね』
「だな。仕事仕事だが、ルナマリアが一緒だからすれ違いになるってことはねぇよ。子供に会えなくて寂しいとか言いやがるけど、アイゼン様がこれでもかってくらい孫を可愛がってる」
『あはは。なんとなくわかるし』
「ああ。ところで、アシュトは元気か?」
『うん。最近、家の隣に経てたバーで、村のみんなを誘ってお酒飲んでるよ。ヒュンケル兄やリュウ兄とも飲みたいなーって言ってた』
「お、そりゃいいな。休暇が取れたら遊びに行きたいぜ」
リンリンベルを使ってヒュンケルが話しているのはシェリーだ。
執務室の窓際に置かれた、遠く離れた相手と会話できる不思議な植物。これのおかげで、アシュトたちはビッグバロッグ王国から離れても会話できるようになった。
『そーいえばヒュンケル兄、ヒュンケル兄は結婚しないの?』
「あぁ?」
『スサノオとエクレール見てさ、自分も子供欲しいーとか思わない?』
「んー……どうかな。仕事が忙しいしなぁ。つーか相手もいないし」
『ふーん。ヒュンケル兄って仕事できるし見た目もカッコいいし、相手ならすぐできると思うよ? あたしが軍にいた頃、ヒュンケル兄とリュウ兄が並んで歩いている姿、女性兵士や騎士から『ビッグバロッグの双剣』なんて呼ばれてキャーキャー言われてたんだから』
「ふーん。ま、興味ないなぁ。それより、お前はどうなんだよ? アシュトの子供はまだなのか? ミュディ辺りはそろそろ……」
『ひゅ、ヒュンケル兄のえっち! もう、あたしたちに子供はまだ早いですー! あたしはまだ二十になってないんだよ!?』
「問題ねぇって。ははは、お前たちに子供ができたらアイゼン様も喜ぶぜ」
『もう……』
何気ない会話を続け、『あ、そろそろ訓練あるから』と言ってシェリーとの会話は終わった。
シェリーは竜騎士としての修行を頑張っているようだ。
ヒュンケルは窓の外を眺め、何気なく呟く。
「子供ねぇ……」
なんとなく、自分には似合わない……そんな気がした。
◇◇◇◇◇◇
ヒュンケルは、城下町で買い物をしてエストレイヤ家に向かっていた。
エストレイヤ家にいくつかの書類を届ける仕事なのだが、届けたら今日は直帰する。リュドガとルナマリアもいるだろうし、予定があれば飲むのも悪くないと考えていた。
エストレイヤ家に到着すると、使用人がリュドガたちは中庭にいると聞いた。
部屋に案内されそうになったが、ヒュンケルは裏庭へ行くことにした。エストレイヤ家には何度も来ているし、使用人たちもヒュンケルと顔なじみだ。
さっそく裏庭に行くと……いた。
エクレールを抱っこしたリュドガ、スサノオと手を繋ぐルナマリアが、四人で『桃桜神樹』を見上げていた。
「あ!! ちちうえ、あそこにつぼみが!!」
「お、本当だ。よく見つけたね、エクレール」
「えへへー」
「あねうえ、そろそろかわってください。ちちうえ、ぼくもだっこしてほしいです」
「やぁん。ちちうえのだっこすきー」
「ふふ。スサノオ、私が抱っこしてやろう。母も騎士なのだ。お前を抱っこするくらい容易いぞ」
「ははうえ!!」
ルナマリアがスサノオを抱っこし、家族四人は蕾を探す。
一年に一度花を咲かせるというこの樹。花が咲くと家族で花見をする決まりを設けたらしい。
ヒュンケルは、なんとなく入りづらい……まるで一枚の肖像画のような光景に、部外者である自分が混ざり込むようなことは、キャンバスに泥を塗りたくるようなことだと思ってしまう。
すると、エクレールと目が合った。
「あー!! ひゅんけるだー!!」
「あ、ひゅんける!!」
エクレールの声にスサノオが反応、リュドガとルナマリアも気が付いた。
ヒュンケルは微笑み、リュドガとルナマリアから飛び降りて走り出すエクレールたちを迎える。
「ようエクレール。はは、大きくなったな」
「えへへー」
「スサノオも、久しぶりだな」
「まえにきてから、えーっと……とおか!! 十日ほど? ですよね。ひさしぶりってながさじゃありません!!」
「お、数を数えられるようになったか。まだ一歳半くらいなのに大したもんだ」
「ひゅんける、あそんで!!」
「ひゅんける、ぼくってすごいの?」
「……お前らも呼び捨てかい。まぁいいけどよ」
ヒュンケルは、町で買った土産からぬいぐるみを取り出し二人に渡す。
共に、色違いのネコのぬいぐるみだ。
「わぁ~!! ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「おう。喧嘩すんなよ」
二人の頭を撫でると、可愛らしく頭を下げた。
すると、リュドガとルナマリアが来る。
「すまないな、ヒュンケル。来るたびに土産をもらって……」
「気にすんなよ。今日は仕事で来たんだ。それと、よかったら今夜どうだ?」
ヒュンケルは、グラスをクイッと傾ける仕草をする。
それだけで、この二人はわかっていた。
「もちろんいいぞ。ああ、子供たちを寝かしつけた後でいいか?」
「おう。ルナマリアもどうだ?」
「付きあおう。ふふ、久しぶりだしな」
「よし。家のバーを準備させておこう」
リュドガは遠くで邪魔をしないように見守っていた使用人を呼び、家にある酒場を準備させる。
エストレイヤ家には、城下町にあるような個人経営のバーほどの酒場がある。アイゼンが趣味で作ったもので、リュドガもヒュンケルが来たときにはよく利用していた。
城下町で飲むのもいいが、子供が生まれてからはよく利用している。
大人だけの会話に飽きたのか、ぬいぐるみを抱いたエクレールがヒュンケルの足に抱きつく。
「むー、おとなだけでお話つまんない!! ひゅんける、遊んで!!」
「お、悪いな。仕事が終わったら遊んでやるよ」
「また、かぜでびゅーってやってほしいー」
「ああ、いいぜ」
以前、ヒュンケルが魔法で風を使い、二人の身体を浮き上がらせてからだろうか。こんなにも懐かれたのは。
ヒュンケルはさっさと書類をリュドガに渡し、四人の家族に混ざって子供たちと遊ぶのだった。
ほんの少し前。ビッグバロッグ王国一とも呼ばれる名家であるエストレイヤ家の当主が変わった。
当主の名はリュドガ。父アイゼンが当主の座を譲り、エストレイヤ家の後継者に任命……この話はビッグバロッグ王国中に伝わり、国民は大いに歓迎した。
アイゼンは隠居……ではなく、若手騎士の指導員として剣を振るっている。
ちなみに、アイゼンを知る者が見ればわかるが、なぜか現役時代より逞しくなり魔法の威力も上がっているとか。
指導員としての仕事の傍ら、趣味から始まった農園や温室の世話、リュドガとルナマリアの子供であるスサノオとエクレールのお世話など、毎日充実した生活を送っているらしい。
「……と、こんな感じかな」
『そっかー……リュウ兄、がんばってるんだね』
「だな。仕事仕事だが、ルナマリアが一緒だからすれ違いになるってことはねぇよ。子供に会えなくて寂しいとか言いやがるけど、アイゼン様がこれでもかってくらい孫を可愛がってる」
『あはは。なんとなくわかるし』
「ああ。ところで、アシュトは元気か?」
『うん。最近、家の隣に経てたバーで、村のみんなを誘ってお酒飲んでるよ。ヒュンケル兄やリュウ兄とも飲みたいなーって言ってた』
「お、そりゃいいな。休暇が取れたら遊びに行きたいぜ」
リンリンベルを使ってヒュンケルが話しているのはシェリーだ。
執務室の窓際に置かれた、遠く離れた相手と会話できる不思議な植物。これのおかげで、アシュトたちはビッグバロッグ王国から離れても会話できるようになった。
『そーいえばヒュンケル兄、ヒュンケル兄は結婚しないの?』
「あぁ?」
『スサノオとエクレール見てさ、自分も子供欲しいーとか思わない?』
「んー……どうかな。仕事が忙しいしなぁ。つーか相手もいないし」
『ふーん。ヒュンケル兄って仕事できるし見た目もカッコいいし、相手ならすぐできると思うよ? あたしが軍にいた頃、ヒュンケル兄とリュウ兄が並んで歩いている姿、女性兵士や騎士から『ビッグバロッグの双剣』なんて呼ばれてキャーキャー言われてたんだから』
「ふーん。ま、興味ないなぁ。それより、お前はどうなんだよ? アシュトの子供はまだなのか? ミュディ辺りはそろそろ……」
『ひゅ、ヒュンケル兄のえっち! もう、あたしたちに子供はまだ早いですー! あたしはまだ二十になってないんだよ!?』
「問題ねぇって。ははは、お前たちに子供ができたらアイゼン様も喜ぶぜ」
『もう……』
何気ない会話を続け、『あ、そろそろ訓練あるから』と言ってシェリーとの会話は終わった。
シェリーは竜騎士としての修行を頑張っているようだ。
ヒュンケルは窓の外を眺め、何気なく呟く。
「子供ねぇ……」
なんとなく、自分には似合わない……そんな気がした。
◇◇◇◇◇◇
ヒュンケルは、城下町で買い物をしてエストレイヤ家に向かっていた。
エストレイヤ家にいくつかの書類を届ける仕事なのだが、届けたら今日は直帰する。リュドガとルナマリアもいるだろうし、予定があれば飲むのも悪くないと考えていた。
エストレイヤ家に到着すると、使用人がリュドガたちは中庭にいると聞いた。
部屋に案内されそうになったが、ヒュンケルは裏庭へ行くことにした。エストレイヤ家には何度も来ているし、使用人たちもヒュンケルと顔なじみだ。
さっそく裏庭に行くと……いた。
エクレールを抱っこしたリュドガ、スサノオと手を繋ぐルナマリアが、四人で『桃桜神樹』を見上げていた。
「あ!! ちちうえ、あそこにつぼみが!!」
「お、本当だ。よく見つけたね、エクレール」
「えへへー」
「あねうえ、そろそろかわってください。ちちうえ、ぼくもだっこしてほしいです」
「やぁん。ちちうえのだっこすきー」
「ふふ。スサノオ、私が抱っこしてやろう。母も騎士なのだ。お前を抱っこするくらい容易いぞ」
「ははうえ!!」
ルナマリアがスサノオを抱っこし、家族四人は蕾を探す。
一年に一度花を咲かせるというこの樹。花が咲くと家族で花見をする決まりを設けたらしい。
ヒュンケルは、なんとなく入りづらい……まるで一枚の肖像画のような光景に、部外者である自分が混ざり込むようなことは、キャンバスに泥を塗りたくるようなことだと思ってしまう。
すると、エクレールと目が合った。
「あー!! ひゅんけるだー!!」
「あ、ひゅんける!!」
エクレールの声にスサノオが反応、リュドガとルナマリアも気が付いた。
ヒュンケルは微笑み、リュドガとルナマリアから飛び降りて走り出すエクレールたちを迎える。
「ようエクレール。はは、大きくなったな」
「えへへー」
「スサノオも、久しぶりだな」
「まえにきてから、えーっと……とおか!! 十日ほど? ですよね。ひさしぶりってながさじゃありません!!」
「お、数を数えられるようになったか。まだ一歳半くらいなのに大したもんだ」
「ひゅんける、あそんで!!」
「ひゅんける、ぼくってすごいの?」
「……お前らも呼び捨てかい。まぁいいけどよ」
ヒュンケルは、町で買った土産からぬいぐるみを取り出し二人に渡す。
共に、色違いのネコのぬいぐるみだ。
「わぁ~!! ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「おう。喧嘩すんなよ」
二人の頭を撫でると、可愛らしく頭を下げた。
すると、リュドガとルナマリアが来る。
「すまないな、ヒュンケル。来るたびに土産をもらって……」
「気にすんなよ。今日は仕事で来たんだ。それと、よかったら今夜どうだ?」
ヒュンケルは、グラスをクイッと傾ける仕草をする。
それだけで、この二人はわかっていた。
「もちろんいいぞ。ああ、子供たちを寝かしつけた後でいいか?」
「おう。ルナマリアもどうだ?」
「付きあおう。ふふ、久しぶりだしな」
「よし。家のバーを準備させておこう」
リュドガは遠くで邪魔をしないように見守っていた使用人を呼び、家にある酒場を準備させる。
エストレイヤ家には、城下町にあるような個人経営のバーほどの酒場がある。アイゼンが趣味で作ったもので、リュドガもヒュンケルが来たときにはよく利用していた。
城下町で飲むのもいいが、子供が生まれてからはよく利用している。
大人だけの会話に飽きたのか、ぬいぐるみを抱いたエクレールがヒュンケルの足に抱きつく。
「むー、おとなだけでお話つまんない!! ひゅんける、遊んで!!」
「お、悪いな。仕事が終わったら遊んでやるよ」
「また、かぜでびゅーってやってほしいー」
「ああ、いいぜ」
以前、ヒュンケルが魔法で風を使い、二人の身体を浮き上がらせてからだろうか。こんなにも懐かれたのは。
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