大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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オーベルシュタイン、二度目の冬

第431話、妖狐のお姫様

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 カエデが家にやってきた翌朝。
 ダイニングに集まり、朝食の時間になった。
 
「おはよ~」
「お、おはようなのじゃ」

 ミュディと手を繋ぎ、カエデがやってきた。
 もふもふな四本の尻尾、白いショートヘア、尖ったキツネ耳がとても可愛い。
 昨日と打って変わって、なぜか緊張していた。
 ああ、そうか……。

「え、誰この子? キツネ?」と、エルミナ。
「かわいい~♪ ミュディ、その子どうしたの?」と、シェリー。
「尾が四本……?」と、ローレライ。
「もふもふしてる!」と、クララベル。

 カエデは緊張し、ミュディの後ろに隠れてしまった。
 俺はみんなを諫め、紹介する。

「この子はカエデ。諸事情で、しばらく家で預かることになったから。みんな、仲良くしてな」

 エルミナたちは頷いた。
 まずは朝食だ。カエデは俺の隣に座る。てっきりミュディの隣に行くと思ったのに。
 すると、小さな視線に気付いた。

「にゃあ……」

 ミュアちゃんだ。
 同い年の女の子が来たから気になってるな。
 昨日は誰にも説明しなかったし、しょうがないな。

「カエデ。後でお話があるから」
「うむ。よしなに」

 カエデは「うむ」と頷いた。
 さて、まずは朝ごはんにしますかね。

 ◇◇◇◇◇◇

 朝食が終わり、カエデをリビングへ連れて行く。
 ミュアちゃんが紅茶を出し、俺と向かい合った。

「カエデ。俺の知り合いが妖狐族に連絡を取れるらしい。何かわかったら連絡してくれるみたいだから、それまでここでゆっくりしてくれ」
「うむ。改めて感謝を」

 カエデは頭を下げた。
 なんか昨日と雰囲気が違うな。あんなにグスグス泣いてたのに、今はキリっとしている。
 そして、カエデは言った。

「改めて自己紹介を。わらわはカエデ。父にして妖狐族の長フヨウと母モミジの娘じゃ。此度はわらわを救って頂き誠に感謝する」
「あ、はい……えっと」
「この礼は必ず。緑龍の村村長アシュト殿」
「……ど、どうしたんだ?」
「昨日は見苦しく情けない姿をさらしたが、これが本来のわらわじゃ。妖狐族の姫として恥ずかしくないようにしなければ」
「…………」

 うーむ。昨日みたいに甘えてくれる方が可愛いけどなぁ。
 まぁ、他所の教育方針に口は出さない。
 さて、これからだけど。

「とりあえず、村を案内するよ。外は寒いからコートを着てね」
「よしなに」
「あ、せっかくだしミュアちゃんもおいで。ネコミミ帽子被って、温かい恰好しておいで」
「にゃあ。いいの?」
「もちろん。カエデ、この子はミュアちゃん。仲良くしてあげてね」

 俺はミュアちゃんをカエデの傍へ連れて行く。
 ミュアちゃんはカエデをジーっと見て、にっこりした。

「わたし、ミュアだよ! よろしくね」
「よしなに。わらわはカエデじゃ」
「にゃう。よしなにってなにー?」
「よろしく、という意味じゃ」
「ねぇねぇ、しっぽもふもふ! 触りたい!」
「だ、駄目だめ、駄目なのじゃ! 尻尾は好きな人にしか触らせちゃダメって母さまが言ってたのじゃ!」
「にゃあ。わたし、カエデのこと好きだよ?」
「まだ自己紹介したばかりじゃ! 駄目なのじゃ!」
「あ、ねぇねぇ、あとでライラやルミナも紹介するね。ライラの尻尾もすっごくもふもふしてるんだよー」
「……話がコロコロ変わるのじゃ」

 うんうん。いい友達になれそうだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 コートや帽子、手袋を着こんで準備を終えた。
 ミュアちゃん、カエデもコートや帽子を着て玄関へ。
 さて、村の案内……と、外に出ようとしたら。

「みゃあ。あたいも行くぞ」
「あ、ルミナだ! カエデ、この子がルミナなの。クロネコ」
「ほぉ……美しい毛並みじゃ。漆黒、濡羽色という表現がぴったりじゃ」
「……だれだ?」
「初めまして。カエデと申す」
「…………」

 ルミナはそっと俺の後ろに。いつの間にか黒いコートとネコミミ帽子を着ている。
 ルミナは身体をたっぷり擦り付けてきたので頭とネコミミを揉んでやる。
 満足したのか離れると、カエデに言った。

「ルミナ。あたいの名前」
「ルミナ殿。よしなに」

 カエデは頭を下げた……が、まさかルミナが自己紹介するとは。
 ルミナも変わっている。孤独な黒猫ではなく、ちゃんと村に馴染んでいる。
 なんとなく嬉しかったので、頭を撫でてやった。

「あ、ずるいずるいー。ご主人さま、わたしもー」
「はいはい。なでなで、ごろごろ」
「ごろごろ……きもちいい」
「うむ。まるでネコじゃな」
「おい、行くぞ」

 ルミナも連れ、四人で村を歩くことにした。

 ◇◇◇◇◇◇

 今日は天気も良く、日差しが暖かかった。
 雪をザクザク踏みしめながら歩き、やってきたのは図書館だ。
 農園や鍛冶場を見てもつまらないだろうし、子供のカエデが見て面白そうなところはここしかない。
 
「大きいのじゃ……こんな建物、初めて見たのじゃ」
「ここは図書館。いっぱい本があるんだ」
「にゃあ。中ではお静かにー」
「おい、入るぞ」

 ルミナがスタスタ先に行ってしまった。
 ミュアちゃんが後を追い、俺とカエデは並んで歩く。

「妖狐族の里にはこんな立派な建物はないのじゃ」
「そうなんだ。妖狐族の里ってどんなところなんだ?」
「入口は魔法で隠されている。おいしい食事処もあるし、温泉もあるのじゃ」
「…………」

 カエデは誇らしげに言う。
 図書館の中に入ると暖かく、ルミナはカバンから借りていた本を返却。新しい本を借りカバンに入れた。
 ルミナ、図書館の常連らしいな。動きがスムーズだ。

「おや、アシュト様」
「あ、お前は……アグラッド」
「正解。ちっ……」
「おい舌打ちしただろ」
「いえ。それより……これは珍しい。妖狐族の方ですか」
「やっぱり知ってるのか」
「はい。希少種族ですので」

 アグラッドはカエデに頭を下げた。

「ようこそおいでくださいました。何かお探しの本があれば」
「よしなに。その時は世話になろう」

 カエデはニコリと笑う。
 あれ、そういえばミュアちゃんがいない。

「にゃあ。ホットミルクー」
「こぼさないように」
「にゃうー」

 あ、いた。
 ドリンクコーナーでホットミルクのマグカップを受け取ってた。
 数は四つ。俺、ミュアちゃん、ルミナ、カエデの分だ。
 少し手つきが危なっかしい……手伝うか。
 そう思った瞬間───。

「にゃっ!?」
「あ!!」

 
 ミュアちゃんが転んだ。
 マグカップが宙を舞う。
 やばい。熱々のホットミルク……ミュアちゃんにかかる。
 杖を……間に合わない。

「───ふっ!!」
「え」

 すると、カエデの尾の一本が淡く光ると同時に、四つのカップが空中で静止……中身のホットミルクも凍ったように止まり、そのまま巻き戻しみたいにマグカップの中に戻った。
 マグカップはそのままフワフワ浮かび、近くのテーブル席へ。

「危機一髪じゃな」
「い、今のは……魔法?」
「そうじゃ。簡単な風魔法じゃ。物を浮かせるくらいわけはない」
「にゃう! ありがとー!」
「ぬわわっ!?」

 ミュアちゃんはカエデに思いきり抱き着いた。
 いきなりで驚いたカエデは、そのまま硬直してしまう。
 俺もカエデに感謝。ミュアちゃんが火傷するのを防いでくれた。

「俺からも。ありがとう、カエデ」
「う、うむ……たかが魔法でここまで感謝されるとは思わなかったぞ」

 カエデは困惑しつつも、どこか嬉しそうだった。
 ちなみにルミナは、我関せずでホットミルクを飲み始めた。
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