大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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妖狐族の奇病

第443話、妖狐温泉良いところ一度はおいで

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 妖狐族の里で別荘を手に入れ、自由に行き来できるように『常駐型転移魔法陣』を緑龍の村に設置、さらに緑龍の村の住人は妖狐族の里に出入り自由という『お礼』をもらった。
 いや、破格すぎるだろ……なんでも、妖狐族はルシファーと取引(柏餅や白蛇酒)しているらしく、里ではベルゼ通貨が使用できる。

 妖狐族の里には二十を超える温泉や旅館があり、お土産物屋や飲食店も数多くあった。
 これは冬だけでなく、季節を選ばない憩いの場所となった。
 ちなみに、妖狐族も緑龍の村を自由に行き来できる。なんでも、図書館や農園に興味があるとか……さらに、妖狐族の何人かが、緑龍の村で飲食店を開きたいと言い出した。

 その辺の話を詰めるため急遽ディアーナを呼んだ。
 ミュディたちは緑龍の村に帰り、俺は患者さんの回復を待つため、一日だけ宿泊を延長することにした。
 エルミナも付き合うと言ったが……どう見ても酒が目当てだったので却下した。

 そして翌日。
 患者の容体が回復したのを確認し、俺は『常駐型転移魔法陣』のテストを兼ねて緑龍の村に戻った。
 常駐型転移……ああもう長い、転移魔法陣でいいや。転移魔法陣は問題なく起動した。
 緑龍の村の中央広場に魔法陣を敷き、そこに東屋を建て看板を設置するように指示、看板には『妖狐族の里~温泉郷~』と書かれていた。

 ここまでの指示を終え、ようやく俺は家に帰った。
 薬院を開けていたから病人や怪我人が心配だったけど……妖狐族の里に報告がなかったから大丈夫みたいだ。
 さっそく家に入ると、ローレライとクララベルが出迎えてくれた。

「お兄ちゃんおかえりー!」
「うわっと……ただいま、クララベル」

 クララベルは俺に抱きついて甘える。
 頭を撫で、ローレライを見た。

「お帰りなさい。大変だったみたいね」
「ああ。でも、なんとかなったよ」
「ふふ、お礼、もらったんでしょ? 今度は私たちを連れて行ってね?」
「そうだな。妖狐の温泉はいいところだ。今度は二人を連れてくよ」
「やったー!」

 クララベルはさらに抱きついてくる。
 全く、甘えん坊のクララベルめ。可愛いじゃないか。
 すると、二階の階段からシェリーが下りてきた。

「あ、お兄ちゃん。おかえり」
「ただいま、シェリー」

 嫁の顔を見て安心したのか、俺はどっと疲れが出てきた。
 すると、いいタイミングでティーカートを押したシルメリアさんが。

「お帰りなさいませご主人様。お茶の支度が」
「ああ、ありがとう……じゃあ、ハーブティーでも貰おうかな。疲れが取れそうなスーッとしたやつ」
「かしこまりました……ミュア」
「…………にゃう」

 ちょっと違和感……あれ? ミュアちゃんのネコミミが萎れていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ローレライたちと一緒に、紅茶を楽しんだ。
 ミュディやエルミナは何だかんだで疲れたらしく、部屋でのんびり休んでいるそうだ。
 ライラちゃんやルミナも寝ているらしいな。みんなお疲れ様です。
 俺はハーブティーを飲む。

「ん、美味しい……すっきりした味で身体があったまる」

 シルメリアさんがブレンドした茶葉だそうだ。
 さすがシルメリアさん。だけど……なぜかミュアちゃんの元気がない。
 ネコミミが萎れたまま、シルメリアさんの隣に立っている。

「シェリー、父上と母上は?」
「二人ともデートしてるよ。今日は図書館デート」
「そうか。聞いてると思うけど、妖狐族の里に出入りできるようになったからさ、興味があったら行ってみるといい。温泉もあるし、飲食店もいっぱいあるぞ」
「へぇ~、面白そうね」
「私も、温泉に興味があるわ」
「甘い物もあるんでしょ? エルミナが言ってた!」

 みんな、昨日のうちに話を聞いてるらしい。
 そのとき、俺は見逃さなかった……ミュアちゃんのネコミミがぴくっと動いたのを。
 何やら沈んでいる原因は、妖狐族の里にありそうだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 とりあえず、ストレートに聞いてみることにした。
 俺は、シルメリアさんとお茶の片付けをしているミュアちゃんを呼ぶ。

「ミュアちゃん」
「にゃ……ご主人さま」
「ちょっとおいで」
「…………」

 ミュアちゃんのネコミミは萎れたままだ。
 近くに呼び寄せ、頭を撫でる……すると、気持ちよさそうにしたが、すぐにぷいっと顔を背けてしまった。
 これを見ていたシルメリアさんのネコミミがぴくっと反応する。

「ミュアちゃん、元気がないけど……どうしたの?」
「にゃうー……ご主人さま、楽しんでたー」
「え……?」

 すると、ミュアちゃんはほっぺを膨らませた。

「ライラとルミナが言ってたの……ご主人さまとカエデと一緒に、妖狐族の里で美味しい物いっぱい食べたって。わたしも行きたかったー……にゃあ」

 あ、そういうことか……つまり、ミュアちゃんは仲間はずれにされたと思ってるんだ。
 でも、二人とも遊びできたわけじゃないし……いや、言っても無駄か。結果的に、ライラちゃんたちと一緒に妖狐族の里を巡って美味しい物一杯食べたんだしな。
 俺は少しだけ考え、ミュアちゃんの頭を撫でる。

「ごめんね。ミュアちゃんも一緒に行きたかったよね」
「にゃうー……」
「…………よし!! じゃあ明日、一緒に妖狐族の里に行こうか」
「にゃう!?」
「カエデのお父さんにお酒を届けようと思ってたし。ついでに、おやつ用の柏餅を買おうと思ってたしね。散歩がてら一緒に行こうか……あ、シルメリアさんも一緒に」
「え……わ、私もですか?」
「はい。それと、ローレライとクララベルも一緒に」

 そう言うと、部屋の隅でドラゴンチェスをしていた二人がこっちを見た。
 ミュアちゃんがしょんぼりしているのを俺に任せようと離れた場所にいたんだよな。気が利く姉妹だ。

「私たちも?」
「ああ。いいだろ?」
「わたし、行きたい!」
「クララベル……わかったわ。私も行くわね」

 よし、じゃあみんなで行くか。
 お酒は届けるつもりだったし、届けた後は観光するのもいい。
 転移魔法陣が自由に使えるようになったから、住人は誰でも妖狐族の里に行ける。
 せっかくいい観光地ができたんだ。いっぱい利用しないとね。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 みんなを連れ、妖狐族の里にやってきた。

「にゃぁぁー……すごーい!」
「綺麗なところね……それに、独特のにおいがするわ」
「くんくん……お兄ちゃん、姉さま、これなんのにおい?」
「これは硫黄。温泉の匂いだよ」

 シルメリアさんにお土産のお酒を持ってもらい、俺たちは妖狐族の里を歩きだす。
 転移魔法陣の効果か、里の中には天使や悪魔、ハイエルフやエルダードワーフが多くいた。飲食店や土産物屋に多くいる……それに、里の妖狐たちも楽しそうに笑っている。
 ミュアちゃんは、里をキョロキョロ見ていた。

「ご主人さまご主人さま、かしわもち食べたいー」
「はは、ちょっと待っててね。用事を済ませちゃうから」
「にゃうー」

 フヨウさんの屋敷へ向かうと、カエデが出迎えてくれた。

「おお、アシュト殿……あ、ミュア!」
「カエデ! にゃぅぅ、久しぶり!」
「わわっ」

 ミュアちゃんはカエデに抱きついて頬ずり……か、かわいい。
 すると、フヨウさんが出てきた。

「これはこれは……お越しでしたか。迎えを出したのですが」
「いえ。今日はお土産を持ってきただけですので……」

 玄関先だったが、お土産を渡す。
 シルメリアさんが差し出した木箱を受け取ったフヨウさん。

「これは……」
「緑龍の村で作られたお酒です。先日の白蛇酒は素晴らしい物でした。なので、うちの村で作られたお酒もぜひ味わっていただきたく思い、お持ちしました」
「おお、素晴らしい。ささ、玄関先でお話するのも申し訳ないので、お上がりください」
「いえ、申し訳ございません……今日は観光を楽しもうと思いまして」
「そうでしたか……わざわざありがとうございます。ところで、案内は必要ですかな?」

 フヨウさんはにっこり笑い、カエデとミュアちゃんをチラッと見た。
 この人、やっぱりいい人だ……お言葉に甘えちゃおう。

「そうですね。ぜひお願いしたいところです」
「わかりました。ではカエデ、アシュト殿たちを案内するように」
「わかりました! さぁさぁ皆様、このカエデが妖狐族の里をご案内しましょう!」
「にゃあー!」

 ミュアちゃんの機嫌も直ったし、今日はみんなで楽しもう。

 ◇◇◇◇◇◇

 妖狐族の里は、住人の憩いの場となった。
 温泉、料理、甘味処と飽きを感じさせない里は、冬の閉鎖的な気分を吹き飛ばす。
 ハイエルフたちは温泉で汗を流し、天使や悪魔は買い物をし、ドワーフや他の種族たちはお酒を飲んで楽しんだ。
 俺も、温泉で汗を流しによく行く。
 そのたびに、カエデが出てきて俺を案内してくれる。すっかり懐かれたようでうれしいな。

 長い冬も中盤戦……今年の冬は、寒いだけじゃない暖かさをよく感じた。
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