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竜騎士とハイエルフ

第444話、ちょっとした相談

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 冬も中盤戦になり、寒さも一段と厳しくなってきた。
 毎日毎日厳しい雪が続き、ドワーフの除雪隊は朝から昼過ぎまで大忙しだ。俺は労いの言葉ではなく、『お酒』という形で除雪部隊に感謝の気持ちを伝えたら大層喜ばれた。
 さすがに毎日ではないが、定期的に酒を届けるようにしている。
 
 除雪も忙しいが、浴場も同じくらい忙しかった。
 寒いので入浴時間が増えるし、朝から晩まで浴場はフル稼働だ。おかげで、管理人のフロズキーさんが休む暇があまりない。
 だが、フロズキーさんしか浴場の湯の細かな調整ができない。
 フロズキーさんは笑って仕事をしていたが、かなり疲れているようにも見えた。

 そこで登場したのが、妖狐族の里だ。
 妖狐族の里には温泉があり、転移魔法陣で楽々行き来できる。
 さらに、俺の調査により温泉が湧いている場所によって、効能や成分が違うことがわかった。
 フヨウさんの依頼で成分をまとめ、『妖狐族の里・温泉マップ』を作ることにした。調査には時間がかかるが、これが完成すれば妖狐族の里は立派な観光地だ。
 住人が妖狐族の里の温泉を利用するようになり、フロズキーさんの負担が減ったことは素直に喜べる。

 妖狐族の里は、お酒の取引を希望した。
 里としてではなく、個人間での取引希望が多かったので、窓口を設けてディアーナや文官たちに対応してもらっている。
 さらに、緑龍の村で飲食店を開きたいという希望も出た。
 そのあたりもディアーナに任せた。春になったら飲食店を建築する予定だ。
 冬の文官はけっこう暇らしく、仕事が増えて喜んでた……まぁ、忙しいのが好きならいいか。

 妖狐族は魔法のスペシャリスト。
 だが、注目すべきはそこではない。
 妖狐族の本当にすごいところは、『料理上手』というところだった。
 里の飲食店を何度か訪れたが、どの店も料理がすごく上手だ。こんな言い方は悪いが、シルメリアさんよりも上手かもしれない。
 飲食店ができれば、村のみんなも喜ぶだろう。

 さて、厳しい冬はまだ続く……。

 ◇◇◇◇◇◇

 ある日。
 雪が深々と降る寒い朝。コートに帽子、手袋を付けた父上と母上が俺の家に来た。
 今日は、二人でデートだ。デート前に挨拶に来てくれた。

「では、行ってくる」
「行ってきます。アシュト、シェリー」
「いってらっしゃい。楽しんできてください。父上、母上」
「温泉はいいところよー、お父さん、のぼせないでね!」

 今日から一泊、父上と母上は妖狐族の里で過ごす。
 俺の別荘ではなく、妖狐族の宿に泊まって観光するそうだ。
 父上がそっと腕を出すと、母上は腕を絡める。

「狐族に上位種、いや……希少種がいたことにも驚いたが、まさか温泉に入れるとはな」
「本当に、オーベルシュタインは不思議なところね」

 二人とも驚いていた。
 俺とシェリーは笑い、二人を見送った。
 二人を見送った俺はシェリーに聞く。

「シェリー、今日の予定は?」
「もちろん訓練よ。じゃあねー」

 シェリーは着替えをしに部屋へ。
 俺も薬院へ向かい、仕事前にお茶を───。

「はぁ~い♪」
「あ、シエラ様。お久しぶりです」

 薬院のソファに、シエラ様が座っていた。
 なんか久しぶり。さっそくお茶の支度をする。

「シエラ様、いまお茶を淹れますね」
「おかまいなく~♪」

 シエラ様にリョク茶を淹れ、俺はカーフィーを淹れた。
 ソファの向かいに座り、しばしお茶を楽しむ。
 するとシエラ様が言う。

「妖狐族を助けたのね?」
「あ、はい。けっこう成り行きでしたけど……おかげで、いい温泉に入れるようになりました」
「ふふ♪ アシュトくんってば本当に『縁』を引きよせるのね。こればかりは私や魔法の力でもどうにもならない、アシュトくんが持つ『えにし』の力ね」
「え、あ、あはは……偶然ですよ」
「その偶然が、この村を作ったのよ? もっと胸を張りなさい」
「……はい」

 シエラ様、なんかお姉さんみたいだ……。
 兄はいるけど、姉がいるとしたら……シエラ様みたいな人なんだろうな。
 俺は照れ隠しでカーフィーを飲み干した。

「アシュトくん。これからもアシュトくんらしく頑張ってね♪」
「は、はい!」
「ふふ。もうちょっと大人になったら……私と結婚しましょうか?」
「え……え、えぇぇぇぇっ!?」
「ふふ♪」

 シエラ様は、いたずらっぽく微笑んだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 シエラ様が帰り、一人になった。
 まだちょっとドキドキしてる……シエラ様と結婚かぁ。
 ドレス姿のシエラ様……きっと綺麗なんだろうなぁ。

「村長、いるー?」
「うおぉぉぉぉっ!? はは、はーいっ!? なんか用事でっか!?」
「…………なに慌ててんの?」

 やってきたのは意外も意外。メージュだった。
 外来用のドアから入り、ソファにどっかり座るメージュ。
 何だかんだで三年の付き合いだ。エルミナの友人で俺が話しやすいハイエルフの一人でもある。

「なに飲む?」
「紅茶。ミルク入れて、お茶うけはクッキーで」
「はいよ」

 注文通りに出し、俺もカーフィーのお代わりを注ぐ。
 先ほどまでシエラ様が座っていた場所にメージュが座っている……なんか、メージュだとすごく安心しちゃうな。変な感じだ。
 
「で、何か用事か? またエルミナが何かやらかしたのか?」
「違う違う。その……ちょっと相談が」
「え……俺に?」
「うん」

 珍しい。いや……珍しすぎる。
 メージュが、俺に相談?
 紅茶を飲み干したメージュは、なぜかモジモジしている。

「あ、あのさ……ら、ランスローさんのことなんだけど」
「ランスロー? ランスローがどうした?」
「そ、その……あたしね、ランスローさんにお弁当作ってあげてるんだ。毎日受け取ってもらってるし、食べた弁当箱は綺麗に洗って返してくれるの」
「そ、そうなんだ……」

 お、驚くな俺……そうだ。ランスローとメージュが相思愛相って誰か言ってたな。
 まさか、お弁当を渡す仲になっているとは。

「その、お弁当ばかりじゃつまらないし……ランスローさんの趣味とか、好きなものとかあれば……」
「…………なるほど。で、なんで俺に? ルネアとか、エレインやシレーヌがいるじゃん」
「あいつらはダメ。なーんか面白がりそうだし」
「…………納得」
「それに、ランスローさんは村長の騎士でしょ? 男同士だし、村長ならさりげなく聞けるかなーって……」
「確かに……」

 俺はちょっと考えた。
 メージュとランスローか。なかなかにお似合いじゃないか。
 種族を超えたカップル……ってそれは俺もか……いいじゃん。

「メージュ、聞くのはいいけど……最終的にどうしたいんだ?」
「そ、そりゃ……村長、誰にも言わないでよ?」
「もちろん」
「あ、あたし……ランスローさんと結婚したい」
「結婚!」
「……うん。誰かをこんなに好きになったの、初めてなんだ」
「……メージュ」
「お願い。協力して」
「…………」

 こんなの、答えは決まっている。
 俺は笑顔でうなずいた。

「もちろんだ。結婚式は村の教会で盛大に祝おう!」
「ちょ、き、気が早いって!」
「あはは。とにかく、ランスローのことを調べればいいんだな?」
「う、うん。その、できれば、あたしとい村長だけの秘密にしてほしい」
「……わかった」

 こうして、俺とメージュによる、ランスロー攻略作戦が始まった。
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