288 / 511
竜騎士とハイエルフ
第444話、ちょっとした相談
しおりを挟む
冬も中盤戦になり、寒さも一段と厳しくなってきた。
毎日毎日厳しい雪が続き、ドワーフの除雪隊は朝から昼過ぎまで大忙しだ。俺は労いの言葉ではなく、『お酒』という形で除雪部隊に感謝の気持ちを伝えたら大層喜ばれた。
さすがに毎日ではないが、定期的に酒を届けるようにしている。
除雪も忙しいが、浴場も同じくらい忙しかった。
寒いので入浴時間が増えるし、朝から晩まで浴場はフル稼働だ。おかげで、管理人のフロズキーさんが休む暇があまりない。
だが、フロズキーさんしか浴場の湯の細かな調整ができない。
フロズキーさんは笑って仕事をしていたが、かなり疲れているようにも見えた。
そこで登場したのが、妖狐族の里だ。
妖狐族の里には温泉があり、転移魔法陣で楽々行き来できる。
さらに、俺の調査により温泉が湧いている場所によって、効能や成分が違うことがわかった。
フヨウさんの依頼で成分をまとめ、『妖狐族の里・温泉マップ』を作ることにした。調査には時間がかかるが、これが完成すれば妖狐族の里は立派な観光地だ。
住人が妖狐族の里の温泉を利用するようになり、フロズキーさんの負担が減ったことは素直に喜べる。
妖狐族の里は、お酒の取引を希望した。
里としてではなく、個人間での取引希望が多かったので、窓口を設けてディアーナや文官たちに対応してもらっている。
さらに、緑龍の村で飲食店を開きたいという希望も出た。
そのあたりもディアーナに任せた。春になったら飲食店を建築する予定だ。
冬の文官はけっこう暇らしく、仕事が増えて喜んでた……まぁ、忙しいのが好きならいいか。
妖狐族は魔法のスペシャリスト。
だが、注目すべきはそこではない。
妖狐族の本当にすごいところは、『料理上手』というところだった。
里の飲食店を何度か訪れたが、どの店も料理がすごく上手だ。こんな言い方は悪いが、シルメリアさんよりも上手かもしれない。
飲食店ができれば、村のみんなも喜ぶだろう。
さて、厳しい冬はまだ続く……。
◇◇◇◇◇◇
ある日。
雪が深々と降る寒い朝。コートに帽子、手袋を付けた父上と母上が俺の家に来た。
今日は、二人でデートだ。デート前に挨拶に来てくれた。
「では、行ってくる」
「行ってきます。アシュト、シェリー」
「いってらっしゃい。楽しんできてください。父上、母上」
「温泉はいいところよー、お父さん、のぼせないでね!」
今日から一泊、父上と母上は妖狐族の里で過ごす。
俺の別荘ではなく、妖狐族の宿に泊まって観光するそうだ。
父上がそっと腕を出すと、母上は腕を絡める。
「狐族に上位種、いや……希少種がいたことにも驚いたが、まさか温泉に入れるとはな」
「本当に、オーベルシュタインは不思議なところね」
二人とも驚いていた。
俺とシェリーは笑い、二人を見送った。
二人を見送った俺はシェリーに聞く。
「シェリー、今日の予定は?」
「もちろん訓練よ。じゃあねー」
シェリーは着替えをしに部屋へ。
俺も薬院へ向かい、仕事前にお茶を───。
「はぁ~い♪」
「あ、シエラ様。お久しぶりです」
薬院のソファに、シエラ様が座っていた。
なんか久しぶり。さっそくお茶の支度をする。
「シエラ様、いまお茶を淹れますね」
「おかまいなく~♪」
シエラ様にリョク茶を淹れ、俺はカーフィーを淹れた。
ソファの向かいに座り、しばしお茶を楽しむ。
するとシエラ様が言う。
「妖狐族を助けたのね?」
「あ、はい。けっこう成り行きでしたけど……おかげで、いい温泉に入れるようになりました」
「ふふ♪ アシュトくんってば本当に『縁』を引きよせるのね。こればかりは私や魔法の力でもどうにもならない、アシュトくんが持つ『縁』の力ね」
「え、あ、あはは……偶然ですよ」
「その偶然が、この村を作ったのよ? もっと胸を張りなさい」
「……はい」
シエラ様、なんかお姉さんみたいだ……。
兄はいるけど、姉がいるとしたら……シエラ様みたいな人なんだろうな。
俺は照れ隠しでカーフィーを飲み干した。
「アシュトくん。これからもアシュトくんらしく頑張ってね♪」
「は、はい!」
「ふふ。もうちょっと大人になったら……私と結婚しましょうか?」
「え……え、えぇぇぇぇっ!?」
「ふふ♪」
シエラ様は、いたずらっぽく微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
シエラ様が帰り、一人になった。
まだちょっとドキドキしてる……シエラ様と結婚かぁ。
ドレス姿のシエラ様……きっと綺麗なんだろうなぁ。
「村長、いるー?」
「うおぉぉぉぉっ!? はは、はーいっ!? なんか用事でっか!?」
「…………なに慌ててんの?」
やってきたのは意外も意外。メージュだった。
外来用のドアから入り、ソファにどっかり座るメージュ。
何だかんだで三年の付き合いだ。エルミナの友人で俺が話しやすいハイエルフの一人でもある。
「なに飲む?」
「紅茶。ミルク入れて、お茶うけはクッキーで」
「はいよ」
注文通りに出し、俺もカーフィーのお代わりを注ぐ。
先ほどまでシエラ様が座っていた場所にメージュが座っている……なんか、メージュだとすごく安心しちゃうな。変な感じだ。
「で、何か用事か? またエルミナが何かやらかしたのか?」
「違う違う。その……ちょっと相談が」
「え……俺に?」
「うん」
珍しい。いや……珍しすぎる。
メージュが、俺に相談?
紅茶を飲み干したメージュは、なぜかモジモジしている。
「あ、あのさ……ら、ランスローさんのことなんだけど」
「ランスロー? ランスローがどうした?」
「そ、その……あたしね、ランスローさんにお弁当作ってあげてるんだ。毎日受け取ってもらってるし、食べた弁当箱は綺麗に洗って返してくれるの」
「そ、そうなんだ……」
お、驚くな俺……そうだ。ランスローとメージュが相思愛相って誰か言ってたな。
まさか、お弁当を渡す仲になっているとは。
「その、お弁当ばかりじゃつまらないし……ランスローさんの趣味とか、好きなものとかあれば……」
「…………なるほど。で、なんで俺に? ルネアとか、エレインやシレーヌがいるじゃん」
「あいつらはダメ。なーんか面白がりそうだし」
「…………納得」
「それに、ランスローさんは村長の騎士でしょ? 男同士だし、村長ならさりげなく聞けるかなーって……」
「確かに……」
俺はちょっと考えた。
メージュとランスローか。なかなかにお似合いじゃないか。
種族を超えたカップル……ってそれは俺もか……いいじゃん。
「メージュ、聞くのはいいけど……最終的にどうしたいんだ?」
「そ、そりゃ……村長、誰にも言わないでよ?」
「もちろん」
「あ、あたし……ランスローさんと結婚したい」
「結婚!」
「……うん。誰かをこんなに好きになったの、初めてなんだ」
「……メージュ」
「お願い。協力して」
「…………」
こんなの、答えは決まっている。
俺は笑顔でうなずいた。
「もちろんだ。結婚式は村の教会で盛大に祝おう!」
「ちょ、き、気が早いって!」
「あはは。とにかく、ランスローのことを調べればいいんだな?」
「う、うん。その、できれば、あたしとい村長だけの秘密にしてほしい」
「……わかった」
こうして、俺とメージュによる、ランスロー攻略作戦が始まった。
毎日毎日厳しい雪が続き、ドワーフの除雪隊は朝から昼過ぎまで大忙しだ。俺は労いの言葉ではなく、『お酒』という形で除雪部隊に感謝の気持ちを伝えたら大層喜ばれた。
さすがに毎日ではないが、定期的に酒を届けるようにしている。
除雪も忙しいが、浴場も同じくらい忙しかった。
寒いので入浴時間が増えるし、朝から晩まで浴場はフル稼働だ。おかげで、管理人のフロズキーさんが休む暇があまりない。
だが、フロズキーさんしか浴場の湯の細かな調整ができない。
フロズキーさんは笑って仕事をしていたが、かなり疲れているようにも見えた。
そこで登場したのが、妖狐族の里だ。
妖狐族の里には温泉があり、転移魔法陣で楽々行き来できる。
さらに、俺の調査により温泉が湧いている場所によって、効能や成分が違うことがわかった。
フヨウさんの依頼で成分をまとめ、『妖狐族の里・温泉マップ』を作ることにした。調査には時間がかかるが、これが完成すれば妖狐族の里は立派な観光地だ。
住人が妖狐族の里の温泉を利用するようになり、フロズキーさんの負担が減ったことは素直に喜べる。
妖狐族の里は、お酒の取引を希望した。
里としてではなく、個人間での取引希望が多かったので、窓口を設けてディアーナや文官たちに対応してもらっている。
さらに、緑龍の村で飲食店を開きたいという希望も出た。
そのあたりもディアーナに任せた。春になったら飲食店を建築する予定だ。
冬の文官はけっこう暇らしく、仕事が増えて喜んでた……まぁ、忙しいのが好きならいいか。
妖狐族は魔法のスペシャリスト。
だが、注目すべきはそこではない。
妖狐族の本当にすごいところは、『料理上手』というところだった。
里の飲食店を何度か訪れたが、どの店も料理がすごく上手だ。こんな言い方は悪いが、シルメリアさんよりも上手かもしれない。
飲食店ができれば、村のみんなも喜ぶだろう。
さて、厳しい冬はまだ続く……。
◇◇◇◇◇◇
ある日。
雪が深々と降る寒い朝。コートに帽子、手袋を付けた父上と母上が俺の家に来た。
今日は、二人でデートだ。デート前に挨拶に来てくれた。
「では、行ってくる」
「行ってきます。アシュト、シェリー」
「いってらっしゃい。楽しんできてください。父上、母上」
「温泉はいいところよー、お父さん、のぼせないでね!」
今日から一泊、父上と母上は妖狐族の里で過ごす。
俺の別荘ではなく、妖狐族の宿に泊まって観光するそうだ。
父上がそっと腕を出すと、母上は腕を絡める。
「狐族に上位種、いや……希少種がいたことにも驚いたが、まさか温泉に入れるとはな」
「本当に、オーベルシュタインは不思議なところね」
二人とも驚いていた。
俺とシェリーは笑い、二人を見送った。
二人を見送った俺はシェリーに聞く。
「シェリー、今日の予定は?」
「もちろん訓練よ。じゃあねー」
シェリーは着替えをしに部屋へ。
俺も薬院へ向かい、仕事前にお茶を───。
「はぁ~い♪」
「あ、シエラ様。お久しぶりです」
薬院のソファに、シエラ様が座っていた。
なんか久しぶり。さっそくお茶の支度をする。
「シエラ様、いまお茶を淹れますね」
「おかまいなく~♪」
シエラ様にリョク茶を淹れ、俺はカーフィーを淹れた。
ソファの向かいに座り、しばしお茶を楽しむ。
するとシエラ様が言う。
「妖狐族を助けたのね?」
「あ、はい。けっこう成り行きでしたけど……おかげで、いい温泉に入れるようになりました」
「ふふ♪ アシュトくんってば本当に『縁』を引きよせるのね。こればかりは私や魔法の力でもどうにもならない、アシュトくんが持つ『縁』の力ね」
「え、あ、あはは……偶然ですよ」
「その偶然が、この村を作ったのよ? もっと胸を張りなさい」
「……はい」
シエラ様、なんかお姉さんみたいだ……。
兄はいるけど、姉がいるとしたら……シエラ様みたいな人なんだろうな。
俺は照れ隠しでカーフィーを飲み干した。
「アシュトくん。これからもアシュトくんらしく頑張ってね♪」
「は、はい!」
「ふふ。もうちょっと大人になったら……私と結婚しましょうか?」
「え……え、えぇぇぇぇっ!?」
「ふふ♪」
シエラ様は、いたずらっぽく微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
シエラ様が帰り、一人になった。
まだちょっとドキドキしてる……シエラ様と結婚かぁ。
ドレス姿のシエラ様……きっと綺麗なんだろうなぁ。
「村長、いるー?」
「うおぉぉぉぉっ!? はは、はーいっ!? なんか用事でっか!?」
「…………なに慌ててんの?」
やってきたのは意外も意外。メージュだった。
外来用のドアから入り、ソファにどっかり座るメージュ。
何だかんだで三年の付き合いだ。エルミナの友人で俺が話しやすいハイエルフの一人でもある。
「なに飲む?」
「紅茶。ミルク入れて、お茶うけはクッキーで」
「はいよ」
注文通りに出し、俺もカーフィーのお代わりを注ぐ。
先ほどまでシエラ様が座っていた場所にメージュが座っている……なんか、メージュだとすごく安心しちゃうな。変な感じだ。
「で、何か用事か? またエルミナが何かやらかしたのか?」
「違う違う。その……ちょっと相談が」
「え……俺に?」
「うん」
珍しい。いや……珍しすぎる。
メージュが、俺に相談?
紅茶を飲み干したメージュは、なぜかモジモジしている。
「あ、あのさ……ら、ランスローさんのことなんだけど」
「ランスロー? ランスローがどうした?」
「そ、その……あたしね、ランスローさんにお弁当作ってあげてるんだ。毎日受け取ってもらってるし、食べた弁当箱は綺麗に洗って返してくれるの」
「そ、そうなんだ……」
お、驚くな俺……そうだ。ランスローとメージュが相思愛相って誰か言ってたな。
まさか、お弁当を渡す仲になっているとは。
「その、お弁当ばかりじゃつまらないし……ランスローさんの趣味とか、好きなものとかあれば……」
「…………なるほど。で、なんで俺に? ルネアとか、エレインやシレーヌがいるじゃん」
「あいつらはダメ。なーんか面白がりそうだし」
「…………納得」
「それに、ランスローさんは村長の騎士でしょ? 男同士だし、村長ならさりげなく聞けるかなーって……」
「確かに……」
俺はちょっと考えた。
メージュとランスローか。なかなかにお似合いじゃないか。
種族を超えたカップル……ってそれは俺もか……いいじゃん。
「メージュ、聞くのはいいけど……最終的にどうしたいんだ?」
「そ、そりゃ……村長、誰にも言わないでよ?」
「もちろん」
「あ、あたし……ランスローさんと結婚したい」
「結婚!」
「……うん。誰かをこんなに好きになったの、初めてなんだ」
「……メージュ」
「お願い。協力して」
「…………」
こんなの、答えは決まっている。
俺は笑顔でうなずいた。
「もちろんだ。結婚式は村の教会で盛大に祝おう!」
「ちょ、き、気が早いって!」
「あはは。とにかく、ランスローのことを調べればいいんだな?」
「う、うん。その、できれば、あたしとい村長だけの秘密にしてほしい」
「……わかった」
こうして、俺とメージュによる、ランスロー攻略作戦が始まった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
24,147
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。