大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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竜騎士とハイエルフ

第448話、透き通るような氷

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「うーん……」
「どうされました?」

 竜騎士の訓練場で、鎧に杖を持ったシェリーが唸った。
 それを聞いていたのはランスローだ。騎士の剣を腰に、手には大きな突撃槍を持っている。
 シェリーは、少し気になったことをランスローに伝える。

「いえ、うちのお兄ちゃんなんですけど……なーんか怪しいというか」
「アシュト様ですか?」
「うん。最近コソコソしてるし、なにか隠してるんですよ」

 ミュディやローレライたちは気付かなかったが、妹のシェリーは気付いた。
 アシュトは隠し事がヘタではない。だが、シェリーには通用しなかった。
 シェリーが杖をくるくる回すと、相棒のアヴァロンが顔を寄せる。
 ランスローは、シェリーに言う。

「アシュト様にも、隠し事の一つや二つ、あるのでは?」
「そーだけど……でもでも、今回はメージュも絡んでると思うのよね」
「え……め、メージュ殿ですか?」
「うん。最近、二人でよく喋ってるし……お兄ちゃんは気付いてないけど、バーに誘って二人で飲んでることもあったし……浮気とかじゃないと思うけど」
「…………」
「あ、気になる?」
「…………い、いえ」
「ふふ、嘘つき」

 ランスローがメージュを気にしていることを、シェリーには気付いかれている。それに、毎日お弁当をもらっていることもだ。
 ランスローは咳ばらいをして、シェリーに聞いた。

「こほん。その、気になるのでしたら、アシュト様に伺ってみればよろしいかと」
「あー……お兄ちゃん、今日はカビの採取に出かけてるの」
「え?……護衛はどなたが?」
「さぁ? いつも通り、バルギルドさんかディアムドさんじゃないの?」
「……いえ、そのお二人は鍛冶場にいらっしゃいますが」
「え……じゃ、じゃあ、サラマンダー族とか」
「…………確認しましょう」
「あ、あたしも行く!」

 二人が確認した結果……緑龍の村でアシュトの護衛を務めることになっている種族の全員が村にいた。
 そして……なぜかメージュもいなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 メージュと二人で隠し洞窟を降りていくと……世界が変わった。

「な、なんだこれ……」
「すっごぉ……」

 一言で表すなら『透き通る世界』だ。
 壁も、岩も、地面も、何もかも透き通る氷で覆われていた。
 というか、岩も壁も地面も氷でできている。雑草みたいなのも氷でできてるし。

「九千年生きてるけど……こんな光景初めてかも」

 メージュが感動していた。
 俺も声が出ない。この神秘的な光景に心奪われていた。
 不思議と洞窟内は明るい。僅かな光が入り込み、透き通る氷が光を増幅させているのか、昼間のような明るさだ。
 
「こんな神秘的な場所なら、『氷の華』くらいありそうだ……」
「そうだね。じゃあ村長、奥に行こう」
「ああ。魔獣は?」
「……いないっぽい。けっこう奥まで続いてるけど、魔獣の鼓動は聞こえないよ」

 メージュが風を洞窟の奥へ送り込む……この魔法いいな。俺も覚えたい。
 洞窟の奥へ進んでいく俺とメージュ。

「ここ、何なんだろうな……」
「氷……ん? あれれ、ねぇ村長……これ触ってみて」
「え?」

 メージュが氷の壁や岩に触れた。
 俺も触ってみる。

「……これ、氷じゃない」
「うん。これ……こういう石? なのかな」

 透き通った鉱石、とでも言えばいいのか。
 俺はアウグストさんに見せるため、落ちている透き通った石をいくつか拾ってカバンの中に入れる。
 メージュも石を拾って弄んだ。

「これだけでもいいお土産になりそう」
「ああ。けっこう硬いし、加工すればいい彫刻ができそうだ」
「ルネアに持って帰ろっと。あの子、けっこう彫刻がうまいのよ」

 思いもよらぬお土産ができた。
 洞窟の奥へ進み、ようやく最奥へと到着した。

「「…………」」

 俺もメージュも、声が出なかった。
 そこは、『花畑』だった。
 ドーム状の空間は昼間のように明るく、足下にはたくさんの『氷の華』が咲いている。
 
「すごい……これが『氷の華』か」

 見た目は、百合のような花だ。
 だが、茎や葉は透明で花弁は氷の結晶のように見える。
 触ると、茎や葉は柔らかいが、花弁は氷のように硬かった。だが重さはなく、重みで茎が折れることはない。
 俺は『緑龍の知識書ムルシエラゴ・グリモワール』を開く。

「えーっと……『氷の華』は水さえあれば枯れることはない、永遠の華だって」
「永遠……あたしたちハイエルフにピッタリじゃん!」

 俺とメージュは、カバンからカバー付きの植木鉢を出す。
 氷の華の根を傷めないように掘り、植木鉢に移し替えた。
 俺の場合五本必要だからけっこう重い……でも、これしき。プレゼントのためなら。

「よ、よし。用事は済んだし帰ろうか」
「うん! えへへ、みんなに自慢しちゃおう」

 俺とメージュは、来た道を引き返した。

 ◇◇◇◇◇◇

 ここまでは調子がよかった。
 だが……ヤバいのはここからだった。

「…………村長、やばい」
「え?」
「……入口、なんかいる。しかもでかい」
「……え」

 洞窟の入口。
 メージュの風が何かを捕らえた。
 いつの間にか無言になり、そ~っと洞窟の入口まで歩いて行く。
 そして、見た……とんでもなくでっかい『獅子』が、洞窟の前で横になっているのを。

「~~~っ!!」
「しっ……下がるよ」

 再び、洞窟の奥へ。
 俺は地面に座り込んだ。

「な、なんだよあれ……し、獅子だよな」
「あれ、ホワイトレオだよ。凶暴な肉食の魔獣……あたしたちも冬に何度か狩りしたことあるけど、ホワイトレオは強いからなるべく避けてた」
「おいおい、あんなのが道塞いでたら帰れないぞ」
「……待つしかないかも」
「いやでも、早く帰らないと夜になる。行先は告げてないし、このままじゃ……」
「じゃあ村長、魔法でなんとかしてよ。あいつを倒す魔法とかさ」
「あ、そっか」

 と、『緑龍の知識書ムルシエラゴ・グリモワール』を開いた時だった。

『グォルルルるるるるるっ!!』
「ひっ」

 獅子の咆哮が洞窟内に響いた。
 メージュも驚き、洞窟の入口側を見る……すると、ホワイトレオの顔がにゅっと現れた。
 まさか、入ってきた……噓だろ。

「「……っっ」」

 俺とメージュは口を押え、岩と岩の隙間に身体をねじ込む。
 ホワイトレオはスンスンと鼻を鳴らし、ゆっくり洞窟内を進みだした。
 そして、俺とメージュが隠れている付近で立ち止まり……すんすん、すんすんと鼻を鳴らす。

「(……やばい)」
「(……こうなったら。村長、合図したら入口に向かって走るよ)」
「(え)」

 メージュは冷や汗を流している。
 俺もだ。
 久しぶりに、命の危機を感じていた。
 そして……ホワイトレオが顔を反らした瞬間。

「『風の刃エアエッジ』!! 村長逃げるよ!!」

 メージュが風の刃を手から放出。ホワイトレオの顔が切れて血が出た。
 同時に、震える足に力を込めて走り出す。
 入口。入口。入口……走れ俺!!

『グォォォォォォォーーーーーーッ!!』
「来たぁぁぁっ!? やばいぞメージュっ!!」
「わかってる!! 走ってぇぇぇぇっ!!」

 二人で洞窟入口まで走る。
 振り向かない。ホワイトレオの叫びが聞こえる。
 汗がめっちゃ出る。そして……俺とメージュは洞窟から飛び出した。

「どこでもいい!! 身を隠せる場所───」

 メージュが叫ぶ。
 そして……俺は見た。
 メージュのすぐ後ろに、ホワイトレオがいた。
 俺は杖を抜く。
 だが、間に合わない。
 ホワイトレオの爪が───。

「メー「『突撃槍ジャベリン』!!」───え」

 突如、上空から落ちてきた『突撃槍』が、ホワイトレオの頭に突き刺さった。
 さらに───上空から、一匹のドラゴンが急降下。鋭利な足の爪でホワイトレオの身体を引き裂き、トドメとばかりに口から炎を吐いた。

『ギャァァァァーーーーーッス!?』

 断末魔が響き、ホワイトレオは黒焦げになって死んだ。
 俺とメージュは、突然現れた何かの正体を知る。

「ら……ランスロー」
「ご無事でよかった」

 愛龍ギネヴィアから降りたランスローは、俺に向かって敬礼する。
 そして、もう一匹ドラゴンが下りてきた……シェリーだ。

「お兄ちゃん……」
「しぇ、シェリー……」
「歯、食いしばってね?」
「え───ごぶぁっ!?」

 シェリーにぶん殴られた。
 俺は吹っ飛び、地面を転がる……そして、シェリーがボロボロ泣きだした。

「馬鹿馬鹿馬鹿!! 馬鹿お兄ちゃん!! 心配かけて……うぅ」
「シェリー……ごめん」
「うぅ……ばかぁ」

 俺は立ち上がり、シェリーを抱きしめた。
 シェリーはぐすぐす泣き、俺の胸に顔をうずめる。
 そして、ランスローは。

「メージュ殿……ご無事でよかった」
「ランスローさん……ごめんなさい。あたし……」
「いいのです。理由はともかく、貴女が無事なのが何よりうれしい」
「ぅ、ぅぅ……っ」

 メージュもボロボロ泣きだし、ランスローの胸に顔をうずめる。
 
『ギャウー』
『ギャッギャ、ギャゥゥ』

 ギネヴィアとアヴァロンが何やら会話してる。

『なにしてんの?』
『邪魔しちゃダメよ』

 なんとなく、そんな風に聞こえた。
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