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竜騎士とハイエルフ
第449話、心配かけてごめんなさい
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村に戻った俺とメージュは、いろんな人に怒られた。
どうも、けっこうな騒ぎになっていたらしい。カビ採取によく行く洞窟にも行ったが俺の姿は無いし、護衛も誰も付いていない。さらにメージュも一緒にいなくなっているからさぁ大変。
居場所の心当たりもなく、大規模な捜索隊が結成されようとしたが……銀猫のミリアリアが真っ蒼になりながらすべて話した。俺とメージュの話、ミリアリアは聞いていたからな。
ミリアリアが恐れていたのは、『他言無用』の約束を破ったかららしいけど……むしろ褒めなくては。たっぷり頭を撫でてネコミミを揉み、思いっきり甘やかしてやることを誓う俺だった。
だが、それより前に越えなくてはならない試練がある。
村に戻ってきた俺は自宅へ。
そして……ミュディたちの説教を受けていた。
俺とメージュが床に座り、ミュディ、エルミナ、ローレライとクララベル、シェリーの五人が仁王立ちだ。
すると、エルミナが言う。
「で……なんで嘘ついてまでメージュと出かけてたの?」
「そ、それはその……」
言うべき、だろうなぁ……こんなタイミングで言いたくないけど。
俺はメージュと顔を合わせると、メージュはウンウン頷いた。
ここでは嘘を付くべきではない。サプライズはやめとけ。そんな風に言っているような気がした。
なので、俺は正直に話す。
「実は……『氷の華』っていう花を採りに行ったんだ」
俺は背負ったままのカバンから、五つの透明なカバー付き植木鉢を取り出す。
それを見たミュディが思わず言った。
「わぁ~……すっごく綺麗」
「ん……はい、ミュディ」
「……え?」
俺はミュディに植木鉢を渡す。
そして、みんなにも。
「エルミナ、これ」
「わ、私に?」
「ああ。シェリーも」
「……うん」
「ローレライとクララベルにも」
「あ、ありがとう……」
「むー、綺麗だけど……お兄ちゃん、危ないことしたからダメ」
「うぐ……ま、まぁその、話を聞いてくれ」
全員に『氷の華』を渡し、俺はついに白状した。
「実は、みんなを驚かせたかったんだ」
「わたしたちを?」
「ああ……俺たち、結婚して何年か経つのに、いろいろ忙しくて結婚記念日のお祝いとかもしてなかっただろ? それに、こういうプレゼントを贈ったこともないし……だから、サプライズで準備しようと、みんなに内緒にしてたんだ……ごめん」
全員、ポカンとしていた。
ああ……みんなも忘れてたのか。表情でわかったよ。
すると、エルミナがメージュに言う。
「え、じゃ、じゃあ……なんでメージュに相談したの?」
「……あたしも、ある人にプレゼント送ろうと思ってたのよ。それで村長に相談して、村長もプレゼント送るって言うから利害が一致して……プレゼントのことでこっそり話をしてたのよ」
「そ、そうだったの? 浮気はないと思ってたけど……」
「そんなことするわけないじゃん!! 村長とはただの友達!! それに、あたしの好みじゃないし」
「…………そうだぞ!」
好みじゃない。
いや、いいんだけど……なんかグサッとくるね。
すると、クララベルが抱きついてきた。
「うわっ!?」
「お兄ちゃん、ありがとう!! でも……もう危ないことしないでね?」
「……うん。わかったよ」
「えへへ……じゃあわたし、許してあげる。このお花もすっごく気に入ったよ!」
「そっか。嬉しいよ」
「うん!」
そして、ローレライが苦笑した。
「全く……これじゃ許すしかないじゃない。アシュト、ありがとう」
「ローレライ……悪かったよ」
エルミナとシェリーも、大きなため息を吐く。
「私もいいわ。それに、プレゼント嬉しいしね。ねぇシェリー」
「……あたし、一発殴ったし、この花に免じて許してあげる。でも次はないからね」
「ああ。わかってる……二人ともありがとう」
そして、ミュディ。
ミュディは『氷の華』を抱きしめ、俺に言う。
「アシュト。もう心配かけないでね……またいなくなったりしたら、私……」
「ミュディ……ごめん」
こうして、結婚記念日のプレゼントは、謝罪の道具として使ってしまった。
せめて今夜は、結婚記念日のパーティーということで、美味しい料理をいっぱい作ってもらおう。
こうして、なんとか許しをもらう俺だった。
◇◇◇◇◇◇
アシュトの家から解放されたメージュは、一人村を歩いていた。
「はぁ~……心配かけちゃったな」
聞けば、ハイエルフたちはみんな心配していたそうだ。
親友のルネアなど、捜索隊に参加すると言ってきかなかったそうだ。帰ったら怒られるのは間違いない……でも、メージュは全て受けいれるつもりだった。
それに……迷惑をかけたのはハイエルフや村の住人だけではない。
「……嫌われちゃったかな」
ランスローだ。
ホワイトレオから救ってくれた。
颯爽と現れ、命の危機に瀕していたメージュを救ってくれた。
それを思うだけで、顔が熱くなる。
「う~……やば」
ちゃんと、お礼が言いたかった。
でも……今会っても、まともに喋れないかもしれない。
背負っているカバンの中にある『氷の華』を、お礼という名目で渡してしまおうか。
本当は、これを持って告白するつもりだった。
「…………」
メージュは、ほてった顔を冷やすために、村はずれの川に来た。
この場所は、緑龍の村の隅に位置する小さな川で、人があまり来ない。
メージュは冷たい川の水で顔を洗った。
「冷たっ……でも、少し冷えたかな」
冷えた頭で冷静になれた。
やはり、告白はやめておこう。純粋なお礼の気持ちで、氷の華を───
「ここにいましたか、メージュ殿」
「え」
音も気配もなく現れたのは……ランスローだった。
いきなりだったので、メージュは固まる。
「メージュ殿、先ほどは確認できませんでしたが……お怪我はありませんか?」
「え、あ、は、はい」
「よかった。あなたに何かあったらと考えるだけで苦しいのです。こうして無事に話ができることが、こんなにも嬉しいとは」
「あ……あたしもです。その、ランスローさん……助けていただき、ありがとうございました!!」
メージュは頭を下げ、思い出したようにカバンから植木鉢を出す。
「あの、これ……受け取ってください」
「これは……なんと美しい」
「『氷の華』っていいます。ランスローさん、助けてくれたお礼にどうぞ」
「……ありがとうございます」
ランスローは植木鉢をそっと受け取る。
そして、二人は見つめあった。
一分、二分と経過……ついに、メージュが目を反らす。
「え、えっと……その、寒くなってきたので、家に帰りますね」
「メージュ殿」
「は、はい?」
ランスローは、そっと跪いてメージュの手を取った。
「メージュ殿……私と結婚して頂きたい」
「…………へ?」
「私には、あなたが必要です。私の帰るべき場所に、なって頂けないでしょうか」
「…………」
「私は、あなたと人生を歩みたい」
「…………」
「メージュ殿……」
「…………きゅう」
「え」
メージュは、ランスローの言葉を脳内で処理できず、そのまま気を失った。
慌てたランスローがメージュを薬院に運び、なぜこうなったかをアシュトに説明……目を覚ましたメージュがランスローの求婚を受け入れることになった。
春は、もうすぐそこまで来ているようだ。
どうも、けっこうな騒ぎになっていたらしい。カビ採取によく行く洞窟にも行ったが俺の姿は無いし、護衛も誰も付いていない。さらにメージュも一緒にいなくなっているからさぁ大変。
居場所の心当たりもなく、大規模な捜索隊が結成されようとしたが……銀猫のミリアリアが真っ蒼になりながらすべて話した。俺とメージュの話、ミリアリアは聞いていたからな。
ミリアリアが恐れていたのは、『他言無用』の約束を破ったかららしいけど……むしろ褒めなくては。たっぷり頭を撫でてネコミミを揉み、思いっきり甘やかしてやることを誓う俺だった。
だが、それより前に越えなくてはならない試練がある。
村に戻ってきた俺は自宅へ。
そして……ミュディたちの説教を受けていた。
俺とメージュが床に座り、ミュディ、エルミナ、ローレライとクララベル、シェリーの五人が仁王立ちだ。
すると、エルミナが言う。
「で……なんで嘘ついてまでメージュと出かけてたの?」
「そ、それはその……」
言うべき、だろうなぁ……こんなタイミングで言いたくないけど。
俺はメージュと顔を合わせると、メージュはウンウン頷いた。
ここでは嘘を付くべきではない。サプライズはやめとけ。そんな風に言っているような気がした。
なので、俺は正直に話す。
「実は……『氷の華』っていう花を採りに行ったんだ」
俺は背負ったままのカバンから、五つの透明なカバー付き植木鉢を取り出す。
それを見たミュディが思わず言った。
「わぁ~……すっごく綺麗」
「ん……はい、ミュディ」
「……え?」
俺はミュディに植木鉢を渡す。
そして、みんなにも。
「エルミナ、これ」
「わ、私に?」
「ああ。シェリーも」
「……うん」
「ローレライとクララベルにも」
「あ、ありがとう……」
「むー、綺麗だけど……お兄ちゃん、危ないことしたからダメ」
「うぐ……ま、まぁその、話を聞いてくれ」
全員に『氷の華』を渡し、俺はついに白状した。
「実は、みんなを驚かせたかったんだ」
「わたしたちを?」
「ああ……俺たち、結婚して何年か経つのに、いろいろ忙しくて結婚記念日のお祝いとかもしてなかっただろ? それに、こういうプレゼントを贈ったこともないし……だから、サプライズで準備しようと、みんなに内緒にしてたんだ……ごめん」
全員、ポカンとしていた。
ああ……みんなも忘れてたのか。表情でわかったよ。
すると、エルミナがメージュに言う。
「え、じゃ、じゃあ……なんでメージュに相談したの?」
「……あたしも、ある人にプレゼント送ろうと思ってたのよ。それで村長に相談して、村長もプレゼント送るって言うから利害が一致して……プレゼントのことでこっそり話をしてたのよ」
「そ、そうだったの? 浮気はないと思ってたけど……」
「そんなことするわけないじゃん!! 村長とはただの友達!! それに、あたしの好みじゃないし」
「…………そうだぞ!」
好みじゃない。
いや、いいんだけど……なんかグサッとくるね。
すると、クララベルが抱きついてきた。
「うわっ!?」
「お兄ちゃん、ありがとう!! でも……もう危ないことしないでね?」
「……うん。わかったよ」
「えへへ……じゃあわたし、許してあげる。このお花もすっごく気に入ったよ!」
「そっか。嬉しいよ」
「うん!」
そして、ローレライが苦笑した。
「全く……これじゃ許すしかないじゃない。アシュト、ありがとう」
「ローレライ……悪かったよ」
エルミナとシェリーも、大きなため息を吐く。
「私もいいわ。それに、プレゼント嬉しいしね。ねぇシェリー」
「……あたし、一発殴ったし、この花に免じて許してあげる。でも次はないからね」
「ああ。わかってる……二人ともありがとう」
そして、ミュディ。
ミュディは『氷の華』を抱きしめ、俺に言う。
「アシュト。もう心配かけないでね……またいなくなったりしたら、私……」
「ミュディ……ごめん」
こうして、結婚記念日のプレゼントは、謝罪の道具として使ってしまった。
せめて今夜は、結婚記念日のパーティーということで、美味しい料理をいっぱい作ってもらおう。
こうして、なんとか許しをもらう俺だった。
◇◇◇◇◇◇
アシュトの家から解放されたメージュは、一人村を歩いていた。
「はぁ~……心配かけちゃったな」
聞けば、ハイエルフたちはみんな心配していたそうだ。
親友のルネアなど、捜索隊に参加すると言ってきかなかったそうだ。帰ったら怒られるのは間違いない……でも、メージュは全て受けいれるつもりだった。
それに……迷惑をかけたのはハイエルフや村の住人だけではない。
「……嫌われちゃったかな」
ランスローだ。
ホワイトレオから救ってくれた。
颯爽と現れ、命の危機に瀕していたメージュを救ってくれた。
それを思うだけで、顔が熱くなる。
「う~……やば」
ちゃんと、お礼が言いたかった。
でも……今会っても、まともに喋れないかもしれない。
背負っているカバンの中にある『氷の華』を、お礼という名目で渡してしまおうか。
本当は、これを持って告白するつもりだった。
「…………」
メージュは、ほてった顔を冷やすために、村はずれの川に来た。
この場所は、緑龍の村の隅に位置する小さな川で、人があまり来ない。
メージュは冷たい川の水で顔を洗った。
「冷たっ……でも、少し冷えたかな」
冷えた頭で冷静になれた。
やはり、告白はやめておこう。純粋なお礼の気持ちで、氷の華を───
「ここにいましたか、メージュ殿」
「え」
音も気配もなく現れたのは……ランスローだった。
いきなりだったので、メージュは固まる。
「メージュ殿、先ほどは確認できませんでしたが……お怪我はありませんか?」
「え、あ、は、はい」
「よかった。あなたに何かあったらと考えるだけで苦しいのです。こうして無事に話ができることが、こんなにも嬉しいとは」
「あ……あたしもです。その、ランスローさん……助けていただき、ありがとうございました!!」
メージュは頭を下げ、思い出したようにカバンから植木鉢を出す。
「あの、これ……受け取ってください」
「これは……なんと美しい」
「『氷の華』っていいます。ランスローさん、助けてくれたお礼にどうぞ」
「……ありがとうございます」
ランスローは植木鉢をそっと受け取る。
そして、二人は見つめあった。
一分、二分と経過……ついに、メージュが目を反らす。
「え、えっと……その、寒くなってきたので、家に帰りますね」
「メージュ殿」
「は、はい?」
ランスローは、そっと跪いてメージュの手を取った。
「メージュ殿……私と結婚して頂きたい」
「…………へ?」
「私には、あなたが必要です。私の帰るべき場所に、なって頂けないでしょうか」
「…………」
「私は、あなたと人生を歩みたい」
「…………」
「メージュ殿……」
「…………きゅう」
「え」
メージュは、ランスローの言葉を脳内で処理できず、そのまま気を失った。
慌てたランスローがメージュを薬院に運び、なぜこうなったかをアシュトに説明……目を覚ましたメージュがランスローの求婚を受け入れることになった。
春は、もうすぐそこまで来ているようだ。
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