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春の訪れ
第451話、外は少しずつ暖かくなる
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だんだんと、雪の降る日が少なくなり、日差しも暖かくなってきた。
村の地面も一部の土が露出し、ほんの少しだけ雑草が伸びるようになってきた。
俺は薬院の実験室で、マスクをしながらスライム製ビーカーを火にかける。
「……よし。培養したカビの成分だけを抽出」
この冬、採取と培養を繰り返したカビ。
火にかけて成分を分離させ、濾過する。そして残った透明の上澄みが薬品となる。
これは通常の薬とは違う。
体内の毒素を殺す薬なのだが、薬師が扱う薬の中でも強力な部類に入る。健康な人に投与すれば、一気に体調が悪くなるくらい強い薬だ。
「これを、試験管に小分けして……よし」
試験管に注ぎ、コルクで蓋をする。
あとは、割れないように木製のスタンドに固定し、薬品用冷蔵庫に閉まっておいた。
俺はマスクを外し、窓を開けて換気する。
「ふぅ、完成。いやー苦労した……カビは冬にしか採取できないし、培養には苦労するし、みんなから白い目で見られるし……」
カビの培養ってだけでみんな嫌そうにする。
まぁ、普通の人からしたらそうだよな……シャヘル先生だったら大喜びする。まさか、緑龍の村近くに、天然のカビが採取できる洞窟がいくつもあるんだからな。
とりあえず、薬品精製が終わったのでお茶でも飲もうと診察室のソファスペースへ行くと、外来用ドアがノックされた。
「はーい」
「おう、ワシだ」
「ラードバンさん。どうしました? 怪我でも」
「いや、ちと話がある」
ラードバンさんにソファを勧め、お茶の支度をしようとしたが、ラードバンさんはすぐに用件を話し出す。
ポケットから布に包まれた包みを出して開くと、透き通った水色っぽい鉱石があった。
「アウグストから預かったモンでワシが調べたんだが……こいつはかなり特殊な鉱石じゃ」
これ、メージュと一緒に行った隠し洞窟で見つけた石だ。
お土産にと持って帰ったんだ。アウグストさんに渡したんだけど、ラードバンさんの手に渡ったようだ。
ラードバンさんは、腕を組んで唸る。
「こいつは『アブソリュートメタル』っちゅう珍しい石でな。ワシらエルダードワーフもほとんど加工したことがない伝説の鉱石じゃ」
「アブソリュートメタル?」
「ああ。マックドエルが穴倉から持ってきた文献によると、『龍脈』っちゅう大地の生命エネルギーが噴き出した場所でしか見つからんそうじゃ。こいつの特性は非常に強力な魔力を帯び、鍛えれば最高の『魔法装備』を作れるだろう」
「そ、そんなにすごいんですか?」
「うむ。で、どうする?」
「……え?」
「今言った通りじゃ。魔法装備、どんなのがいい?」
「え、いや……装備って言われても」
「ああ、村長は魔法師で武器は握らんのか」
その通り。
俺には『緑龍の杖』と『緑龍の知識書』という最強装備がある。
魔法装備って言われてもな…………あ、待てよ?
「そうだ。いいこと考えた」
◇◇◇◇◇◇
その日。俺はメージュとランスローを薬院に呼んだ。
用件はもちろん、アブソリュートメタルのことだ。
「───ってわけで、アブソリュートメタルで魔法装備が作れるんだ。結婚祝いに二人に送りたいんだけど、どんな装備がいい?」
ラードバンさん曰く、手のひらサイズの石でも二つくらいなら装備を作れるそうだ。
俺は必要ないし、ミュディたちには『氷の華』をあげたし、今回のお祝いと謝罪を込めて、メージュたちにプレゼントしよう。
すると、ランスローが。
「し、しかし。そのような高級品を」
「いや、もう決めた。ランスロー、あんまり無欲なのは駄目だぞ」
「アシュト様……ありがとうございます」
「メージュも、いいか?」
「うん。あのさ、あの洞窟のことだけど」
「あー……悪いメージュ。あそこのことはもう忘れようぜ。あんな綺麗な場所だ、あまり人を入れないほうがいい」
「……だね。実は、あたしも同じ事考えてた」
氷の華の洞窟は、自然が生み出した美だ。
知らなかったとはいえ踏み込んだが、あそこはそのままにしておくのがいい。
と、話がそれた。
「で、どうする?」
「ん~……あたし、その……えっと」
「私は……やはり、剣がいいかと」
「剣ね。メージュは?」
「…………」
メージュは赤くなり、ちらちらとランスローを見る。
俺は首を傾げたが、ランスローはメージュの視線を受け止め、微笑を浮かべてうなずいた。
「アシュト様。魔法装備ですが……その、剣はやめて『指輪』を二つ作るのは可能でしょうか?」
「指輪?……あ、大丈夫だと思う」
「では、それでお願い申し上げます」
「わかった」
ああ、そういうことね……メージュ、お揃いの指輪欲しかったのか。
メージュはランスローの手をそっと握り微笑み、ランスローも笑っていた。
「…………」
あの、そういうのは見えない場所でやって……さすがに俺も恥ずかしい。
◇◇◇◇◇◇
メージュたちが帰り、ラードバンさんに報告した。
すると、指輪はできる。さらに剣も作れるそうだ。装備だったら二つが限度だが、指輪みたいな小さな物だと四つは作れるらしい。というわけで指輪二つと剣を依頼した。
そのことを二人に報告すると喜んでいた。
ラードバンさんも、結婚指輪だと張り切ってたしな。
報告を終えて家に戻ると、リビングで本を読む子供たちがいた。
「邪魔しているぞ、村長!」
「お、カエデじゃないか」
「うむ。よしなに」
もふもふ尻尾が四本も生えてる妖狐族のお姫様カエデだ。
ミュアちゃん、ライラちゃん、マンドレイクとアルラウネ、ウッドと一緒にお絵描きをしている。絵のモデルは壁に寄りかかっているベヨーテだ。
転移魔法陣のおかげで、誰でも簡単に妖狐族の里へ行き来できる。今じゃ図書館に妖狐族が通うのは当たり前の光景になったからな。
そして、俺は気が付いた。
「あれ? カエデ……髪の色」
「む、気付いたか。そうじゃ、春が近いから色が変わり始めたのじゃ」
カエデの髪や尻尾の毛が、白から薄い茶色に変わり始めていた。
妖狐族は、季節で毛の色が変わる。なるほど、わかりやすいな。
つまり、春はもうすぐそこだ。
「村長。春になったら里で祭りがある。父上から招待状が届くと思うぞ」
「お祭りか……そうだな。緑龍の村でも新年会を開催すると思うから、こっちからも招待状を送るよ」
「なに!? 新年会……楽しみなのじゃ!!」
春は、もうすぐそこまで来ているようだった。
村の地面も一部の土が露出し、ほんの少しだけ雑草が伸びるようになってきた。
俺は薬院の実験室で、マスクをしながらスライム製ビーカーを火にかける。
「……よし。培養したカビの成分だけを抽出」
この冬、採取と培養を繰り返したカビ。
火にかけて成分を分離させ、濾過する。そして残った透明の上澄みが薬品となる。
これは通常の薬とは違う。
体内の毒素を殺す薬なのだが、薬師が扱う薬の中でも強力な部類に入る。健康な人に投与すれば、一気に体調が悪くなるくらい強い薬だ。
「これを、試験管に小分けして……よし」
試験管に注ぎ、コルクで蓋をする。
あとは、割れないように木製のスタンドに固定し、薬品用冷蔵庫に閉まっておいた。
俺はマスクを外し、窓を開けて換気する。
「ふぅ、完成。いやー苦労した……カビは冬にしか採取できないし、培養には苦労するし、みんなから白い目で見られるし……」
カビの培養ってだけでみんな嫌そうにする。
まぁ、普通の人からしたらそうだよな……シャヘル先生だったら大喜びする。まさか、緑龍の村近くに、天然のカビが採取できる洞窟がいくつもあるんだからな。
とりあえず、薬品精製が終わったのでお茶でも飲もうと診察室のソファスペースへ行くと、外来用ドアがノックされた。
「はーい」
「おう、ワシだ」
「ラードバンさん。どうしました? 怪我でも」
「いや、ちと話がある」
ラードバンさんにソファを勧め、お茶の支度をしようとしたが、ラードバンさんはすぐに用件を話し出す。
ポケットから布に包まれた包みを出して開くと、透き通った水色っぽい鉱石があった。
「アウグストから預かったモンでワシが調べたんだが……こいつはかなり特殊な鉱石じゃ」
これ、メージュと一緒に行った隠し洞窟で見つけた石だ。
お土産にと持って帰ったんだ。アウグストさんに渡したんだけど、ラードバンさんの手に渡ったようだ。
ラードバンさんは、腕を組んで唸る。
「こいつは『アブソリュートメタル』っちゅう珍しい石でな。ワシらエルダードワーフもほとんど加工したことがない伝説の鉱石じゃ」
「アブソリュートメタル?」
「ああ。マックドエルが穴倉から持ってきた文献によると、『龍脈』っちゅう大地の生命エネルギーが噴き出した場所でしか見つからんそうじゃ。こいつの特性は非常に強力な魔力を帯び、鍛えれば最高の『魔法装備』を作れるだろう」
「そ、そんなにすごいんですか?」
「うむ。で、どうする?」
「……え?」
「今言った通りじゃ。魔法装備、どんなのがいい?」
「え、いや……装備って言われても」
「ああ、村長は魔法師で武器は握らんのか」
その通り。
俺には『緑龍の杖』と『緑龍の知識書』という最強装備がある。
魔法装備って言われてもな…………あ、待てよ?
「そうだ。いいこと考えた」
◇◇◇◇◇◇
その日。俺はメージュとランスローを薬院に呼んだ。
用件はもちろん、アブソリュートメタルのことだ。
「───ってわけで、アブソリュートメタルで魔法装備が作れるんだ。結婚祝いに二人に送りたいんだけど、どんな装備がいい?」
ラードバンさん曰く、手のひらサイズの石でも二つくらいなら装備を作れるそうだ。
俺は必要ないし、ミュディたちには『氷の華』をあげたし、今回のお祝いと謝罪を込めて、メージュたちにプレゼントしよう。
すると、ランスローが。
「し、しかし。そのような高級品を」
「いや、もう決めた。ランスロー、あんまり無欲なのは駄目だぞ」
「アシュト様……ありがとうございます」
「メージュも、いいか?」
「うん。あのさ、あの洞窟のことだけど」
「あー……悪いメージュ。あそこのことはもう忘れようぜ。あんな綺麗な場所だ、あまり人を入れないほうがいい」
「……だね。実は、あたしも同じ事考えてた」
氷の華の洞窟は、自然が生み出した美だ。
知らなかったとはいえ踏み込んだが、あそこはそのままにしておくのがいい。
と、話がそれた。
「で、どうする?」
「ん~……あたし、その……えっと」
「私は……やはり、剣がいいかと」
「剣ね。メージュは?」
「…………」
メージュは赤くなり、ちらちらとランスローを見る。
俺は首を傾げたが、ランスローはメージュの視線を受け止め、微笑を浮かべてうなずいた。
「アシュト様。魔法装備ですが……その、剣はやめて『指輪』を二つ作るのは可能でしょうか?」
「指輪?……あ、大丈夫だと思う」
「では、それでお願い申し上げます」
「わかった」
ああ、そういうことね……メージュ、お揃いの指輪欲しかったのか。
メージュはランスローの手をそっと握り微笑み、ランスローも笑っていた。
「…………」
あの、そういうのは見えない場所でやって……さすがに俺も恥ずかしい。
◇◇◇◇◇◇
メージュたちが帰り、ラードバンさんに報告した。
すると、指輪はできる。さらに剣も作れるそうだ。装備だったら二つが限度だが、指輪みたいな小さな物だと四つは作れるらしい。というわけで指輪二つと剣を依頼した。
そのことを二人に報告すると喜んでいた。
ラードバンさんも、結婚指輪だと張り切ってたしな。
報告を終えて家に戻ると、リビングで本を読む子供たちがいた。
「邪魔しているぞ、村長!」
「お、カエデじゃないか」
「うむ。よしなに」
もふもふ尻尾が四本も生えてる妖狐族のお姫様カエデだ。
ミュアちゃん、ライラちゃん、マンドレイクとアルラウネ、ウッドと一緒にお絵描きをしている。絵のモデルは壁に寄りかかっているベヨーテだ。
転移魔法陣のおかげで、誰でも簡単に妖狐族の里へ行き来できる。今じゃ図書館に妖狐族が通うのは当たり前の光景になったからな。
そして、俺は気が付いた。
「あれ? カエデ……髪の色」
「む、気付いたか。そうじゃ、春が近いから色が変わり始めたのじゃ」
カエデの髪や尻尾の毛が、白から薄い茶色に変わり始めていた。
妖狐族は、季節で毛の色が変わる。なるほど、わかりやすいな。
つまり、春はもうすぐそこだ。
「村長。春になったら里で祭りがある。父上から招待状が届くと思うぞ」
「お祭りか……そうだな。緑龍の村でも新年会を開催すると思うから、こっちからも招待状を送るよ」
「なに!? 新年会……楽しみなのじゃ!!」
春は、もうすぐそこまで来ているようだった。
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