大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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春の訪れ

第452話、はりきりミュディ

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 ある朝。たまたま早く起き、外がすごく爽やかな天気だったので散歩をすることに。
 ベッドに潜り込んでいたルミナも起きたので、一緒に外へ。

「みゃう……眠いぞ」
「ほら、深呼吸深呼吸。空気が気持ちいいだろ?」
「みゃぁ~……うぅ」

 ルミナの黒いネコミミがぴこぴこっと動き、尻尾もぴーんと立つ。
 何度か顔を擦り、俺に抱き着いて頭をぐりぐりと押し付け、ようやくルミナは覚醒した。
 
「起きたぞ」
「うん。よしよし、散歩の続きだ」
「ごろごろ……おい、手を繋げ」
「はいはい」

 ルミナと手を繋いで散歩を再開。
 すると、ふわふわと飛んでいるハイピクシーのフィルがいた。
 フィルは俺の前で浮かび、可愛いらしくくるんと回る。

『おはよ、アシュト。ルミナも』
「おはよう、フィル。朝早くから珍しいな」
『うん。そろそろ春だし、お花の時期だからねー。あったかいし、お花を探すついでにお散歩してるの』
「はは、そうなのか。俺たちも朝の散歩だ。一緒に行くか?」
『うん! えへへー』

 フィルは俺の肩に座り、マナを吸う。

『ん~おいしい。やっぱりアシュトのマナは最高!』
「あはは。ありがとな……ん、ありがとうでいいのかな」

 散歩再開。
 フィルとルミナを連れ、花を探しながら歩いたり、小川沿いに歩いてキラキラ光る流れを見たり。やっぱり、朝の散歩って気持ちいいし、健康にもいい。
 すると、近くからガッシャガッシャと音が聞こえてきた……なんだ?

「おい、あれ」
「あ……竜騎士たちか。早朝訓練してるみたいだ」
『人間って重そうなの着て走るのねー』

 竜騎士、フル装備でジョギングしてる。
 俺も経験したことあるけど辛い……って、あれ?
 なんか、見覚えある人が。

「ち、父上?……なんで父上が」

 すると、先頭を走っていたランスローとゴーヴァンが俺に気付き、進路を変えてきた。
 俺の前で立ち止まり、騎士の敬礼をする。

「「おはようございます。アシュト様」」
「「「「「「「「「「おはようございます!!」」」」」」」」」」
「お、おはよう。父上も、おはようございます」
「うむ。おはよう」
「みゃう。朝からやかましい」
『うんうん。村のみんな起きちゃうよー!』
「こ、こら二人とも」

 とりあえず話題を変える。

「あの、なんで父上が?」
「ああ、身体が鈍るからな……訓練に参加させてもらっている」
「なるほど。母上は?」
「もちろん、アリューシアも知っておるよ」

 なるほど、納得。
 というか父上、鎧を着ていないからタンクトップなんだけど……なんて身体してんだ。
 五十代とは思えない筋肉から蒸気が出てる。俺、ホントにこの人の息子なのかな。
 でも、鍛えれば俺もこうなる可能性……いや、ここまではいいや。
 すると、ランスローが言った。

「アシュト様。訓練の途中ですので、これにて失礼します」
「あ、うん。頑張って……」
「はい。では」

 騎士たちはガッシャガッシャと音を立てながら去って行った。
 それを見送り、俺たちも歩きだす。

『ねぇねぇアシュト。ネズミたちから聞いたんだけど、さっきのカッコいい人、結婚するんだよね?』
「カッコいい人?……ああ、ランスローね。そうだよ」
『結婚かぁ……わたし、アシュトと結婚したのに式挙げてなーい!』
「あはは。そりゃ悪かった。じゃあ、式挙げるか?」
『ほんと!?』
「ああ。フィルは俺の奥さんだもんな」
『やったー! アシュト、大好き!』

 喜ぶフィルを見て、俺はほっこりするのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 製糸場。
 ここでは、住人の着る服や、生活用品などが作られている。
 『ミュディ・ブランド』という、ベルゼブブでトップブランドの工場でもあり、ミュディに弟子入りしようと多くの悪魔族や天使族が詰めかけていた。
 工場の改築が必要な状況なので、春になったら改築する予定だ。

 そして、この工場にはミュディの部屋がある。
 デザイナーとしてデザインするための机や資料、道具や素材が詰まった棚、休憩用のソファーや茶器まであり、工場の主であるミュディらしさが詰まった部屋でもあった。
 ここに、ミュディとメージュ、ルネア、ミュアがいた。
 メージュは下着姿で、ミュディが採寸をし、ルネアはミュアを抱っこしながらクッキーを齧っている。たまたまお茶を淹れに来たミュアをルネアが捕まえ、抱っこしているようだ。

「あ、あのさミュディ。そんなにじっくり計らなくてもいいよ~?」
「駄目!! いい? ウェディングドレスは生涯ただ一度きりの勝負服なんだよ? しっかり身体に合った物を仕立てないと!!」
「う、うん……ごめん」

 メージュは軽い気持ちで『ミュディ、あたしのウェディングドレス作って』と言ったのだが、ミュディが大張り切りした。
 図書館でハイエルフの婚姻にまつわる本を読み漁り、村中のハイエルフからハイエルフの婚姻に着るドレスの話を聞き、さらにハイエルフの里まで出向き、結婚し子供が生まれたハイエルフの話を聞いたりしていた。
 さすがのメージュも引いていたが、ミュディがあまりにも本気だったので強く言えないのである。

「ふむ、メージュちゃんの身体のサイズはバッチリ。メージュちゃん……この冬で少しお腹周りが出ちゃったね。春までまだ時間あるし、竜騎士さんの訓練に参加してシェイプアップを……」
「ちょ、ちょ、なんであたしのお腹周り知ってんの!? いや確かにちょっとだけ……」

 ルネアが、クッキーを齧りながら言う。

「メージュ、エルミナに誘われて毎日飲み会してた」
「にゃう」
「る、ルネアだってそうじゃん!!」
「わたしは太らない体質。ほれほれ、すっきりしたお腹」

 ルネアは服を捲り、お腹を見せつけた。
 白い肌で、くびれのある腰、贅肉など付いていない綺麗な腹回りだ。

「ぐ、ルネアめ……」
「にゃあ。まっしろ」
「うひゃっ!? ミュア、触っちゃ駄目」
「にゃうー」

 ここで、ミュディがこほんと咳払い。
 採寸を終え、テーブルの上に何枚もの羊皮紙を広げた。
 どれも、ドレスのデザインだ。

「いちおう、ハイエルフのみんなに聞いて、わたしなりにアレンジしてみたデザインなんだけど……メージュちゃん、何かアイデアとか希望はある?」
「す、すご……に、二十枚くらいあるけど」
「えへへ。楽しくってつい……」

 ミュアとルネアもテーブルに並んだ羊皮紙を眺めた。
 どれも素晴らしいデザインで、素人のメージュが口出ししていいのかと悩んでしまう。
 だが、ミュディが目をキラキラさせている。

「んー……」
「なんでもいいよ? メージュちゃんが好きなアクセサリーとか、好きな色とか」
「そうだねぇ……しいて言えば、指輪が好き。あとネックレスとか、色は明るい緑が好きかな」
「ふむふむ……わかった。じゃあネックレスはドワーフさんに相談してみる。ネックレスを強調させるため、胸元を少し開けた方が……」

 ミュディがブツブツ言う。
 すると、部屋のドアがノックされた。

「にゃあ。わたし出る」

 ミュアがドアを開けると、そこにいたのは……。

「失礼……ミュアちゃん!!」
「あ、おねえさん……メリルだー!!」

 雪豹族のカレラと、そのメイドで銀猫族のメリルだった。
 カレラはミュアを抱きしめ、ネコミミを揉む。

「にゃう~」
「ん~かわいい!! ねこみみもふもふ~」
「にゃあ~」
「か、カレラちゃん? 久しぶり……えっと」
「……こほん。お久しぶりですわね、ミュディさん。最近、ベルゼブブに遊びに来ないようですので、私の方から来てあげました……ん? 何をなさっているの?」

 ミュアを抱きしめたまま真面目に言うカレラ。
 ミュディ、メージュ、ルネアが見ているのが恥ずかしいのか、顔を赤くしたままだ。
 ミュディはカレラに言う。

「あのね。春になったら結婚式があるの。そのデザインについてお話してたんだけど……あ、そうだ! ねぇメージュちゃん。カレラちゃんの意見も聞いていい? カレラちゃん、すっごいデザイナーなんだよ!」
「あ、は、はい……どうぞ」
「やった! ねぇカレラちゃん、ちょっといい?」
「ふむ。ミュディさんと合作ですか……面白そうですわね。話を聞かせて下さいな」

 カレラはミュアを離し、仕事モードになる。
 ミュアは、久しぶりのメリルに抱き着いて頬をスリスリした。

「ごろごろ……メリル、久しぶり」
「ごろろ……にゃあ。お久しぶりです」
「えへへ。メリル、みんなにお茶を淹れるから手伝って!」
「はい。かしこまりました」

 メリルも、どこか嬉しそうだ。
 カレラとミュディに質問攻めされタジタジになっているメージュを眺め、ルネアはぽつりと言う。

「結婚式、すっごく派手になりそう」

 そう言って、ソファに座りクッキーをコリコリ齧った。
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